銀髪の騎士と不思議な魔法の本
川原水葉
プロローグ
————————私の手には一冊の本がある
それは、魔法の書。
人間が再現することの出來る魔術とは違う。
’魔法’の書だ。
初めてその本を手に取った時、きっと偽物だと思った。
そのくらい、内容は奇想天外でありえない、
なんてくだらない代物の解読に一生懸命になっていたんだろう、と後悔するような。
でも「それ」は、この崩落する遺跡の中で私がつかみ取れたたった一つの希望だった。
あの時、あの場所で、この本と出会ったことが運命だったのだと「今」なら分かる。
————————代償なんかどうでもいい
もうここには私を引き留めるものは何もない。
もう何もないのよ! リナリア・ガーランド!
成功しても、しなくても、
結果は変わらないのだから。
なら、挑戦しないでどうするの?
すべて……そう、「すべて」をあきらめてしまうの?
————————もう時間がない
本を手に立ち上がる。
どんな結果になっても、後悔はしない。
いや、後悔しようにも出来ないんだっけか……。
————————もう時間がナイ
息を……
あぁ、熱いな畜生。
————————モウ時間ガナイ
魔法陣を起動
本はフワリと目の前に浮き上がり、ページが勢いよくめくられていく。
起動できるかも怪しいと思っていたのに、こんなに簡単に起動するなんて。
大地が割れ、鳴動し、星の嘆きがマナの息吹となって荒れ狂うこの場所のせいか。
本から目を焼くほどの虹色の光が円陣となって、
体内の魔力が流れ落ちる砂のように陣に吸い込まれる。
円は大きく広がり、あたり一帯を飲み込むと
今度は内側に高速で幾何学の文様が織り込まれ、円周を神聖文字が走る。
あっという間に体内のマナは吸い尽くされ、
カフリンクスの魔石に貯めてあった余剰分も無くなると
深い夜色の魔石は弾け飛んだ。
溢れ出た魔力は虹色の稲妻となって右目の下を掠める。
女の……女の顔に傷つけるなんて……
なんてことしてくれんのよ……
————————モウ時……ガ
もうここからは、魔術師としての「限界」を超える。
この荒れ狂うマナの海の中、右手を本に叩きつけて私が「バイパス」になる。
大気のマナが一息に大きな虹色の濁流となって私の体を駆け抜けた。
「あ”あ”あ”ああぁぁぁぁぁぁ————————!」
本にかざした。右手が燃えるように熱い。
私の絶叫も周りの音にかき消されて何も聞こえない。
「本」の表紙にあった装飾がスルスルと解け、燃え盛る金色の蛇となって手の甲に飛び移った。
すると、蛇は子供騙しの花火のようにクルクルと手の甲で踊ったかと思うと、自分の尾に食いついて見知った文様になる。
————————
そのまま私の意識は落ちた。
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