邃途送──或る封じられた祀りの記録
小境震え
取材の経緯 附・凡例
今回、取材および資料編集のお手伝いをすることになったきっかけは、ある顔見知りの大学准教授から紹介された三人の若者との出会いだった。
その三人の中の、民俗学を専門とする大学院生の女性──後に詳しく記される〈大屋智里〉氏──が、その准教授とシンポジウムの場で隣り合わせになって以来の知己という。
2006年の“千葉県君津工場廃墟学生不審死事件”──ネット掲示板に書き込まれた儀式の、冗談半分の模倣によって生じたとされる変死事件──については、ご存知の方も多いと思う。
(※私が先行して公開した「メキョッ」と題した事件当事者の手記を未読の方は、ご参照ください。
https://kakuyomu.jp/works/16818792439324849536)
彼ら三人の若者は、それぞれにこの事件の当事者の関係者であり、関連して多くの経験をした。そのことについてありのまま、記録を残しておきたい、というのである。
その申し出に対して、私に迷いがなかったわけではない。
君津の当該廃工場は事件後、「出る」と界隈で評判の心霊スポットになっている。実際、語られる怪談話のすべてがほら話でもなさそうだ、という噂を、私も聞いていたからだ。
一歩足を踏み入れたらもう後戻りできないような直感が働いた。
しかし、紹介された三人は、静かに、そして確かな意志をもってこう語った。
「これが最初で最後だと思って話します。私たちがこのことをほかで公に語ることはありません」
「だからこそ、誇張せず、脚色もせず、そのまま記録としてまとめてくれる信頼できる方に任せたいんです」
私のこれまでの仕事を見てくれた上で、この人ならと判断してくれたのだという。
その言葉を受け、私は三人を取材することを決めた。
そうして、彼らが調査し、あるいは受け継いだ資料、そして何よりも彼らの肉声、心の声──それらが、取材過程で、ひとつひとつ、私の前に差し出された。私自身の取材と併せ、とりまとめたものが本稿である。
構成は私の裁量に委ねていただいたが、ひとつひとつの記録に対する編集は最小限にとどめ、できる限り当事者の語りや生の記録をそのまま掲載することを原則とした。
本記録に目を通し、まずは知っていただきたい。
いったい、何が起きたのか──起きているのかを。
2025年(令和七年)
小境震え(編者)
なお、個人情報保護および関係者の安全確保のため、最小限の伏字・仮名化を施している。
※加工箇所は凡例に従い明示した。
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凡例
下記の通り表記上の処理・編集方針を採用する。
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■ 匿名化の方針
個人名はすべて〈仮名〉で表記している。
地名・施設名については、都道府県および市町村名を維持しつつ、特定に直結する番地・施設名などは伏字または一般名詞またはアルファベットのイニシャル表記に置き換えている。
年代・時期については、事件の背景や相互関係の把握に必要な限度で原文の記述を保持した。ただし、一部の日付や時刻は丸めて記載している。
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■ 編集上の記号と処理
〈仮名〉:個人名
〔—〕:伏字処理(地名・名称・表現)
[編注]:編者による補足または解説
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