第三通
また徹夜をさせられた。
机の上に積み上がった報告書の山を前に、昨夜も結局、夜明けまでペンを走らせていた。
参謀本部に席を置くようになってから、時間の流れが早いのか遅いのか、よくわからなくなった。
誰もかれもが「お前なら間違えない」と言って、次々と私のところへ押し付けてくる。
何でもないように応じるが、内心はすり減る一方だ。
夜が明ける頃には頭がぼんやりして、自分が何を書いたのかすら判然としない。
戊夜、独りでいると考えてしまう。
あの頃のように、お前が机の上に足を投げ出して、私の几帳面さを笑っていたら。
くだらないと突き放しながらも、結局その声に安心していた。
そのだらしなさに苛立ちながらも、実は救われていたんだと思う。誰かが無責任に笑っていてくれるだけで、私は張り詰めすぎずに済んでいた。
今は誰もそんな役を買ってはくれない。
ただ隣にお前がいることにどれほど甘えていたか。今さら痛感している。
親友、私はお前を責め、恨み、見下しもする。
それでも、私はお前に寄りかかって生きてきた。
今もこうして寄りかかっていなければ、壊れてしまいそうだ。
昨夜、久しぶりにお前の夢を見た。
あの部屋の二段ベッド、きしむ梯子を登った先に、お前が仰向けで寝転がっていた。
窓から吹き込む夜風でカーテンが揺れ、お前は私の方を見て、ふっと笑った。
優しい顔だった。
あれは士官学校の頃にあったことか、それともただの私の願望の産物か。
夢の中のお前は、相変わらず無軌道で、無鉄砲で、それでも私には酷く優しかった。
「俺はお前の全部を、愛してるよ」
そんな台詞を吐いた。現実には一度だって聞いたことのない言葉を。
目が覚めた時、天井の模様が霞んで見えた。
私は泣いていたのかもしれない。
なあ、お前は私のことを本当に愛していたのか。
だから、それを言いに逢いに来たのか。
それとも、夢の中でさえ私を騙すつもりだったのか。
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