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神港 零

第1話 プロローグ

「ねぇ、みんなは夏休みどうする?」


「もう遊ぶことを考えているのかよ。てか、宿題早く終わらすことを考えたら?」


と、俺の席の後ろで女子たちが話をしている。

それ自体はいつもの光景だ。

俺は突っ伏しながら佐藤千奈さとうちな宮城みやぎ莉奈りなの会話を盗み聞きしている。

何も取り柄がなく、友達がいない陰キャボッチの自分にはこんな会話出来る人がいないし、寝たフリをして、周りと関わらない方が楽だ。


「宿題はもちろんするよ?でもさー、人間息抜き大事じゃん。休み中、ず〜っと勉強出来るならやってるってーの!」


「じゃあ、私はプール行きたい、暑いし。あ、海でもいいよ、佳苗かなえも行くよね」


「いいじゃん、いこー」


莉奈の問いかけに榊原さかきばら佳苗が反応する。


「いいけど、このメンツだけで行くの寂しくない?」


「はっ、千奈は私だけでは不満と言うのか?」


莉奈が少し不機嫌そうに千奈のことを睨みつける。


「違うよ、なんで男子がいないの!?せっかくの夏に女子だけでプールはヤダぁ!」


「なぁに?また振られたの?」


佳苗は呆れたように言う。

その物言いに対して真希が抗議する。


「振られたんじゃなく降ったんです〜。まったく身の程を知りなさいよね!喋ったことすらない陰キャに告白されても無理だっての!」


おい、お前?今、なんて言った?

全国の恋する陰キャ男子に謝れ!

俺は千奈が発した言葉に対して心の中でツッコミを入れる。


「あの子は陰キャじゃないと思うけどな。千奈、見た目が暗いから陰キャって決めつけるなよ?」


莉奈がじっと目で千奈を見てくる。


「そんなことよりカナちゃんは最近どうなの?どうせ彼氏いるでしょ?」


「それは千奈ちゃんとは違くて一途だしね」


「ぐはっ、自分で言うか、なんかこの余裕ムカつく!リナちゃんは?」


「私?私は………ひ・み・つ」


なぜか、女子たちは謎の彼氏いるマウントを取り始めた。


「揃いも揃ってぇ…………ぐぬぬぬ、じゃあカナちゃんの彼氏に男友達紹介してもらってよ」


「えー、ヤダよ。千奈ちゃんの好み面倒くさいもん」


「面倒くさいって言われたぁ、ひっどー。てかさ、カナちゃんの彼氏ってどんな人?他クラスの男子?それとも歳上?」


「えっと………ふふっ、な・い・しょ」


「そんなに話したくないの?はっ!?まさかカナちゃんの彼氏って」


「禁断の恋」


「そんなんじゃないし、フツーの人だから」


「じゃあ今度紹介して」


「エッ!!」


莉奈がそう言うと佳苗の顔がみるみる青くなる。どうかしたのか?


「カナちゃん、どうかした?」


「ううん、なにも?ちょっと喉が詰まってて…………でもりっちゃんがそんな事を言うの珍しくない?どしたの?」


「んー、私も普通にそう言うには興味はあるっていうか。仲良くなっとけばプールとか誘えるじゃん?フリーの男は面倒くさそうだけど彼女持ちの彼氏なら別にいいやって感じなんだよね」


「うへへ、チナは彼女持ちでも大歓迎ー」


気持ち悪い笑みを浮かべながら言った。


「このビッチが!」


俺は恋バナで妙に盛り上がっていたので割って入りづらかったが女子たちの話も一区切りした所で顔を上げて嫌味まじりなことを言う。


「あのしゃべってないで弁当でも食べたら?昼休み終わるよ」


「あっ、そうだね。お昼にしよ、千奈ちゃん、りっちゃん」


そう言うと女子たちは席に戻って三人で弁当を食べ始める。

あの三人の名前ってなんだっけ?

