双子の姪になつかれる
水池亘
プロローグ その1
「赤コウラやめてよ、リンちゃん」
「わかったよトワちゃん! ほいっと」
「うわあー!」
クルクルとスピンするピーチ姫。
「やめてって言ったじゃん!」
「マリカに情け容赦は無用なのだ」
そう笑いながら走り去ろうとするヨッシーに第三者たる僕はファイヤーボールを食らわせる。
「はー!? 何やってるのおじさん!」
「お兄さん、でしょ」
「このひきょーものー!」
「どっちが卑怯だか」
二人を尻目に僕はコースを悠々滑走する。そのまま追いつかれず1位でフィニッシュ。まだまだ若い者には負けていられない。と言っても5歳しか違わないのだけれど。
「はー、またカナメさんの勝ちかぁ」
そう言ってうーんと上を向く、セーラー服姿の少女。パチッとしたつり目気味の瞳。肩まで掛かったまっすぐな黒髪には可愛らしい黄色のリボンを飾っている。その名は
「壁は高いですねえ」
そう同調しながらニヨニヨ笑っている、同じセーラー服を着た少女。こちらは少し背が高く、髪は明るめのショート。凜々しく整った顔立ち。胸にピンク色のブローチを付けている。その名は春日井
二人の女の子は、一見してどこか似ている。
当然だ。
彼女たちは二卵性双生児。
双子なのだ。
「こうなったら共闘だよ、リンちゃん。共にあの
「おー、いいね。乗った! ってことだからおじさん、覚悟してね」
「ごたくはいいからかかってきな」
僕は鼻で笑って対応する。彼女たちはわかっていない。このゲームがおよそ共闘には向いていない殺伐としたものであることを。
「舐めないでよね、カナメさん。吠え面かかせてやるんだから」
「とわちゃんの吠え面ならいつも見てるんだけどね」
「むー!」
「どーどー、トワちゃん。安い挑発に乗っても損だよー」
「りんねちゃんにも聞かせてほしいな、あの薄汚い泣き声をさ」
「言って良いことと悪いことがあるんだよ。二十歳にもなって知らないの、おじさん?」
「お兄さん、でしょ」
「はいはい。もういーから始めるよ、おじさん」
拗ねたように口をとがらせるりんねちゃんは、相変わらずちょっと可愛い。可愛いのが少し困る。
おじさん、か。
その呼び名に間違いはない。僕の名前は春日井
「ほら、トワちゃんもボタン押してー」
「もう押してるよ。後はカナメさんだけ。早くしてよね、こんな可愛い私たちをいつまで待たせるつもり?」
「こいつ……」
こっちはこっちで違う意味で口が悪い。
「これはもう、徹底的に叩きのめすしかないようだね」
僕は怒りを湛えた微笑みを形作る。その瞬間、スタートの鐘が鳴った。
「ふん、その自信も今のうちなんだから。ね、リンちゃん」
「トワちゃんの言うとーり! もうおじさんに明日はやってこないよ」
「ほい、青コーラ」
「ぎゃっ、スナイプ止めろー!」
「リンちゃん、避けな!」
「え、いいの? じゃあひらりとな」
「うわあー! 流れ弾があー!」
「だってリンちゃんが避けていいって言うから……」
「許すまじ、春日井輪廻」
「おい共闘はどこ行った!」
わちゃわちゃする二人に僕は「ケンカしてる暇があるのかな?」と意地悪く投げかける。
「では、お先に」
「待てやおじさん!」
「嫌です」
僕はこれ見よがしにキノコを使用して猛ダッシュで立ち去る。これはもう勝負あったな。すまんね、手加減できないタチで。
「もう! リンちゃんのせいだからね!」
「心当たりがなさすぎますなあ」
「カナメさんは強いんだから、協力しないと勝てないんだよ!」
「そーは言っても、そもそも協力ゲーじゃないしなあ」
あ、わかってたのか。ってことはとわちゃんに話を合わせていたわけだ。りんねちゃんらしいな、と思う。きっとそれは、とわちゃんを尊重しているからでもあり、単に適当に対応しているだけでもあるのだろう。そういった、どこか飄々、のらりくらりとした面が彼女にはある。一方のとわちゃんはもっと純真でいじらしくて、子供らしい。
「うわあー!」
「ぎゃー!」
勝手にすったもんだしている彼女たちを遙か尻目に、僕は見事1着でゴールを駆け抜けた。
「ま、こんなものかな。わかったかい、これに懲りたらもう生意気言わないことだね」
「……マリカのせいだよ、こんなの」
「は?」
「マリカなんてゲームが存在するからこんな屈辱を味わう羽目になったんだよ」
「何か言い出したぞ」
「つまり、マリカを買ったカナメさんが悪い」
「遊びに来といてこいつ……」
「トワちゃん、意地でも負けを認めないからねー。おじさんも良く知ってると思うけど」
「まあ、ね……」
「ってわけでおじさん、次来るまでに新しいゲーム買っといてよ」
「はあ……」
僕は盛大なため息をついた。
「わかったよ、二人とも」
「カナメさんほんと!? じゃあまた来週遊ぼう!」
急に目を輝かせるとわちゃん。
「友達と遊びなよ」
「遊んでるよ。でもカナメさんとも遊びたいの!」
「そりゃありがたいことだけどね」
僕は素っ気ない返事を返す。
「私、何かもっとパーティゲームがしたい!」
「いーね、リンちゃん! マリパとか面白いかも」
そう言って二人の目がじっと僕の顔を見つめる。
「……用意しておくよ、最新のやつ」
「やったー!」
「わーい」
喜ぶ二人の可愛らしい表情を眺めながら、どうしてこんなになつかれてしまったのか、僕はぼんやりと思いを馳せる。
あれは、うだるような暑さの夏のことだった。
――兄が、帰ってきた。
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