定点カメラ:11/21 リビング






 6時1分。


 起床し、着替えも済ませたあかねが入ってくる。


 テーブル椅子に座る父親に声をかけ、キッチンへ消えた。音声は小さく、聞き取れない。


 6時15分。


 朝食がキッチンからテーブルへ運ばれる。あかねひとりで何往復もしている。父親は座ったまま動く気配はない。


 6時28分。


 食事が始まる。全てを平らげず、残した分はひとつの皿にまとめてキッチンへ戻った。あかねと父親合わせて、ちょうどひとり分程度残ったようだ。


 皿を何枚も重ね、運ぶ。テーブルの上から物がなくなるまで繰り返す。


 あかねがキッチンにこもり、洗い物をしている間、リビングには父親だけが残される。廊下へ続く扉の光が曇り、影が差した。影はゆらゆら揺れている。


 6時52分。


 父親を残し、あかねが部屋を出ていく。


 7時13分。


 あかねが階段に向かって怒鳴っている様子が映る。内容は滑舌が悪く聞き取れない。


 10時6分。


 リビングの扉が開く。


 白い服の女が、人型の何かを引きずって入ってきた。そのまま、和室のふすまを開ける。敷いたままの布団の端が映し出された。


 10時10分。


 女がキッチンへ消える。


 10時23分。


 父親の顔を天井に向かせ、テーブルの上を拭いた布巾をそっと掛けた。父親は抵抗を見せない。だらんと腕が落ちている。


 11時5分。


 12時20分。


 13時。


 14時14分。


 15時42分。


 16時33分。


 あかねが帰宅した。


 リビングに入ってきた不機嫌なあかねは、父親の姿を見るやいなや顔を覆い発狂した。途切れ途切れの音声をマイクが拾った。


『な……で、ふざ……あの……な!…た!』


 叫びながら布を床へ叩きつけ、父親の頬を包み、抱きしめた。


 急いでキッチンへ行き、新品であろうタオルを持って戻ってきてから、父親の顔を丁寧に拭いた。首や手も、宝物を扱うような手つきだ。


 16時41分。


 あかねがリビングを出ていく。


 17時37分。


 制服からパジャマに着替え、濡れた髪を拭きながら入ってくる。父親に一日の出来事を振り返り、話しかけていた。


 18時13分。


 食卓に夕食が並ぶ。


 19時。


 ソファで父親とあかねのふたりが寄り添い、テレビを見る様子が映っている。テーブルの上には皿が並べられたままだ。


 20時50分。


 就寝のためか、あかねがリビングを出る。テーブルの上の皿は動いていない。電気を消されたため、赤外線カメラに自動変更した。


 21時21分。


 テーブルの上から皿が消える。


 22時45分。


 廊下の電気がつく。リビングに光が差し込む。


 23時15分。


 足音が響く。


 11月22日、0時10分。


 白い服の女が、リビングから和室へ続くふすまの前に立っている。


 1時23分。


 同じ位置、同じ体勢のまま変わらず立っている。


 2時33分。


 女がカメラを見上げて、何かを言っている。


 口元が動いているが、音声は入力されていない。


 6時3分。


 和室のふすまが開く。


 あかねが、自分の後ろに向かって声をかけている。布団が敷かれ、父親だろう後頭部と布団に垂れた短い髪が画面の端ギリギリに映っていた。


 

 





 

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