第5話 過去の事なんてもう記憶にない
中西さんと会う様になってから一ヶ月。綺麗で明るくて話をしていてもとても楽しい。今日は金曜日。渋谷のワンちゃん交番の前は人だかりだ。
午後六時半に待ち合わせしている。この時間は、俺に取っては都合の良い時間だ。
今日の会議の議事録を書き上げて何回か内容を確認した後、会議に参加した本部長に送る。
そして来週の会議予定をチェックしていつまで何をしないといけないという事を自分の予定表に書き込むと大体午後五時半を過ぎる。
前に座る金子さんが
「最近、剣崎さん明るくなりましたね。良かったです」
「いつまで引き摺っていても仕方ないですから」
「じゃあ、今度私と行きません」
「ごめん、でもそうだね」
「今日は駄目ですか?」
「この後用事が有るんだ」
「やっぱり」
俺は金子さんの意味不明な言葉を後にしながらPCとデスクの上を片付けるとオフィスを後にした。
§金子結衣
剣崎君が笠木さんに振られてから二ヶ月半。一ヶ月位は落ち込んでいたけど段々立ち直って来た。それから一ヶ月たった今、過去の事は吹っ切れた様に明るくなっている。
だからそろそろと思ったら遅かったみたいだ。社内か社外か分からないけどこれだけの人を放っておくはずがない。でも一応会える可能性は出て来た。
俺は、あれから何度か笠木さんから声を掛けられたがとにかく無視した。理由も分からずに一方的に振られ金銭目当てで同じ部の金丸に乗り替えた女なんか口を利くのも嫌になったからだ。
会社を午後五時五十分過ぎに出ると待ち合わせ場所の渋谷のワンちゃん交番前には午後六時二十分、待合わせ時刻の十分前に着く。
中西さんはいる時も有るし俺が早い時もある。
工房が渋谷駅から歩いて十分位だと言っていたから仕事都合だろう。今日も待っていると五分前に来た。
季節はもう十一月に入っている。この時間になると大分寒さを感じる。
「お待たせ」
「はい、五分待ちました」
「ふふっ、可愛い」
どういう意味だ?
今日はちょっとおしゃれな居酒屋だ。勿論個室。午後七時予約なのだが十五分前だと入れてくれる。
少し厚手の上着をお互いが脱いで壁にあるハンガーに掛けた。素敵な洋服を着ている。
「中西さん、その洋服って?」
「うん、私がデザインしたの。まだ販売前だけど。どうかな?」
「とっても似合っています。それにとても素敵です」
「ふふっ、ありがとう。剣崎さんにそう言われるととっても嬉しいわ」
メニューを見ていると店員が来ておしぼりと水の入ったグラスを置いた。直ぐに注文をした。寒くなっても最初は生中だ。
それからおひたしやお刺身それに焼き鳥だ。一通り注文が終わると少々お待ちくださいと言って個室を出て行った。ドアではなく障子だ。
「剣崎さん、始めて会ってからもう一ヶ月が過ぎましたね」
「そうですね。あっという間でした」
「今日の約束覚えています?」
「勿論」
そう、今日の渋谷は一次会当たる。二次会は彼女のマンションで開こうという事になっている。
俺だって子供じゃない。意味は分かる彼女が俺をその様に思ってくれるのはとっても嬉しい。
だから、お酒はほどほどにしている。一時間程そこで飲んだ後、彼女のマンション行った。
渋谷から東横線に乗って中目黒で降りた。彼女の案内で十分程歩くと七階建てのマンションに着いた。
セキュリティはしっかりしていてマンションの入口でカードキーをかざすとエレベータに乗る前にもカードキーをかざす事になっている。
「へーっ、普通のディンプルキーじゃないんだ」
「あれだと合鍵作られる可能性があるからカードキーのこのマンションを選んだの」
ディンプルキーだって何億通りのパターンがある。早々に合鍵は作れないが絶対はない。でもカードによる電子キーは流石に合鍵という訳には行かない。凄いな。
エレベータで五階まで行って降りると一番角の部屋の前に来た。ここはカードキーとディンプルキーの二重キーだ。俺のマンションと比較できない。
ガチャ、ガチャと二度ほど音がした後に
「入って」
彼女が先に入った後、俺が入った。短い廊下の後、キッチンとリビングダイニングが有って他に部屋が二つある。女性の匂いが一杯する。
「広いですね」
「うん、一部屋は荷物置き見たいになってしまっているけど。これに上着を掛けて」
そう言ってハンガーを渡してくれた。
手洗いとうがいをする為に洗面所に案内された。女性一人だという事が良く分かる。男一人の俺の部屋とは大違いだ。
エアコンを入れた後、中西さんは
「つまみとワインを出すからテーブルに座って」
「ありがとうございます」
「固いなぁ、もう」
笑いながら冷蔵庫からチーズやハムそれにバケットを薄く切って大皿に盛って来た。
それをテーブルに置くと今度は食器棚からワイングラスを二つ取り出してから冷蔵庫から赤ワインを出した。
