第6話 歴史カフェ計画、尊い暴走

 文化祭の実行委員が教室に入ってきて、「クラスの出し物を決めてください」と黒板に書いた瞬間――嫌な予感が走った。

 隣の席のお嬢様、朝比奈琴音の目が、また危険にきらめいている。


「皆さま! ご提案がございますわ!」


 彼女は立ち上がり、胸を張った。

「我がクラスは――歴史カフェを開催いたしましょう!」


「……は?」とクラス中が固まった。

 琴音は意気揚々と両手を広げる。


「古代から近代までの偉人をテーマにした喫茶店ですわ! チンギス・ハーン・ドリンク! 織田信長パフェ! ヴィクトリア女王ケーキ! 歴史のロマンを舌で味わえる、尊いお店に!」


「絶対まずそうだろ!」

 俺は即座に突っ込んだ。

「チンギス・ハーンドリンクって……羊乳酒か? いや誰も飲まねぇよ!」


 クラスから爆笑が起きる。

 しかし琴音は微塵も怯まず、さらに熱弁を重ねた。


「内装は西洋の宮殿風! ウェイターはトガをまとい、ウェイトレスは着物姿! 入場者には偉人カードを配布し、ランダムで“推し”と出会えるシステムに!」


「カードゲームかよ!」

「それ文化祭の規模超えてない!?」


 笑いが広がるが、森山だけは冷ややかな顔を崩さない。


「……馬鹿げている」

 彼がぼそりと言い放った。

「どうせ飲食は保健所の許可が必要で、実現不能だ。それに、文化祭の目的は収益だろう。効率的に稼ぐならクレープか焼きそば一択だ」


「うわぁ、現実的だなぁ……」と俺が呟く。


 だが琴音は怯まず、森山を指差した。

「森山さん! 文化祭とは心を豊かにする場ですわ! 焼きそばで魂が震えますの!? ルネサンス的革新は歴史カフェにこそ!」


「魂は胃袋では満たせない。点数と同じだ。必要なのは数字――売上だ」

「数字ではなく尊さですわ!」


 机を叩き合う二人。

 クラスは爆笑とざわめきに包まれる。


「でもさ……」と俺は恐る恐る手を挙げた。

「飲食無理でも、“歴史カフェ風展示”ならできるんじゃない? 偉人のパネル作ったり、ちょっとした展示を喫茶店っぽく並べたり……」


「悠真さん!」琴音がぱぁっと笑顔になる。

「尊いですわ! 地理的視点だけでなく、現実的視点も尊い!」

「いや褒めすぎだろ!」


 周囲の数人が「それならアリかも」と頷き始める。

「喫茶メニューは無理でも、展示なら手軽だし」

「衣装もコスプレっぽくできるし、映えるよな」


 意外な方向から賛同の声が集まり、いつの間にか「歴史カフェ風展示」に流れが傾いていた。


 森山は渋い顔をしたまま腕を組む。

「……くだらない。しかし展示程度なら現実的か」

「よろしいですわね!」

 琴音が得意げにうなずく。

「では決定ですわ! 我がクラスは、尊い歴史カフェ展示を!」


 拍手と笑いが巻き起こる中、俺は頭を抱えた。

(……また騒動に巻き込まれるのかよ。ていうか衣装係にされそうな予感しかしない)


 けれど、妙に胸が高鳴っていた。

 尊いとか売上とか言い合いながらも――。

(悪くないかもな、歴史カフェ)

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