第10話「それぞれの証明」

 ダブルス2戦での勝利を受け、東嶺が1-0でリードした。

 次のダブルス1戦こそが準決勝の真の勝負どころとなる。


 佐藤顧問が緊張した表情で資料を見つめる。


「黒田の爆炎術...威力は確かに脅威だが、フルチャージに5秒かかる。その隙を突けるかどうかだ」


 仁が眼鏡を光らせながら分析を続ける。


「田村隆志の電撃制御も要注意です。精密射撃が得意で、しかも連続使用時の威力低下が少ない。厄介な相手です」


「つまり?」


大輝が不安そうに聞く。


「短期決戦しかない」


 佐藤顧問が断言する。


「長引けば不利になる。去年の関東大会でも、この二人は強豪校を次々と撃破している」


 大輝が拳を握りしめる。

 その様子からは緊張が走っていた。


 その時、遊馬が大輝の肩を叩いた。


「大輝、お前のサポートがあるから、俺も思いっきり戦える」

「え?」

「今度は俺が、お前の能力を最大限に活かした戦い方を見せてやる」


 遊馬の飄々とした口調に、珍しく頼もしさが混じっている。

 

「お前の活力増幅、もっとすごいことできるんじゃない?」


 大輝の表情が明るくなった。

 いつもの人懐っこい笑顔に、新たな期待が宿る。


「そうっスね!俺の能力で、遊馬をもっと強くできるように頑張るっス!」


 憂人が二人を見送る。


「頼んだぞ。お前たちなら必ずやれる」


 聖王学園のダブルス1ペアが登場すると、会場の空気が重くなった。


 黒田雄介は筋肉質でがっしりとした体格。

 田村隆志は細身だが、鋭い知性を感じさせる瞳で相手を分析している。

 ベンチで黒田が田村に耳打ちする。


「東嶺の2年生ペアか。活力増幅は強力だが、長時間の維持は難しいはずだ」


「ええ」


 田村が冷静に頷く。


「持久戦に持ち込めば、私たちに分があります。急がず確実に行きましょう」


 黒田がにやりと笑う。


「なら、最初は様子見だな」


 コートに出た黒田が挑発的に笑う。


「おい、お前らが東嶺の2番手ペアか。俺たちは手加減しないぜ」


 田村が分析的な視線を向ける。


「活力増幅に空間歪曲か。なるほど、サポートとトリッキーな攻撃の組み合わせですね」


 大輝が前に出る。


「こちらこそ、よろしくお願いします!」


 遊馬が軽く手を上げる。


「まあ、お互い頑張ろう」

「試合開始!」


 審判の合図と同時に、黒田が動いた。

 しかし最大威力ではない。


「小手調べだ」


 中威力の爆炎弾がコート中央に着弾し、派手な爆発を起こす。

 威嚇効果は十分だが、致命傷を与える意図はない。


「最初から本気じゃない?」


 大輝が困惑する。

 遊馬が冷静に分析する。


「時間稼ぎだな。俺たちの活力増幅が切れるのを待ってる」


 田村が精密な電撃で援護射撃を開始する。

 直撃を狙うのではなく、東嶺ペアの移動を制限する嫌がらせ戦術。


「こっちも読まれてるってことか」


 大輝が活力増幅を発動する。


「遊馬、思いっきり行くっス!時間稼ぎなんてさせないっス!」


 大輝の能力が発動すると、遊馬の体が軽やかになった。

 単純な体力向上ではなく、集中力、反射神経、能力制御の精度—すべてが段階的に向上していく。


「よし、一気に決めるぞ」


 遊馬の空間歪曲が本格的に展開される。

 田村の電撃を反射し、黒田に向けて跳ね返す戦術。


「何だと?」


 黒田が自分の仲間の攻撃を避ける羽目になる。

 大輝が活力増幅で自分の身体能力も強化し、聖王ペアとの距離を一気に詰める。


「こんなに速く動けるなんて...」


 大輝の拳が黒田の脇腹を狙う。

 黒田が反射的に爆炎術で迎撃しようとするが、5秒のチャージタイムが必要で間に合わない。


「しまった!」


 大輝の攻撃が黒田に決まった。


「やった!」


 東嶺ベンチから歓声が上がる。

 田村が慌てて黒田の援護に回る。


「黒田、大丈夫ですか?」


「ああ、何とかな」


黒田が体勢を立て直す。


「だが、予想以上に手強いぞ」


「時間です」


 田村が冷静に宣言する。

 大輝の息が荒くなり始めていた。

