第11話
「ま、負けた……」
体育祭から帰宅後。
俺は思わずため息をついた。
つい、愛歌の誘惑に負けてしまい、キスしそうになってしまった。
おかげで道中、愛歌から散々、揶揄われてしまった。
「……愛歌は俺のこと、好きじゃないのに」
俺だけが愛歌のことが好きみたいなこの状況は、とても悔しい。
愛歌を振り向かせたい。
相思相愛になりたい。
……何より、愛歌の心が他の男に向いている現状が腹立たしい。
「スキンシップじゃ勝てないな」
考えてみると、スキンシップは愛歌の土俵だ。
愛歌は世界一の美少女で、スタイルだって抜群だ。
あんなに可愛い女の子に迫られたら、仮に好きじゃなくても好きになってしまうだろう。
一方で俺の肉体に女の子を骨抜きにするような魅力があるとは思えない。
体ではなく、心で勝負するべきだ。
そう考えると……。
「プレゼント、かな」
そろそろ誕生日だし。
愛歌が思わず俺に「キュン」としてしまうようなものを贈ろう!
しかし問題は何を贈るかだ。
女心なんてわからないしな……。
素敵な彼氏が欲しい。
私、天沢小百合は常日頃、思っていた。
少女漫画のヒロインのような恋愛を……とまではいかないが、カッコイイ恋人と学園生活を送りたい。
年頃の女の子であれば、誰でも一度は考えることだと思う。
私もそんな普通の女の子らしく、恋愛をしていたのだけれど……。
トラブルに巻き込まれてしまい、転校することになった。
そして転校先の街で……出会った。
整った顔立ちの、一人の少年に。
不運なことに電車で痴漢されていた時、助けてもらった。
名前は鷹羽奏汰。
彼は背が高く、顔立ちも整っていて……要するにイケメンだった。
めっちゃタイプの顔だ。
そして転校初日、彼とすぐに再会した。
なんと、同じクラスだったのだ!
しかも隣の席!
運命的だ。
ラブでコメディな日常が始まりそうな展開に、私は思わず胸が高鳴った。
こういうの、こういうのがしたかった!
と思ったのだが、残念ながら彼には先約がいた。
そのお相手の女の子は、超美少女だった。
金髪碧眼にモデルみたいに長い手足、お人形のように整った顔立ち、少しだけ気の強そうな瞳。
こんな可愛い女の子、この世にいるんだなと思った。
どう考えても勝てない。
そもそも私は恋愛がしたいだけだ。
鷹羽君じゃないといけない理由はないんだし、ここは回避して、別のカッコいい男の子を探した方が堅実的だ。
もうトラブルは嫌だし。
でもさぁ……。
君たち、イチャイチャし過ぎでは?
学校で堂々とチュッチュするし。
体育祭では公衆の面前でラブラブするし。
見ているだけで口の中が砂糖でジャリジャリしそうなほどのイチャイチャっぷりだ。
そんな校内一のラブラブオシドリ夫婦の片割れである鷹羽君から、ある日メールが届いた。
それは何と、デートのお誘いだった。
……いや、物を一緒に買うだけだけどね。
「ごめん、天沢。少し遅れた」
約束の時間より十分ほど遅れて、鷹羽君は現れた。
真面目でキチっとしているイメージがあったので、遅刻するのは少し意外だった。
「愛歌に見つかっちゃってさ。何の用事かと、根堀葉掘り聞かれて。撒くのに時間が掛かった」
鷹羽君は言い訳するようにそういった。
そうかぁ、姫宮さんに見つかっちゃったかぁ。
まあ、意中の男の子がおしゃれして外出しているところを見かけたら気になるのは当然かもしれないけど……。
「もしかしてだけど、私に会うって言ってないよね?」
不安になった私は慌てて鷹羽君に確認する。
私が姫宮さんの立場なら、私と鷹羽君が二人で出かけると聞いたら浮気を疑う。
それがきっかけで学校一のおしどり夫婦が破局したら、私の責任は重大だ。
「天沢は人の恋人を奪う女」と周囲から誤解されてしまう。
もう、恋愛関係のトラブルは懲り懲りだ。
「その辺りは上手く誤魔化したから安心してくれ」
