第12話 三者三様、小テスト大波乱

 世界史の授業が始まるなり、先生がニヤリと笑った。

「今日は小テストだ。範囲は第二次ポエニ戦争からローマの覇権確立まで」


 教室から小さな悲鳴が上がる。

 俺も頭を抱えた。まさかカルタゴのあの重い話をテストに出すとは……。


 配られたプリントを見て、俺は思わず声を漏らした。

問1:ハンニバルがローマ軍を破った戦いを答えよ


「……きたな」


 隣の琴音は、目を輝かせてペンを走らせていた。

「象ですわ! 象と共に尊く越えたアルプス!」

「それ答えじゃねえ!」


 俺が突っ込むと、クラスの何人かが笑いを噛み殺す。

 琴音は真剣そのものの顔で、答案に「象尊い」と大書していた。


 次の問題に目を走らせる。

問2:カルタゴ滅亡の年を答えよ


「うわ……年号かよ」

 頭を抱える俺。数字の暗記は本当に苦手だ。


 でも、ふと地図帳が頭に浮かんだ。

(カルタゴはローマに三度攻められて滅んだんだよな。アルプス越えが紀元前二百何十年……確か最後は百年台だったはず)


 記憶をつなぎ合わせ、俺は震える手で「紀元前146年」と書いた。

(たぶん、合ってる……!)


 テスト終了後。

 先生がその場で答え合わせを始める。


「問1。ハンニバルが勝利した戦いは“カンネーの戦い”だ」

 教室がざわつく。


「カンネー……!」

 俺は思わずガッツポーズ。ギリギリ思い出した。

 琴音の答案を覗くと、「象尊い!」とだけ書いてある。


「……お嬢様、それは不正解だろ」

「不正解でも尊いものは尊いのですわ!」


 大爆笑が起きる。先生まで苦笑している。


「問2。カルタゴ滅亡は紀元前146年」

 俺は机を叩きそうになった。

「やった! 正解だ!」

「悠真さん、尊いですわぁ!」

「いや俺は象じゃない!」


 笑い声に包まれる中、森山が淡々と答案を差し出す。

「全問正解だ」


 当然のように満点。

 クラスメイトから「すげぇ」「やっぱ森山だ」と小さな感嘆が漏れる。


 採点が終わった後、先生が言った。

「結果は……森山が満点。佐藤はギリギリ合格。朝比奈は……まあ、情熱は買う」


「情熱点、尊いですわ!」

 琴音が誇らしげに胸を張る。


「テストに情熱点なんてないから!」

 俺が即座にツッコむと、教室中が大爆笑。


 森山は冷ややかな目で二人を見ながらも、ほんの一瞬だけ口元が緩んだ気がした。


 放課後。

 琴音は答案を抱えながら笑顔で言った。

「悠真さん、点数はともかく……わたくしたちの歴史観、尊いですわよね」

「……まあ、点数低いけどな」

「森山さんの冷徹な正答も、尊いですわ!」

「……やめろ。俺は尊くない」

「尊いですわ!」


 再び大爆笑。

 俺は頭を抱えつつも、思った。

(……歴史って、勉強だけじゃなくて笑えるんだよな)

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