ホムンクルスの恋人
黒須えぐる
第1話 魔術師 マーリン
昔々、ある森の奥深くに、一人の魔術師が住んでいた。
魔術師の名はマーリンと言い、性別は男だ。人間でいうところの65歳くらいの見た目だ。年齢は三百歳。
マーリンは、ちょうど魔術師になるための修行を終えたのが、人間でいうところの65歳だった。それから魔術の上達のおかげで年を取らずにそのままの外見で魔術師として生きていくことになった。
マーリンは自らの年老いた外見を、いつも不服に思っていた。
鏡を見るたびに溜息をつき「もっと若く美しいときに、魔術を極めていたら」と思っていた。
マーリンは男であるが、宝石やドレスのような華やかに身を飾るアイテムが好みだった。
普段は全身真っ黒で、頭の先から足首まで覆われたフード付きのワンピースを着ている。それを三着所持しており、杖を一振りすると、どこからか石鹸と洗濯板が現れ、勝手に洗濯し、井戸水ですすぐと外にある木と木の間に設置されたロープに黒のワンピースがひとりでに干されてゆく。
森や川に採取をしに行ったり、それから町をふらついたりする時には、全身黒ずくめになるこのワンピースを着ていた。その方が魔術師らしく、黒であるがゆえに目立たないと考えていた。
しかし、本来の服装の趣味は女性的だったので、町でドレスや宝石を購入したり、山奥の遺体から盗んだり、訳あって殺人した場合に盗んだりしたアクセサリーに可愛らしい服が、壁一面はあるであろうクローゼットと抱え上げられないくらいの大きさの宝石箱に溢れるくらいに収納されている。
マーリンの恋愛対象は男性だ。最もこの年齢になると、恋愛の情の感覚はとうに忘れてしまっている。二百歳を超えたあたりから、恋愛感情という感覚が薄れてきて、今はとっくに消失してしまったかのようだった。それでも、そうなる前は、人間の男であったり同じ魔術師の男であったり、狩人の男であったりと、相手の身分は色々だったけれど、それなりに情を交わした恋愛をしてきた。
(恋愛なんぞ、今となってはどうでもいいわい。しかし、困ったことに、この老いぼれた容姿では、美しいアイテムで着飾ったとしても、ちっとも楽しくないわい。少しばかり昔は、わしだって見目麗しい美男子魔術師だったというのに……)
マーリンは真っ赤なドレスに身を包み、ダイヤのネックレスとイヤリングで着飾った己の姿をこれまたダイヤで周囲を縁取った全身鏡に写す。
そこには皺だらけでたるんだ顔と、耳のあたりまである白髪、少しばかり腰が曲がって情けない印象を与える、すっかり老け込んだ翁が映る。
マーリンは深くため息をついた。そして、若かりし自分の姿、金髪青目の見目麗しかった頃の自分を思い出す。金髪は腰あたりまで伸ばしていて、ドレスも宝石もよく似合った。どう見ても、その姿は女性にしか見えなかった。
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