第17話 模試、尊い挑戦

 バレンタインから数日後。

 甘い記憶も冷めやらぬまま、俺たち二年生は全国模試を受けることになった。

 とはいえ本番は来年。今回はあくまで“練習”だ。

 ……頭ではわかっているけど、やっぱり緊張する。


「尊い挑戦ですわ!」

 試験会場に入るなり、琴音が高らかに宣言した。

「今ここで力を尽くす、その姿勢が尊いのですわ!」

「いや静かにしろ! 開始前だぞ!」

 監督の先生が咳払いし、周囲の受験生が笑いをこらえている。


 答案が配られ、鉛筆を握る手に汗が滲む。

 最初の問題は世界史。

「産業革命がイギリスで起こった理由を答えよ」


(よし、これはいける!)

 俺は地図帳のページを思い出しながら答案を書いた。

「石炭と鉄の資源が豊富で、港湾も発達していた。さらに海外市場もあった」

 地理的要因を絡めて説明。俺にしてはいい感じだ。


 ちらっと横を見ると、琴音は「機械の発明が尊いから」と勢いよく書いていた。

(……また尊いかよ)


 数日後、答案が返却された。

 放課後の教室で、三人そろって成績表を覗き込む。


「おおっ……!」

 俺は思わず声をあげた。

「世界史、前より上がってる! 六十点台後半!」

 前回の平均点スレスレから比べれば大進歩だ。

「やっぱり地理と一緒に考えると覚えやすいんだよな」


「尊いですわ悠真さん! 進歩が尊い!」

「いや俺は実験じゃない!」


 一方、琴音の成績は……。

「わたくし、四十点でしたわ!」

「下がってる!」

「でもコメント欄に“発想はユニークだが具体性に欠ける”と書かれました! 尊いご評価ですわ!」

「フォローされてんだろそれ!」

 周囲が爆笑している。


 そして森山。

「……八十点だ」

 静かに答案を机に置いた。

「さすがだな」俺は感心する。

「だが満点ではない」

 森山の表情は硬い。

「俺は来年、必ず東大を受ける。そのためには今から安定して九十点を取らねばならない」


「でも八十点でも十分すごいよ」

 そう言うと、森山は少しだけ視線を逸らした。

「……お前のように呑気ではいられない」


 でも、その声は以前より柔らかかった。


 三人で帰り道を歩きながら、琴音がにこにこと言った。

「模試は尊いですねぇ。結果がどうであれ、挑戦したことに意味があるのですわ!」

「でも来年はそうも言ってられないだろ」

「来年は来年! 今は尊い練習ですわ!」


 俺は笑いながら思った。

(確かに、今は“練習”だ。だけど三人でこうして挑んでると、本番だってなんとかなる気がする)


 冬の冷たい風の中で、三人の笑い声が響いていた。

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