佐藤と宮城そして榊原って事は分かっているんだがイマイチ名前と顔が一致しない。

俺は気を取り直して鞄から弁当を取りだす。

今日も彩りとバランスが取れた弁当に感謝しつつ、手を合わせる。


「いただきます」


「その弁当、可愛いね」


「あ?ああ………そうだな」


急に話しかけられて驚く。

それでも、俺にわざわざ話しかけてくる物好きな奴はひとりしか居ないことを思い出す。


「なんか用か?向井むかい。おまえの顔を見ていると腹が立つ」


「理不尽だなぁ。ヒドイぞっ、小鳥遊たかなしくん?たまにはそのぼさぼさな髪を整えて眼鏡も外してみなよ!」


「⋯⋯ほっとけ、こちとら好きで根暗やってんだ、ほっとけ」


こいつは向井未来みくる

中学から同じで何かと俺に話しかけてくるので名前をなんとなく覚えた。

いくら、俺が名前と顔を覚えるのが苦手でもさすがにいつものように話しているとイヤでも覚えてしまう。


「お弁当、作ってもらったの?」


「ああ、妹にね」


「そっか、仲が良さそうだね」


そう言い残すとなぜか満足げに、気色悪い笑みを残し、さっきの女子グループに混ざっていく。


「ああもう、ミクってばどこに行ってたの?」


「ん?お手洗いだよ」


「お昼のトイレは必ず一緒にって私、言ったよね!」


「もう莉奈ちゃん、ご飯食べている人もいるんだから大きな声で言わないの」


未来は呆れたように少し怒ったように言った。その言葉に対して千奈が違う世界の住人を見る目で未来を見る。


「うわ出たわね、優等生!アンタの近くにいると浄化されるから、アッチ行きなさいよ!しっし」


「えー、チーちゃん、ヒドい」


軽い口調で未来が言う。


「そうだ、今度、佳苗が彼氏紹介してくれるってよ。ミクも来る?」


「ええっ!?佳苗ちゃんに彼氏!?なにそれ詳しく」


初耳だったのか、未来が佳苗に詰め寄る。


「うわぁ〜めっちゃ目きらきらしている。ちょっとミク、近いってば!」


「なに、意外と未来も興味津々なの。恋バナ」


「私も乙女ですもん。当たり前じゃないですか」


未来がそんな事を言うと男子たちがザワつく。こいつは頭も良くて容姿が整っていて男子人気がすごいらしく告白されたことが何度もあるらしい。

俺にはこいつのどこがいいのか、理解に苦しむがな。

すると、莉奈が男子たちにすごい剣幕で釘を刺す。


「おい、男子!ミクは私のものだ、誰にも渡さぬ!散れ、蜘蛛のようにな」


「もう〜大げさだよ」


そんな楽観的な未来に佳苗がため息を吐く。


「ミクは自分の人気がわかってなさすぎ」


「えーでも、彼氏いないけど」


「「いるわけないでしょ」」


千奈と莉奈が声を揃えて言う。


「言ってること違くない?」


「だって、ミクには好きな人が居るんでしょ」


「そうそう。本当は私が彼氏になりたいところだけど」


初耳だな、こいつみたいなのに本当に好きな奴が居るのか?

俺はそんな疑問を持つ。


「本当はってなんか未練がましい言い方だな、まぁ、好きな人がいなくても莉奈ちゃんはないけど………」


「なんか振られたんだけど」


「じゃあ、私も好き」


「佳苗ちゃんは迷うなぁ」


「佳苗は彼氏いるでしょ!」


莉奈のツッコミが炸裂した。

俺は未来の方をチラッと見てこう思う。

何故こんな人気者の陽キャ女子が話しかけてくるのか?俺はこいつの心理がよく分からない。

今はそんなことよりも弁当がうまい。

幸せだな。これで今日一日もがんばれる。

俺はそう思い、残りの授業に励んだ。

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