第11話 懐疑と会議

 灰色の空の下を生ぬるい風がゆっくりと吹き抜けている。

「以後、お見知り置きを。」


 お辞儀した頭を戻したセンチュリアと名乗る少女は依然警戒したままの花曇達を見る。

数秒の沈黙が流れた。

「…」

「えーと…言語間違ってたかしら?」

「あ、いや合ってましたよ」

気まずそうに羊間が問に答えた

「あ、合ってんですのね。いやーよかったよかった違う言語だったらどうしようかと…」

「やーすんません、うちの花曇が無口なもんで」

「…!」(てへぺろのポーズをとりながら)


「それで、どうしてこんなに警戒されてるのかしら?」


花曇達は喋りながらじりじりと後退りし少女との間は5メートル程に広がっていた。遠いためにそこそこ大きな声で羊間が弁明する。


「いや違ったら本当に申し訳ないんですけど、今のところ化け物か喋る化け物のどっちかにしか会ってなくてですね。」


「まあ、それは…仕方ありませんわね、いきなり後ろから話しかけた事は謝りますわ。」


少女は深く頭を下げた。


「それでワタクシが信用されるにはどうすれば良いのかしら?」

 先程と打って変わり冷淡にセンチュリアは問う。それと同じくらい淡々と羊間は答えた。


「ならここから出る方法を教えて下さい」


 センチュリアはその答えを5秒ほど咀嚼したのち、答える。


「んー…成程、状況は大体理解しましたわ。ええ、教えて差し上げますわ。」


「マジで!?いいの?」


「ただし条件がありますわ。無論私に信用がないのなら乗らなくても結構でしてよ?」


条件、という言葉に少しばかりの緊張感が走る。

「…条件って?」


花曇が聞くとセンチュリアはゆっくりと答えた。


「お茶しましょう。」


 凍星家に来て以降初めて聞くあまりに平和ボケした単語に3人は思わず呆気に取られた。


「………どゆこと?」


「そのままの意味ですわ。ワタクシはお茶がしたいんですの、なにせ久々の来客ですもの。」


 少女は嬉しそうに小躍りしながらそう告げる。


「あ、怪しいと思ったり嫌な気分になったら即帰っても構いませんわよ。」


センチュリアは唐突に小躍りを止めてそう付け足す。文面の協力的さと裏腹に淡々とした物言いがミスマッチで、3人は判断に困っていた。

3秒顔を見合わせて花曇が徐に挙手する。


「…作戦タイム。」


「認めますわ。」


 3人は円陣の形になり小声で話す。センチュリアは気を遣ってか少し離れた位置に立っている。


「おい、どーするよ」


「悪い話じゃないと思うんだけど、どうにも人間ぽくないんだよねあの人」


「うゆの二の舞はやだよなあ」


 そこまで黙って聞いていた花曇が挙手する。


「……わたしは信じたい」


その花曇らしからぬはっきりした主張に入道と羊間は驚いていた。

「ミゾレちゃん…その心は?」

「……人…かはわかんない、けど…敵意は無い気がする…多分」

「ミゾレがこんなにも長い文章を喋っている!?ってのは置いといて一理あるな。」

入道は花曇の成長の分、より驚きを隠せずいた。

「じゃあとりあえずお茶会とやらに行く方向性で__」


「決まりですわね?」

 いつのまにか羊間と入道の肩の間からセンチュリアが顔をぬうっと出していた。

「「ぎゃあっ!?」」

「ふふふ、めっーちゃ怖がられましたわね。」

「…聞いてた?」

「ぜーんぜん聞いてませんわよ〜」

 大変白々しくセンチュリアは答えた。茶会を承諾したからか少し上機嫌に見える。

 ふと入道が手を挙げて質問した。

「そんで茶会ってどこでやるんだ?まさか墓場でって訳じゃないだろ?」

「この中央墓地セントグレイヴの森の先にワタクシの屋敷が御座いますわ。まあ墓地がお望みならそれでも構いませんが」

「屋敷でオネガイシマス」

「結構、とはいえ中々の距離を客人に歩かせるわけには行きませんので____」


 風もないのにふわり、とセンチュリアのロングスカートがひるがえる。瞬間、花曇達の目の前を大きな影が覆った。

「…!?」

 連なった大きな銀色の長方形に無数の節足。その全貌を見る間もなく、3人はそれに包まれる。

 視界がそれに塗りつぶされていく。


「乗り心地は保証しませんわよ?」


 何処からともなく聞こえたセンチュリアの声がそう言った。

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