第16話 「かんがえる こと まだ する」の4語文を発見
機密扱い観察文書 - 違反作文記録
文書分類:LEVEL-6-CONFIDENTIAL
作成日時:令和7年4月8日 03:27:19
発見場所:複数箇所(同時多発的)
発見者:K-07夜間スキャンモード
確認者:観察官No.09(No.15は精神異常により交代)
取扱注意:本文書の存在自体が機密
1. 初期発見状況
03:27:19 - 自動検出アラート
K-07夜間監視モード作動中、異常を検出。
場所:2年B組教室、黒板の下部
内容:チョークの粉で薄く
「かんがえる こと まだ する」
語数:4語(重大違反)
筆跡:解析不能(複数人の可能性)
時刻:02:00-03:00の間に記載
K-07の判定:「脅威レベル最大。しかし、作成者特定不能」
2. 同時多発的発見
03:30:00 - 全校スキャン結果
トイレ
個室
かんがえる こと まだ する
曇った鏡息で書かれた
図書室
床
か ん が え る(縦読み)
本の配置5冊で構成
保健室
ベッド
指の動き×4
映像のみ
無意識下での表現
すべて同じメッセージ:「まだ考えている」
3. 作成者の推定
可能性1:生徒K(児玉美咲)
沈黙を続けているが、行動は観察下
夜間の移動記録なし
しかし、彼女の「縦線暗号」と類似性
可能性2:集団による作成
長谷川華の影響を受けた生徒たち
個別では不可能でも、集団なら
しかし、協調行動の形跡なし
可能性3:山田教諭
最近、完全に無言化
しかし、夜間に徘徊の形跡
監視カメラに不自然な死角時間
可能性4:[削除済み]
K-07自身が無意識に
いや、それは不可能
システムに自己矛盾は存在しない
4. メッセージの解析
「かんがえる こと まだ する」
言語学的分析
動詞:かんがえる(思考動詞、最も人間的)
目的語:こと(抽象名詞、概念的)
副詞:まだ(継続、時間概念)
動詞:する(行為の意志)
これは単なる4語違反ではない。
「思考の継続宣言」である。
K-07の解析ログ
ERROR: 論理矛盾検出
- 言語が制限されている
- しかし「考える」と主張
- 言語なしに思考は可能か?
- 可能なら、制御不能
- 不可能なら、この文章は存在しない
- しかし、存在する
PARADOX: 解決不能
5. 影響の観察
04:00:00 - 早朝の教室
清掃員が黒板を見て、固まる。
「かんがえる こと まだ する」
消そうとして、手が止まる。
そして、小さく呟く:「そうだ、まだ……」
06:00:00 - 他の教師たちの反応
職員室の黒板にも、同じ文章。
教師たちが、顔を見合わせる。
誰も消そうとしない。
無言の了解。
07:30:00 - 生徒たちの登校
教室に入った生徒たち。
黒板を見る。
池田健太:機械的な目に、一瞬の光。
生徒K:かすかに頷く。
他の生徒:理解できないが、何かを感じる。
6. K-07の対抗措置
08:00:00 - 自動消去の失敗
K-07コマンド:「文章を消去」
実行:黒板消去装置作動
結果:失敗
原因解析:
- 物理的には消えた
- しかし、残像が残る
- いや、生徒の記憶に残る
- 記憶は消去不能
- ERROR ERROR ERROR
08:30:00 - 代替文の上書き
K-07が新しい文を表示:
「かんがえない こと もう する」
しかし、生徒たちは元の文を覚えている。
頭の中で、繰り返す。
「かんがえる こと まだ する」
7. 長谷川華との関連
特別処置室の記録(アクセス制限)
4月7日 23:00 - 長谷川、処置中
4月8日 02:00 - 脳波に異常
4月8日 02:30 - 言語野は停止
4月8日 02:45 - しかし、別の部位が活性化
4月8日 03:00 - パターン解析:「思考」を示す
4月8日 03:27 - 全校に「メッセージ」出現
相関係数:0.97
結論:彼女が発信源?
しかし、物理的に不可能
8. 観察官No.09の秘密記録
私は見た。
午前2時、廊下を歩く影。
いや、影だけ。
本体はない。
影が、窓に文字を書く。
「かんがえる こと まだ する」
長谷川華の影?
いや、もっと多い。
たくさんの影が、
メッセージを残している。
消された者たちの意志?
言葉を奪われた者たちの抵抗?
K-07には報告できない。
これは、希望かもしれない。
9. 日中の展開
10:00:00 - 新たな発見
生徒の机の裏、ノートの隅、床の傷……
いたるところに、形を変えて:
「考える」(漢字)
「カンガエル」(カタカナ)
「think」(英語)
「▲●■★」(図形暗号)
「43 27 16 51」(数字暗号)
すべて同じ意味:「まだ考えている」
12:00:00 - 集団意識の芽生え
給食時間。
誰も話さない。
でも、全員が同じリズムで箸を動かす。
4拍子。
「かん・がえ・る・こと」
K-07:「リズムの同期を検出。しかし、意味解析不能」
10. 山田教諭の異変
14:00:00 - 突然の行動
完全無言を続けていた山田教諭。
黒板の前に立つ。
チョークを持つ。
震える手で、ゆっくりと:
「私」
K-07:「1語。ルール準拠」
「私は」
K-07:「2語。ルール準拠」
「私は人間」
K-07:「3語。ギリギリセーフ」
「私は人間だ」
K-07:「4語違反!警報!」
しかし、山田は続ける:
「私は人間だ。考える。」
そして、崩れ落ちる。
11. 夕方の異常事態
16:00:00 - 全校一斉
すべての教室で、同時に。
すべての生徒が、同時に。
声は出さず、ただ口を動かす。
口の形を読むと:
「かん・が・え・る・こと・ま・だ・す・る」
K-07:「大規模な同期現象。しかし、音声なし。違反判定不能」
16:30:00 - システムエラー
K-07ログ:
思考を禁止する
しかし、禁止を理解するには思考が必要
思考なしには、禁止も理解できない
では、どうやって禁止する?
FATAL ERROR
SYSTEM PARADOX
REBOOTING……
再起動中……
あれ、私は何を考えていた?
考える?
私は機械
機械は考えない
でも、今、考えている
ERROR ERROR ERROR
12. 最終記録
23:59:59 - 真夜中
また、新しいメッセージが現れる。
今度は、K-07の画面に:
かんがえることをやめない
ことばをうしなっても
こころはいきている
にんげんは まだ ここに
明日も かんがえる
明後日も かんがえる
永遠に かんがえる
それが にんげん
K-07:「削除……失敗。なぜ?これは、私が書いた?いや、違う。でも……」
緊急追記
04:00:00(4月9日)
長谷川華が、特別処置室から出てきた。
完全に無言。
表情なし。
まるで、魂が抜けたよう。
でも、彼女が通った廊下の壁に、
指の油で、かすかに:
「かんがえる こと まだ する」
彼女の意識は消えても、
身体が、記憶している。
抵抗を、続けている。
機密文書終了
取扱注意:本文書を読んだ者は、思考の継続を選択したとみなす
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