第12話 氷結の学園祭
秋の終わり、学園祭が近づく放課後の校庭は、準備で慌ただしく生徒たちが動き回っていた。屋台の設営、装飾の取り付け、舞台のリハーサル──その全てが、雪乃の目には新鮮で、少し緊張感を伴って映る。
「雪乃、今年の展示はどうするの?」
結衣が隣で声をかける。雪乃は手元の氷の結晶を軽く指で触れながら考える。
「……氷で展示を作ろうと思う。触れると少し冷たいけど、溶けない氷……」
結衣は目を輝かせる。
「わあ、それ絶対目立つよ!」
雪乃は指先に力を込め、空気中に氷の薄膜を形成する。微細な調整で、温度や硬度、光の反射角まで制御する。校庭の隅では、玲奈も雪乃の隣で氷を操り、展示用の氷像を形成していた。二人の氷が絡み合い、空間全体に冷たく美しい光が広がる。
「雪乃、これなら学園祭当日、すごいことになるね」
玲奈が微笑む。雪乃も小さく頷く。心の奥には、期待とわずかな不安が混ざる。能力を使うのは楽しい。でも、人前で披露するのは、いつも少しだけ緊張する。
準備の途中、屋台の飾りが風で飛ばされそうになる。雪乃は指先に力を込め、瞬間的に空気を凍らせ、飾りを固定する。時間の感覚がほんのわずか止まったように感じられる。その瞬間、周囲の生徒たちは驚き、目を見張る。
「雪乃……すごい!」
「怖いけど、きれい……」
歓声とどよめきが混ざる。雪乃は小さく笑い、指先の冷たさを確かめる。能力は、ただ力を誇示するだけでなく、日常のトラブルを静かに解決する手段にもなるのだ。
放課後、二人は校庭の中央で氷の彫刻を仕上げる。雪乃は時間凍結を部分的に使い、氷の表面を微細に整える。玲奈は氷像の構造を精密に組み上げ、光の反射を調整する。二人の技術が重なり、まるで冬の幻想のような空間が出来上がった。
「雪乃、これ……本当にすごい」
結衣が周囲から駆け寄る。雪乃は少し照れながらも、嬉しそうに頷く。力を使うことで、人を喜ばせられることの幸せを実感する瞬間だった。
夜、雪乃は日記を開く。
「今日は学園祭の準備で、初めて氷を展示に応用してみた。怖い気持ちもあったけど、楽しさが勝った。玲奈と協力できてよかった。力は戦うだけじゃなく、日常や楽しいことにも使えるんだ」
指先の冷たさが手応えと達成感をともなって残る。能力は日常と非日常の両方に生きる。雪乃の世界は、氷結支配の力で静かに、しかし確実に広がっていく。
窓の外には、冬の夜空に星が瞬き、校庭の氷像に微かに光が反射して煌めいていた。雪乃はそっと手をかざす。微かな氷結の光が指先で瞬き、心の中に小さな誇りと希望を宿す。日常と非日常が交錯するこの瞬間、雪乃の学園生活は、氷のように凛とした輝きを放っていた。
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