葬儀

小さな葬儀だったが、会社関係の人間が全員席についても、半分も埋まっていなかった。


親族席の一番前に、一度挨拶をしたことのある御両親が座っている。


咲子は松山とのことを、家族に話していたんだろうか・・・いかにも田舎のおじさんおばさんといった感じの二人だったが、会場の後ろの席から見える背中は、あまりに小さい。


咲子は一人っ子だったから、両親の悲しみも相当だろう。


いや一人っ子だろうが二人っ子だろうが子供が亡くなった悲しさに変わりはないだろうが、二人から一人になるのと、一人っきりの子供がいなくなるのでは、意味が違う。


跡継あとつぎも居なくなってしまった。


横を見ると安藤さんと森崎室長は、葬儀が始まる前に、もはや涙をハンカチで押さえている。


祭壇のかなり目立つところに、場違いに立派な花が飾られている。


人は来なくてもそういうところは主張してくる。


松山は、自分の気がどんどん滅入っていくのを感じた。



 来るときは東武佐野線とうぶさのせん佐野駅さのえきからタクシーだった森崎を、太田駅おおたえきまで送る。


佐野市内から太田駅に行くには、場所にもよるが、国道50号を通り足利あしかがを抜けるか、国道293号を通り、やはり足利を抜けるのが普通。


走り慣れているなら、293ニーキューサンを使うほうがいい。


国道と言っても片側1車線の田舎道で、地形に合わせて緩やかに蛇行しながらどこまでも続く感じ・・・


佐野の奥にある、石灰の採掘場からやってくるダンプやトラックが、前をふさぐことはあるが、それ以外渋滞らしい渋滞は起こることがない。


いつも自分の車のエンジン音を聞いて走っている。


ロードスターにしては太い排気音が薄い幌布ほろぬのを通して常に室内に響いている。


森崎は、蛍光灯の古い街灯が、点々とあるだけの外の暗がりを黙って眺めていた。


真っ黒な山並みの上の空が、それに比べてやや青みがかって明るい。


まるで地の底を走っているように感じる。


日が落ちると湿度が上がり国道上にうすいもやがかかった。


それが丁度、佐野と足利を分けるあたり・・・越床こしどこトンネルを抜けると、サーっとフロントウインドウが曇った。


地形のせいだろうが、越床峠こしどことうげを境に急に湿度が変わる。


周辺の土地に比べて、足利は雨も多い。


急に視界が悪くなり、緩いカーブの下り坂を惰性だせいで走っていくと、もともと足元のゆるいロードスターの接地が薄れ、若干の緊張が走る。


ドライバーの生理としては、アクセルを踏んでグリップを確かめる。


こもったエンジン音が響く。



 足利市内で花を買い、咲子が死んだ高架下の駐車場に着いた時には、午後7時半過ぎだった。


ヘッドライトが照らす、コンクリートの柱の前には車はなく、誰が供えたのか小さな花束と、カルピスウオーターのペットボトルが置いてあった。


咲子は普段ウーロン茶をよく飲んでいたが、たまにカルピスウォーターを飲んでいることがあった。


炭酸は苦手で、甘い飲み物といえば、ミルクティーかそれだった。


咲子をよく知った人間が供えたのが分る。


 「その柱に当たって死んだらしいよ」そう言った松山を、振り向きざま無言で見た後、コンクリートの柱をずーっと上の方まで見上げていく。


何を思っているかは判らないが、森崎は暫くそのまま動かずにいた。


ふわっと風が吹いて森崎の足元を油っこい空気が流れる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る