第7話 俺の性格は最悪。

「いやー、結構話し込んじゃったね」


「途中から小鳥遊くんと関係ない話になっちゃったけど」


「俺も楽しかったから気にしないで」


俺たちは文字どうり帰路に着いている。

久しぶりに人とこんなに話したのでドッと疲れが込み上げるがそれを表情に出さないようにする。ここで失敗したら元も子もない。


「じゃあ私らはそろそろ帰ろうかな」


宮城が突拍子にそんなことを言う。

それに対して『なんで?』というニュアンスを含めた声を榊原が漏らす。


「えっ?」


「そうだね。あとは二人でデートとか楽しみな!せっかくの休みなんだから」


「あんまり邪魔するのは悪いからさ。それにまだ夜は長いですし?」


二人がからかうように言うので榊原が照れたような表情をする。


「ま、でもいい人そうでよかった。また遊ぼう?」


「チナも楽しかったよ!今度は友達を連れてきてね!や・く・そ・く……だよ?」


「あはは………約束するよ。今日はありがと」


どうやらここで解散するらしい。


「あ、待って。最後にツーショット撮らせて?このあと、ミクと合流して見せてあげると約束しているの」


「えーヤダ!恥ずかしい」


「そんなこと言ってると、チナがレイくん取っちゃうぞ?」


ほんと佐藤って肉食系女子の代表って性格しているな。


「こいつ、五割は本気だから気をつけなよ?ほら、さっさと並ぶ」


俺は強引に並ばされ、腕と腕がくっついている。


「こら、腕くらい組んだら?」


「ん………」


長いこと一緒に話したせいか、最初に比べるとだいぶ落ち着いたようで、少し頬を赤らめながら俺の腕を肘でつついてくる。

仕事は最後までまっとうしなければと思い、俺が腕を差し出すと、軽くしがみついて来た。


「(こいつ、近くで見るとそこそこ可愛いな)」


教室ではあまり人の顔をよく見なかったが、一緒にいるふたりに負けず劣らずの美少女だ。


「はい、チーズ」


カシャ


榊原なら俺に金を払わなくても彼氏は作れるだろと思いながらツーショットの撮影を終え、離れる。


「じゃあね!」


「小鳥遊くんもおつかれー」


佐藤と宮城が帰り、榊原とふたり残される。


「はぁぁぁぁぁ〜〜〜〜っ!疲れたぁ…………」


「お疲れ様」


俺は労いの言葉をかける。


「その……ありがとうね。おかげでなんとかなった」


「それはよかった」


さすがに俺も慣れないことの連続でそろそろ限界だ。レンタルの時間もちょうど終わるし、これなら紅葉くれはの面会に間に合いそうだ。

もう取り繕う必要は無いな。


「それでは今日の料金を頂けますか?」


「あ、はい………」


鞄から財布を取り出し、三万円を差し出してくる。


「確かに……ご利用ありがとうございます」


俺は最後に満面の笑顔でそう言った。

かなり疲れはするが短時間でこの報酬は破格だ。クラスメイトからお金をもらうのは少し気が引けるがこれは正当な対価なので受け取っておく。

一方、財布を覗きながら涙目になっている榊原。まぁ、学生にこの額は厳しいのは分かる。これに懲りたら変な見栄を張らないことた。


「えっと、いろいろと助かりました」


「いえ、仕事ですから」


そう言い残すと俺は急いで病院に向かう。


「あの……今日、本当に助かったんで、もし、よかったらお礼でも……アレ?」


「ちょっと待って!」


そう言ってなぜか榊原が俺を引き止める。


「な、なんですか?」


「な、なんで急にどっか行っちゃうの?」


正直に理由を話すほど仲良くないし、『病院に行く』とか言ったら変な勘ぐりをされてしまう可能性がある。俺はあまりに自身の家庭事情は知られたくない。

俺は適当な理由を口にした。


「普通に帰ろうと」


「待ってよ!このあとお礼を兼ねてお茶でも出来たら思って………」


なんだ、こいつ?まだ恋人ごっこがしたいのか?

俺は当然断る。


「いえ、結構です」


「ええっ!?」


俺の変わりように驚きを隠せないようだ。


「まだ、なにか?あいにく、今日は延長料金を頂いてもお付き合い出来ないので」


「そういうのじゃなくて!」


ああ、そういうことか……もうプライベートでお茶したいってことか……。

しょうがない、もう少し辛辣に断ろう。

もう仕事外だし、客扱いする必要はないだろうしね。


「いいか?さっきまでのは全部仕事だ。もう料金を受け取り、契約が終わった以上、お前に付き合う義理は当然ない」


「それは分かっているけど、なにもまだ彼氏のフリしてもらいたいわけじゃないの?ただ、アタシはあなたにお礼をしたくて…………ていうか、急に当たりが強くなってない!」


なにか勘違いしているようなので一応言っておく。


「さっきのは全部演技だ。お前が払った報酬の対価でもある。だから礼なんて不要だ、受け取れない」


「なによ、そんな屁理屈言わなくてもいいでしょ!人の好意は素直に受け取っておくものよ!」


俺は早く病院に行けないイラつきと友達になんであんな嘘をつくこいつにイラついていたので思わず冷たい言葉を投げかけてしまう。


「金以外要らない。とにかく仕事以外でお前に付き合うつもりはない、分かったなら帰れ」


それにこれ以上、関わらないのはこいつのためでもある。仮に偽物でも俺を彼氏と紹介してしまった以上いろいろと設定を盛り込んだあとでクラスメイト陰キャ野郎とバレるのは避けたいだろう。


「……だと、思ったのに」


「なんだ、はっきり言ってくれ」


「いい人だと思ったのに」


「それはどうも」


俺がいい人?ふふふ、笑わせるな。

俺は性格がねじ曲がっているんだよ。

榊原が悔しそうな顔をして呟いた。


「全部お金のためだなんて」


その一言が俺の耳に入ってつい熱くなってしまう。


「友達に見栄張って……自分のために友達に嘘ついて、今の俺とお前は何が違うんだ?」


「っ!?そ、そんな言い方をしなくてもいいじゃん!アタシにはアタシの都合があるの!」


こいつ、本当に幸せだなと思わず思ってしまう。そんな大した都合があるわけではないことは何となくわかる。

だって、こいつからは俺たちとは同じ匂いがしないから。母親がいて、父親がいて、もしかしたら兄弟がいるかもしれない。

そんな普通の家庭の人間だ。

こんな幸せなやつだからこそ俺は言葉を強くしてしまった。

これは完全に八つ当たりだ。


「それはこっちのセリフだ。わかったのなら、さっさと失せろ。それがお互いのためだ」


「そうね、アタシもそう思う」


ようやく俺という人間を理解してくれたかと思い、俺は軽蔑けいべつの表情を向ける榊原に背を向けた。

クッソ、余計なことを口走ったな。だけど、榊原みたいに自分のための嘘をつく奴は俺は嫌いだ。特にあのふたりがいい奴だからこそどうでもいい嘘をつく榊原を許せなかった。

こんなことを思うなんて俺らしくもないな。

少し後悔しつつも、改札を通り抜けようとすると、腕を掴まれた。


「それでも!今日はどうもありがとう!もう二度と会わないと思うからお礼だけは言いたかったの!じゃあバイバイ!バカ!アホ!マヌケ」


そう言って去ったかと思えば、改札に抜ける前に最後に振り返り威嚇してきた。

俺は呆気にとられた。

感謝したいのか罵りたいのかどっちなんだ?

今のでどっと疲れたな……紅葉との面会どうしよう。

俺は少し病院に行くのが億劫おっくうになってるのだった。

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