島への到着
青々とした空に白く輝く太陽が浮かんでいる海上を中型フェリーが駆けていく。
フェリーの甲板からは二十人近い老若男女が進行先の水平線を見つめている。
笑みを浮かべる者、不安気な表情を浮かべる者とそれぞれ心持ちは異なるようだ。
会話する者がいない為、フェリーのエンジン音とカモメの鳴き声以外の音は船上からは聞こえてこない。
数分後、水平線の彼方に徐々に島の輪郭が見えてくる。
近づくにつれて青々とした木々が密生している島には、椰子の木やバナナの木のようなものも生えているのが見えてきた。
島の白白とした浜辺の砂は陽の光を反射し、遠く離れたフェリー上でも目が霞むようである。
フェリーが島の近くに到着すると、甲板にいたボーイスカウト風の衣装を着ている40代位の痩せ型でメガネを掛けたインテリ系に見える男性が縄梯子をフェリーの横に掛ける。
そして、振り返るとゆっくりと辺りを見回し、
「それでは、みなさんにはここから海へ飛び込んでいただきます」
と毅然とした口調でそう言うと、一番近くにいた小柄な女性を見やり
「あなたから、どうぞ」
と言った。
その女性は最初、おどおどとしていたが周りからの視線もあり、やがて覚悟を決めると縄梯子を降りていく。
縄梯子は長さが短く海面まで二メートル程の高さの場所で切れている。
手元と海面を交互に見ていた女性は、息を止めると意を決して縄梯子から海へと飛び込んだ。
バシャンという音と共に、船上からは
「それでは、次の方」
と言う声が響いた。
次の男性はほっそりとした色黒の男性だったが、縄梯子を使わず、フェリーの手摺を乗り越えるとジャンプして空中で回転しながら嬌声を上げ、海に飛び込んで行った。
飛び降りるのに5分程躊躇する者もいたが、ほとんどの者はさっさと海に飛び込んでいく。
最後に残ったのは横幅も大きく、身長も高い男性だった。
優に140kgは体重が超えていそうな男性はインテリ風の男に降りるように促されると、恐る恐る縄梯子に足をかけ、ゆっくりと降りていく。
大柄な男性が恐る恐る海面を見下ろした瞬間、フェリーの手摺に結び付けられていた縄梯子はついに重さに耐えられず、ブチっという音を立てて弾け飛んだ。
そのまま、大柄な男性は後ろ向きに海面へと落ちていき、すさまじい音と水飛沫を上げた。
海中に沈んで、数秒後ぷかんと浮いてきた男性は後頭部を打ったのか白目を向いている。
それに気づいた先に降りていた男女が、男性の手を引っ張ったり、体を支えたりして浜辺に引きずり上げる。
だらんとした巨体がまるで巨大な魚の様に浜辺に横たわる。
船から降りてきたインテリ風の男は、まるでマグロの様に動かないその巨体の口元に耳を近づけ
「呼吸はしていますね」
と言うと、倒れている男の頬を二回平手打ちをする。
三発目を叩こうとした瞬間、倒れていた男はブルブルっと身震いした後にカッと目を見開いた。
「久しぶりに意識飛んだ」
と言いながら、巨体の男は自分の頬を両手で叩くと立ち上がる。
それを見届けると、インテリ風の男は口を開く。
「ごきげんよう。今回のガイドスタッフを務めさせていただきます、高木です。よろしくお願いします」
と言うと、目の前の老若男女を見渡す。
「今回の舞台は、東南アジアのナチャプラ島。皆様、暑いですよね。12時になる前ですが、すでに32℃を超えています」
浜辺が照り返す日の光はジリジリと音を立てる程に参加者の肌を照らす。
先程、意識を失った巨体の男は腕に球状の汗をいくつも浮かべている。
高木が後ろを振り返ると、スタッフがフェリーの上から高木の方へと二本の棒を投げる。
棒の先には旗が巻きつけられており、高木は2本共に旗を広げると、浜辺を少し歩いた場所に2本共浜辺に突き刺した。
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