第10話 日常

「ねぇ、カナちゃん!レイくんに男友達紹介してもらえるようにお願いしてくれた?」


休み時間、千奈が佳苗の元にきて聞いてきた。


「気が向いたらね?」


「ええっ!?早く夏休み来ちゃうよ!?」


「今年で夏休み終わるわけじゃあるまいし来年もあるんだから来年、頑張れ。どれだけ彼氏と夏を過ごしたいだか」


莉奈が呆れたように言う。

そんなことを気にせず佳苗に迫ってくる。


「休み前にはお願いね!」


「(あ〜あ、一晩寝たら夏終わらないかな)」


「どしたの佳苗、疲れているように見えるけどなんかあった?」


心配そうに佳苗の顔を覗き込む莉奈。


「そんなことないよ、もしかしたら夏バテかも」


「じゃあスタミナ付けに肉食べに行こうよ!」


「最後の夏に向けて痩せるとか言ってなかった?」


「いや、言ったけど……思ったより痩せちゃってお父さんに心配されているんだよね。もう少し脂肪をつけないと」


「千奈のお父様は過保護ですからね」


と、俺は楽しそうに話している三人を横目にトイレから帰ってきた俺は自分の席に座った。


「みんな、何話しているの?」


満面な笑顔の向井が三人の和に入っていった。その向井をみて榊原が皮肉を漏らす。


「太りにくいミクに話すのはなんか癪ぅ」


「なんか知らない間に私、ディスられてない!?」


「悪口じゃないよ、ただの事実だよ」


淡々という榊原になにか釈然としなそうにしている向井。

しかし、すぐに気持ちを切り替えたように笑顔になった。


「佳苗ちゃんの彼氏の写真見せて」


「はいよ」


宮城がこうなることを予想してたように俺と榊原のツーショット写真を表示する。


「いや、私の許可無く見せるないでよ」


榊原の抗議の虚しく俺とのツーショット写真が向井の目に入ってしまった。

俺も一瞬焦るが正体がバレるはずがないのでスルーする。


「ねぇ、どうミク?この顔、めっちゃ真希のタイプなの……どしたの、ミク?黙っちゃって」


「へぇ〜、ふ〜ん、へぇ〜」


「何その宙ぶらりんなリアクションは?」


底なしに明るい向井が写真を見た途端、心ここに在らずみたいな態度を取っていた。


「もしかしてぇ……実はミクの好きな人だったりして…⋯って、そんなわけないよね」


「こ、この人が佳苗ちゃんの彼氏ね…………」


こちらを見てなにか考え込んでいる。

もしかして、バレたわけじゃないよな?

しかし、それは数秒の出来事で向井は何事もないように佳苗の方を見てニヤニヤしていた。


「佳苗ちゃんってば、照れちゃて可愛いよ!それに彼氏さん、カッコイイね、スマホの待ち受けにしたいくらい」


「からかわないでよ」


少し居心地が悪そうに榊原が言う。


「へー、ミクがそんなに気に入るなんて珍しい。ホントは佳苗の彼氏を狙ってるんじゃないの?」


「え〜、千奈ちゃんじゃあるまいし」


「まぁね?」


なぜか、佐藤は自慢げな表情をしている。

自慢出来ることじゃないぞ?

そんな佐藤に三人は呆れ顔をしている。


「アタシの話はいいから肉を食べに行く話でもしてて、今日はパスで」


「あれ?佳苗ちゃん来ないの?」


「ごめん、今日、バイトの面接なんだー」


「どーしたの、急に?」


「夏休みに向けてお金貯めて置こうと思って」


「そうだね、千奈の小遣いヤバいしバイトしようかな」


「(ふふ…………この前のレンタル代で全財産が尽きたとは口が裂けても言えない)」


「 (アイツ、さてはレンタル代で金なくなったな)」


事情知っているこちらとしてはあんな分かりやすいやつはそうそういないだろうと思いながら今日も妹が作ってくれた弁当を食べる。

理由はどうであれバイトすることはいいことだ。例え、それが友達に見栄を張って金を使い尽くしたやつでもだ。


「みんな、大変だねぇ」


「お嬢様育ちがなんか言ってる」


「手に入らないものを言ってても仕方がないでしょ。私たちは庶民は地道に稼ぐしかないの」


「あれ?千奈がまともなこと言ってる」


宮城がそう言うと心外そうに伊勢島は反論する。


「いやいやいや、千奈はまだ、常識がある方だから!りっちゃんよりは常識ある方だから」


いつもやかましい女子グループの雑談を聞きながら食事をしていると、ふと視線を感じる。

顔を上げると向井と目が合う。


「ふふふふ」


「(なんだ?今の気色悪い笑みは……………悪寒を感じるんだが気のせいか?)」


俺に向けていた気もするが気のせいだ!そうに違いない。というか、俺に向けられていたものではあって欲しくない。

俺は弁当を食べて教室を出ていった。


向かった先は図書室。

俺は本を片手にイスに座る。

静かで誰にも邪魔されない空間。

こいつさえいなければ。


「先輩!ここ、分からないですけど」


目の前に現れたのは図書室には似つかないギャルっぽい金髪女。

そう、こいつは一年の沖田おきた七海ななみ。俺が働いている塾の教え子であり、学校ではなにかとウザ絡みしてくる後輩だ。


「おい、七海………小鳥遊先輩に教えを|乞(こ)う前に自分で考えなさい」


その後ろでこのギャル女とは正反対な制服をきちんと着こなした男が立っていた。

こいつは坂田さかた秀一しゅういち

七海とは幼なじみらしく、いつも行動を共にしている。ちなみにこいつも塾の教え子だ。


「確かに秀一の言い分も一理あるな。俺に聞いてるだけじゃ考える力が鍛えられないし、俺は本を読みたいから本当に分からない時だけ教えてくれ」


俺はそう言い、本を開く。

さてさて、この本の続き気になっていたんだよな。


「え〜いけず良いじゃん、付きっきりに教えてくれていても」


「分からないところがあるなら出来る限り俺が教えるから」


秀一……お前が教えるなら最初からそうしてくれ。

俺、いらないじゃんと少し拗ねたのは冗談として本に意識を集中する。


キーンコーンカーンコーン


と予鈴がなった。


時計を見ると授業の五分前だったので俺は読みかけの本を本棚に戻した。


ふたりも勉強道具を片している。


「ふたりとも先に教室に戻るよ」


「先輩も片付け手伝ってよ」


「おい、バカ!教えて貰っている立場でそんなこと簡単に言えるな!」


「お前たち、ほんと仲良いな。後、秀一、図書室では静かに」


俺はそう言い残し、この場を立ち去った。

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