第43話 特別剣術指南役
俺が天を仰いで無言の抗議をしている間にも、カズサは楽しそうに次々と物事を決めていく。
「おい、セレスティア! こいつの部屋、私の執務室の隣にしておけ! いつでも呼び出せるようにな!」
「団長! ですから、それは職権乱用です! シン殿にはパーティーメンバーだって……!」
「ああ? ならパーティーごとこっちに住まわせりゃ良いだろ。そこのチビも、変な研究者もまとめて面倒見てやる。問題ねぇ!」
カズサは豪快に笑い飛ばし、俺の肩を再び強く叩いた。
アリサはセレスティアの後ろでチビと言われたことにショックを受けている。
一方のエヴァは、俺たちのやり取りなどを意にも介さず、先ほどの模擬戦のデータを熱心に測定器に打ち込んでいた。
「面白い……実に面白いぞ。あの団長の爆発的な筋運動に対し、シン・バーデンの反応速度は神経伝達の限界を超えている。やはり、あの予知能力的な知覚スキルが関係しているのは間違いないが、それだけではあの的確なカウンターは説明がつかん……」
俺はこの混沌とした状況の中心で、一つ深く息を吐き出した。
神様との記憶を取り戻し、戦う覚悟は決めた。
だが、それはそれとして、面倒なことを面倒に思うのは当然だ。
「カズサ団長。一つ訂正させてもらう」
俺がはっきりとした口調で言うと、カズサは片眉を吊り上げた。
「あん?」
「専属護衛とやらは御免被る。俺はあんたの世話係になるために王都に来たんじゃない。〈黒蛇の揺り籠〉を叩き潰すためだ」
「……へぇ」
カズサは感心そうな声を上げた。
「ただし。特別指南役、という立場は利用させてもらう。この騎士団が本気で奴らと戦うつもりなら、今の実力なら少々心許ない」
その言葉にカズサの笑みが消えた。
練兵場に集う騎士たちの間に緊張が走った。
彼女たちのプライドを真正面から否定する言葉だからな。
当然だ。
数人の女騎士たちが侮辱されたとばかりに色めき立った。
「なんだと、貴様……!」
「団長に勝ったからといって、我ら白薔薇騎士団を侮らないでください!」
殺気立った騎士たちをカズサが片手を上げて制した。
彼女の瞳は、先ほどまでの獰猛な光とは違う、俯瞰した指導者のものに変わっていた。
「……面白い。そこまで言うからには、お前、この全員を満足させる自信があるんだろうな?」
「満足させるつもりはない。ただ、死なないための戦い方を教えるだけだ。あんたの戦い方は強者をさらに強くするが、弱者を死地に追いやることにも繋がる」
俺の言葉にカズサは目を細めた。
四十三年間、俺が底辺冒険者として培ってきた死なないための立ち回り。
自分より強者に立ち向かうときの戦い方。
戦闘において、才能だけではどうにも出来ないことがある。
命を賭けた戦場において、生き残る術を知ることはとても重要だ。
俺はそれを教えようというのだ。
「……セレスティア」
「は、はい!」
「こいつの言う通りだ。シン・バーデンを本日付で王立白薔薇騎士団の特別剣術指南役に任命する。身分は客員として最高位の待遇を与えろ。こいつのパーティーメンバーたちにも、騎士団宿舎の来賓用の特別棟を手配しろ。異論は認めん」
カズサの鶴の一声にセレスティアは一瞬ためらったが、結局深く頷いた。
「……分かりました。直ちに手配いたします」
こうして俺の王都での新しい肩書きが、また一つ増えてしまったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。