第2話
緑の髪は背中まで。軽くウェーブがかかっている髪は丁寧に手入れされているのだろう、艶がある。瞳は茶色かオレンジのような淡い色。左目元にほくろがあるのが特徴的な女性だった。その服装はいかにも仕事ができそうなまだカジュアルなスーツだった。
「あの、大丈夫ですか……?」
「緑の方に心配されることはありません。どうか私に構わずお行きください!」
見惚れていたが、それでも再度投げかけられる言葉に、目元を両腕で隠した礼は一気に捲し立てた。
自分にかけられる言葉に慣れない優しさなどは不要だと、安易に告げて。
「困りましたね……」
彼女の柔らかな声が、聞こえた。
そして、額に当たる布の感触。
「私は確かに緑の髪色ですが、貴方と同じ人です。傷ついた方がいれば助けます」
芯の通った言葉だった。
「……っ!!」
それでも礼は、受け入れられない。額に当てられた布を手ごと払いのけ、路地裏から飛び出す。
「お前ら貴族は結局高みからしか物事を見ない!クソ喰らえだ!」
そう、吐き捨てて、礼はその場から逃げ出した。
そのままいれば、泣いてしまいそうだったから。
*
「あれが……」
「彩華(アヤカ)様、こちらにおられましたか」
彩華と呼ばれた緑の髪の女性は礼が過ぎ去った方向を見ながら呟いた。慌ててそばに来た黒服の護衛に簡単に事情を説明する。
「黒の忌み子ですか……。黒の一族は忌み子を嫌がりますから、歪んでしまっても仕方のないことなのかもしれませんね」
「三紀(ミキ)。それでも同じ人なのですよ。どんなことがあっても、虐げられる謂れはないはずです」
路地裏を出て、車に乗りながら彩華はそう三紀に話した。
車に乗りながら仕事を片付けながらさっきの出来事を思い出していた。
たとえそれが甘いことだと知りながらも、去り際にみた礼の目に、彩華は自分の胸が高なるのを感じたのだ。彼女をどうにか自分に振り向かせたい、そんな欲望に。
「少し調べる必要があるかもしれませんね……」
窓から流れる景色をぼんやりとみながら、彩華はそう呟いた。
*
「礼さん緑の方にあったんですか?!わぁ、それは素敵ですね〜」
「会ったといっても逃げたけどな、オレは。しかも緑と言ってもあそこも派閥があるらしいじゃん。どこもそんなのばっかだな」
買い物の食材やら雑貨やらを厨房に置きながら、礼は先ほどの話をカゲにしていた。
礼は自分の上下灰色の服装をみながら苦笑しつつ答えた。これは一昔前に行われていた奴隷制度というものの一端らしい。この服を着ている者はここ、黒の神社において使い勝手が良かったようだ。
中居のように意見されることもなければ、自分の気分でどうにもできるから。
幼い頃から、礼にはこの世界が全てだった。多分、隣にいるカゲもそうだ。
自分たち二人は一般や色持ちがもつ苗字を持たない。なぜと問うても暴力と「そういうものだ」とだけしか告げられない言葉にいつしか反抗もやめた。
やめたが、礼の口調はどんどん荒んでいった。
買い物に行かされるたびに思う。いろんな髪色の人たち。なぜ目の色が違うという、ただそれだけでこうまで自分が非難されなければならないのか。
胸が痛んだのももう随分前の話のことだった。
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