 活力増幅を最大出力で維持し続けた疲労が、徐々に表れている。


「そろそろ切れる頃ですね」


 田村の瞳に確信が宿る。

 黒田が理解する。


「なら、今度は俺たちの番だな」


 黒田が本気の爆炎術を発動する。

 黒田の本気の爆炎術が放たれた。

 熱風が観客席まで届き、東嶺ペアに強烈な圧迫感を与える。


「やばい!」


 大輝の顔が青ざめる。

 体の奥から力が抜けていく感覚。

 活力増幅がもう限界に近い。

 遊馬が空間歪曲で軌道を逸らそうとするが、威力が大きすぎて完全には制御できない。


「今だ、田村!」


 田村の渾身の電撃が爆炎に重なった。

 炎と電撃が混じり合い、青白い光を放ちながら東嶺ペアに迫る。


「おいおい、反則じゃないか?」


 遊馬が苦笑いを浮かべる。

 活力増幅の効果が切れ、大輝がへたり込む。


「大輝!」

「大丈夫...でも、もう活力増幅は使えません」


 炎と電撃の複合攻撃が東嶺ペアに迫る。

 回避も防御も不可能に見えた。

 大輝が遊馬の背中を見つめる。

 いつも飄々としている遊馬が、初めて本気で慌てている。

 しかし、大輝の目に諦めの色はない。


「遊馬、最後に一つだけ試させてくれ」

「何だって?」

「俺の活力増幅、いつも人にばっかり使ってたけど...」

 

 大輝の瞳に決意が宿る。


「自分に使ったら、どうなるかな」


 大輝が自分自身に活力増幅を発動した。

 体力の限界を超えて、大輝の身体能力が爆発的に向上する。


「大輝、無茶するな!」


 遊馬が心配する。


「大丈夫っス!任せてくれっス!」


 しかし、限界を超えた活力増幅の副作用が大輝を襲う。

 強化された血流が急激に脳圧を上昇させ、視界がぼやけ始める。


「あ...れ...?」


 大輝の意識が薄れ、その場に倒れ込んだ。


「大輝!」


 遊馬が駆け寄ろうとするが、複合攻撃が迫っている。

 一人では対処しきれない。遊馬の空間歪曲だけでは、炎と電撃の複合攻撃を完全に防ぐことはできなかった。


「くそ...!」


 遊馬が必死に空間歪曲で攻撃を逸らそうとする。

 しかし、大輝のサポートなしでは限界があった。


「大輝の分まで...!」


 遊馬が最後の力を振り絞るが、複合攻撃の一部が遊馬の身体を捉えた。


「うっ...!」


 遊馬がコートに倒れ込む。


「勝負あり!聖王学園、黒田・田村ペアの勝利!」


 黒田と田村が急いで東嶺ペアに駆け寄る。


「おい、大丈夫か!」


 黒田の声に心配が滲む。

 先ほどまでの挑発的な態度は消えていた。

 大輝が震える手を上げる。

 息を整えながら、大輝が続ける。


「負けちゃったけど、すごく勉強になりました。お二人の連携、本当にすごかった」


 遊馬も苦笑いを浮かべる。


「大輝のおかげで、俺も最後まで戦えた。ありがとうな」


 黒田が大輝の手を握る。


「お前...無茶だったけど仲間を守ろうとする気持ちは伝わった」


 田村がしゃがみ目線を合わせる。


「私たちも見習わなければ。技術だけじゃない、心の強さを見せていただきました」


 大輝が照れくさそうに頭を掻く。


「俺なんて、まだまだっスよ。でも...」


 大輝の表情が真剣になる。


「今度会う時は、もっと強くなってるっス。絶対リベンジしますから」


 黒田が嬉しそうに笑った。


「おう。楽しみにしてる」


 東嶺ベンチに戻った二人を、チームメイトが迎えた。


「お疲れさま」


 憂人が労う。

 大輝が頭を下げる。


「すみません...負けちゃって」

「何言ってるんだ」


 真司が大輝の肩を叩く。

 佐藤顧問が静かに言う。


「負けたが、得るものは大きかった。お前たちは確実に成長している」


 1-1の同点。

 準決勝はさらに激しい展開を迎える。


「次は俺の番だ」

 

 良太郎が立ち上がる。


「必ず勝ちます」


 憂人が頷く。


「ああ。頼む」


 準決勝の行方は、ますます予断を許さない状況となった。

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