「そ、そうなの。ならいいけど」
本当だろうか? 少し心配になってきた。
「とりあえず、茶でもしばきながら話をしよう。行きたい店とか、ある?」
「えーっと、特にないけど。あまりこの辺りのこと、知らないし」
「じゃあ、いつも行くところにしよう」
鷹羽君はそう言うとスタスタと歩き始めた。
行き着いた先はお洒落な雰囲気の喫茶店だった。
何というか、“女の子が好みそうなお店”だ。
きっと姫宮さんとよく来ているのだろう。
バカップルめ。
適当に飲み物を頼んでから、私は鷹羽君に尋ねる。
「えっと……それで、プレゼントの相談だっけ?」
相談内容は「愛歌にプレゼントを贈りたいが、女心がわからないから、天沢の意見が欲しい」だったはずだ。
幼馴染である鷹羽君の方がよっぽど姫宮さんの気持ちは熟知していると思う気もするけど。
「あぁ。愛歌の誕生日が近くてさ」
「あ、そうなんだ。何日?」
「六月十日だ」
「あと一週間後かぁ。……ちなみに鷹羽君の誕生日は?」
せっかくなので聞いておくことにする。
鷹羽君にはお世話になっているし、彼に何か贈りたい。
「六月十日だ」
「……同じ日ってこと?」
「そうだけど」
「う、運命的だね……」
もしかして、前世では双子で、禁断の恋とかしてたのだろうか?
異世界で世界でも救ってきたんじゃないかと思うほどの運命力だ。
「そ、それと……実は、その、これは言いふらさないで欲しいんだけどさ」
「うん」
鷹羽君が真剣な表情になった。
きっと、プライベートでセンシティブな相談だ。
私は身構えるが……。
「実は俺、愛歌のことが……その、好きなんだ」
「は、はぁ……?」
知ってますけど……?
というか、お二人は付き合ってるよね?
転校生の私でも、初日で分かったけど。
クラスどころか、学校中のみんなが知っていると思うけど。
「それを踏まえた上で……愛歌を振り向かせられるような物を贈りたいんだ」
「へぇー……?」
姫宮さんを振り向かせられるような物……?
意味がわからない。
振り向くも何も、向かい合ってラブラブしてたじゃん。
「喧嘩でもしたの?」
「いや、してないけど」
「……じゃあ、振り向かせるって、どういうこと?」
「それは……愛歌に俺のことを好きになってもらいたいなって」
鷹羽君は恥ずかしそうに目を逸らしながら言った。
ちょっと可愛い反応だ。
今の表情を写真で撮れれば、学校の“鷹羽君のファン”に高値で売れたことだろう。
しかし今はそれどころではない。
「二人って、付き合ってるんじゃないの?」
「……まだ付き合ってない」
「キスしてたけど」
「い、いや、まだキスできてないから……」
「は、はぁ……?」
そうだったんだ……。
いや、でもそれを抜きにしても壁ドンしてたし、抱き合ってたし、ラブラブに見えたけど。
「それに愛歌には好きな人がいるらしい」
「……?」
いや、それは鷹羽君のことでしょ。
姫宮さん、鷹羽君と話す時だけ女の顔になるし。
「そういうわけで、サプライズプレゼントで愛歌の心を掴みたいんだ」
「な、なるほど……? つまり姫宮さんが思わず、キュンとしちゃうような物を贈りたいってことでいい?」
「そう! そういうことだ!!」
過程も背景も全く理解不能だけど、とりあえず目的は理解した。
姫宮さんなら、よっぽど変な物じゃない限り、喜んでくれると思うけど。
「例年は何を贈ってたの?」
「去年はタオルセットを渡した」
「なるほど」
ちょっと高級な感じのタオルセットか。
自分では買わないけど、もらったら嬉しい感じのやつだ。
悪くないと思う。
キュンとは……しないけど。
「今年は何を贈るとか、考えてるの?」
「やっぱり、アクセサリーとかがいいかなって」
「おぉー、いいんじゃない?」
お洒落なアクセサリーを好きな人から渡されたら、嬉しくなっちゃうかも。
