第8話 私の幼馴染
ㅤ今日も光はかわいい。
ㅤ昼休み、一緒の席でお弁当を食べながら、毎日、毎時間、毎分思っているようなことを改めて感じる。
ㅤ桜色でふわふわボブカットの髪も、他の子と比べてすごく小柄で華奢な体も、くりくりで大きな目も全てが愛らしい。あーもう、なんでこんなに尊い生き物なんだろうこの子。同じ世界に生まれたことで森羅万象に感謝を伝えなければならない。
「...心ちゃん?」
「んー?」
「こっち見すぎじゃないかな...?それに、パンも全然食べてないみたいだけど...」
ㅤそのつぶらな瞳をこちらに向けて、光が私のことを心配してくれる。かわいいうえに気配りも出来るなんて、なんていい子なんだろう...
「ちょ、ちょっと、心ちゃ...」
「おっと、ごめんごめん」
ㅤいつの間にか光の頭に手が伸びてしまっていたみたいだ。いやー困っちゃうなぁ、だって無意識下のことさから、対策できないんだもん。仕方ない仕方ない。
「心の心、光でいっぱい。」
「あは、なにそれダジャレ?」
「事実。」
「二人は幼馴染なんでしたっけ?」
「そーだよー、幼稚園から同じ。」
「幼稚園の頃は心ちゃんの方が小さかったんだよ〜」
ㅤ昔のことを無い胸を張ってそんな風に言う光。そう、昔は光の方が大きかったね...そして今でも...そうだ、昔の話でもしちゃおうかな?
「私たちが初めて会った時の話でもする?」
「こ、心ちゃんが良いなら、良いよ。」
「気になります!」
「もう5回は聞いた。」
ㅤ光はちょっとだけ顔を赤くする。恥ずかしがり屋さんだなぁ、もう。なんか一人異を唱える不届き者がいた気がするけど、たぶん気のせいだ。
「そう、あれは幼稚園に入園してまだ間もない頃...」
〜
ㅤむかーしむかし、あるところに、森野 心という子がおりました。
ㅤその子は周りの子たちよりも少しばかり小さくて、非力で不器用だったので、よく置き去りにされたり、避けられたりすることがありました。
ㅤある日、砂場で遊んでいると、3人程の女子に囲まれて、「ここはわたしたちであそぶの、でていって」と言われてしまいました。
ㅤでも、この子はその言葉が理解できず、そのまま返事もせずに砂場で遊び続けて、その子たちに砂をかけられたり、頭をぶたれたりしました。
ㅤそんな時、大きな影がその内の1人を覆いました。見上げると、そこには腰に両手をあてて険しい顔をしていて、それでもなお天使と見間違えるほどにかわいい、桜色の髪をした髪の少女が立っていました。
ㅤピンク髪の子は周りの子に大きな声で叱りました。「いじめちゃだめでしょ!」と、決して暴力を振るわず、けれど諭すように瞳は鋭く光らせて、いじめっ子を退けました。
ㅤわけもわからず泣いていた心に手を伸ばしたその子は、光と名乗りました。
ㅤそれからずっと、私を守ってくれた大きな背中を追いかけて今に至るのです。
「...あはは、もうその背中もこんなに小さくなっちゃったけどね。」
「そんなことないよ。光の背中は小さくなんかなってない、今もあの頃みたいに大きくて、立派な背中だよ。」
「感動的ですね...!」
「5回は飽きる。」
ㅤ美月からのムスッとした視線がちょっと癪だけど気にしない気にしない。
「なんだか昔のことを知らない人に話すのって、ちょっと恥ずかしいね?」
「私はいくらでも話したいけどなー、光の可愛いところとか。」
「もう...そんなこと言われても何も出ないよ、どーせ私はこんな小さな体で、心ちゃんから見たらちんちくりんだし。」
ㅤあらら、ちょっと身長のこととか可愛いとか言い過ぎちゃって拗ねちゃったかな。でも...光が可愛いのは事実だし、本人は小さくなっちゃったって言ってるけど...
ㅤ...光、その背中はね。私を助けてくれたあの日からずっと...
ㅤ私の毎日を、暖かく照らしてるんだよ。
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