スクリューキャップじゃなくてコルクだ。器用にコルクを抜くとテーブルにワイングラスと一緒に持って来て俺の反対側に座るとワイングラスに半分ほど注いだ。そして
「我が家にようこそ」
「はい、お邪魔します」
「ふふっ、面白い」
カチンとはせずに少しだけ口に含むととても素敵な香りと味が舌に乗った。
「美味しい」
「今日の為に買っておいたビンテージ物よ」
「凄いです」
二杯目になると彼女は
「剣崎君、私ね。デザイナーの会社を人間関係で辞めたと言ったでしょ。実は社内で好きな人が出来て…。こんな話聞いてくれる?」
「勿論です」
「相手の人も私を好きだと言って付き合う様になったんだけど、その人社長のお嬢さんともお付き合いしていた事が分かったの。完全に二股されていた。
当然社内では公開しなかったけど、自然と漏れてしまって…。それで私が社長のお嬢さんからその人を横取りしようとしているって噂が流れて。
相手の人が社長のお嬢さんと付き合っているなんて知らなかったし、それなら別れると言ったんだけど、時遅しで社長に呼ばれて…」
「酷い」
「私の事呆れた?」
「絶対にそんな事無い。もし俺が相手の男ならその社長のお嬢さんと縁を切ってでも中西さんと付き合う。会社が否定するなら一緒に辞めて他で仕事する」
「ふふっ、凄いなぁ剣崎さんは」
「だって本当の気持ちだから」
中西さんは三杯目を飲み終わると急に俺の隣に座って
「今日は帰らなくて良いんだよね」
「はい」
「じゃあ、シャワーを浴びて来る」
それだけ言うとお風呂場に消えてしまった。まあ、俺もそのつもりで来たからいいか。
§中西花音
私には手の届かない人だと思っていた。さっきもあんな事言ったから呆れて帰ってしまうと思った。でも彼は私の期待していた事を話してくれた。だから今日は…。
俺もシャワーを浴びた。タオル借りて体を拭いたけど女性の匂いが一杯ついている。
着替えも無いので体にタオルを巻いてそのままリビングに行くと彼女はグラスに氷と少しのウィスキー入れて俺に渡して来た。
「これを飲んだら、ねっ」
それを二口で飲むと手を引かれてベッドルームに連れて行かれた。そしてタオルを巻いたままベッドに横になると
「後はお願い」
そう言って目を閉じた。ゆっくりと口付けをするとウィスキーの甘い芳香が漂う口の中に舌を入れて来た。激しくは無いがお互いの舌が相手を確かめる様絡みついて来る。
それをしながら彼女のタオルを剥がすと外見では分からなかった豊満は胸が現れた。
後はゆっくりと優しく口付けをしながら彼女の大切な所まで持って行くと入念に口付けをしてあげた。
さっきから彼女の喘ぎ声が凄い。十分に準備が出来たと思った俺は、ゆっくりと腰を鎮めると彼女の喘ぎ声が更に大きくなった。
そして
「もっと、もっと激しく」
前の時は優しくしていたけど今の言葉で激しく攻めた。色々な体位もしてあげた。何度も行かせた。俺も限界点が来ると
「我慢出来ない」
「今日は大丈夫だから」
§中西花音
熱い、とっても熱い彼のものが入って来る。嬉しい。やっと結ばれる事が出来た。
息を切らしながら横になると彼女は口付けを求めて来た。そして終わったばかりの俺自身を口の中に入れてまた元気にさせた。
三回が終わった所で二人共目を閉じた。
目が開いた、何時だろう。時計が無いので分からない。でも隣には中西さんがまだ目を閉じていた。
彼女を起こさない様に静かにベッドを降りてスマホの時計を見るとまだ午前七時前だ。習慣で目が覚めたようだ。
もう一度寝室に戻ってベッドに横になると彼女が目を開けて口付けをして来た。今度は舌は入れて来ない。そして離れると
「ねえ、私の事花音って呼んで」
「いいよ、花音」
「じゃあ、私はあなたを俊樹って呼ぶね」
「うん」
そして朝からもう一戦した。こちらも結構激しかった。彼女は濃い目が好きな様だ。
午前十時になり
「一度起きようか。シャワーも浴びたいし」
「そうだな」
何故か一緒にシャワーを浴びる事になったのだが、花音は俺の体を見ると
「凄ーい。何か運動していたの?」
「運動って訳じゃ無いけど小学校の頃から空手を習っていた」
「何段とか持っているの?」
「日本空手道連盟公認で四段」
「へーっ、凄ーい。だからあんなに激しかったんだ。嬉しい」
何故かここでももう一戦してしまった。帰ったのは翌日日曜日の昼過ぎだった。流石にちょっと疲れた。今日の稽古は休もう。
§中西花音
彼なら私のパートナーに相応しい。まだまだ先の事だけどいずれはお父様とお母様に紹介しよう。彼なら許して貰えるはず。
―――――
書き始めは皆様の☆☆☆が投稿意欲のエネルギーになります。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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