姫宮さんがどう思うかわからないけど、私だったら嬉しい。
「候補は何を考えてるの?」
「指輪とか……」
「ゆ、指輪!?」
「……ダメか?」
「だ、ダメじゃないけど……ちょっと重いかな」
婚約指輪じゃないんだからさ……。
いや、でも二人の仲の良さなら婚約指輪を贈っても問題ない気がしてきた。
「じゃあ、どういうのがいいんだ?」
「うーん。学校に付けていっても、問題ない感じのがいいんじゃない? あまり高すぎない感じで」
「というと?」
「ブレスレットとか」
「なるほど」
鷹羽君はうんうんと真剣に頷きながらメモを取り始めた。
……私をからかっているわけではなさそうだ。
「ちなみにアクセサリー以外だと、どんなものが考えられる?」
「うーん、そうだなぁ……ん?」
私は悩みながらふと、窓の外を見た。
すると、青い瞳と目があった。
金髪の少女は慌てた様子で物陰に隠れた。
……姫宮さんじゃん!
「どうした?」
「あー、うん。何でもないよ。あはは……」
撒けてないじゃん!! 尾行されてるじゃん!!
こ、この鈍感男!!
「とりあえず、アクセサリーを見に行くか」
「ちょ、ちょっと待って!」
このまま私と鷹羽君がアクセサリーを見に行くのは不味い。
どう考えても、浮気だと思われる。
後で誤解は解けるかもしれないけど……私はリスクを負いたくない。
「どうした?」
「いや、その……考えたんだけどさ。やっぱり、姫宮さんと一緒に選んだ方がいいんじゃない?」
「え? でも、それだと驚かせられないし……」
「無理に驚かそうとしても、失敗するだけだよ! 私の趣味と姫宮さんの趣味が一致しているとは限らないし!」
「それはまあ、確かにそうだけど……」
「それに二人とも、誕生日同じなんでしょ? 一緒にプレゼントを考えるってのも、素敵じゃないかなって!」
「なるほど。……一理ある」
鷹羽君は椅子に座り直すと、考え込み始めた。
一方で窓の外にいる姫宮さんは、今すぐにでもこの喫茶店に突撃してきそうな勢いだ。
は、早く決断して……。
「そう、だな。天沢の言う通りだ。大事なのは愛歌の気持ちだもんな。サプライズなんか、俺の自己満足だし。大切なところに気づけた。ありがとう」
最終的に鷹羽君は姫宮さんとプレゼントを買いに行くことを選んだようだ。
私は思わず胸を撫で下ろす。
「それじゃあ、今日は解散かな?」
「そうだな。呼び出して申し訳ないけど」
「ううん、大丈夫! お役に立てなくてごめんね!」
「いや、天沢からは貴重な意見を聞けた。今度、あらためてお礼を……」
いやいや、お礼なんてもらったら姫宮さんに誤解されるでしょ!
何を言ってるんだ、この鈍感男は!
「じゃあ、今日は奢ってよ。お礼はそれでいいからさ」
「最初から俺が払うつもりでいたけど。それ以外に……」
「じゃあ、今度、勉強教えて! それでいいから!!」
私にプレゼントを贈ろうとする鷹羽君を何とか説得する。
こうして私は鷹羽君から(というよりは姫宮さんから)逃げ出したのだった。
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新作書きました↓
【ニセ勇者による魔王討伐RTA】~鬱ゲー世界の噛ませキャラに転生したので、原作知識と効率レベルアップで最強の"先代勇者”となり、原作開始前に「最速」で世界を救う〜
https://kakuyomu.jp/works/16818792439987265553
ハーレムファンタジー俺TSUEEE系で、本作と別ジャンルですが、気が向いたら読んでください。
ヒロインのラインナップは「むっつり聖女」「無表情エルフメイド」「僕っ娘乳デカ王子」です。
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