第4話 初めての模擬戦
春の光が教室の窓を満たす頃、雪乃はそわそわと椅子に座っていた。
今日は学園恒例の「能力模擬戦」の日──生徒たちが互いの能力を披露し、腕を競い合う行事だ。
「雪乃、緊張してる?」
結衣が隣で肩を叩く。雪乃は小さく息を吐いた。
「……ちょっと」
まだ手のひらが微かに冷たく震える。自分の力を人前で使うこと──想像以上に怖い。
教室がざわつき、司会の声が響く。
「それでは、新入生の模擬戦を始めます!」
雪乃は立ち上がり、前に出る。視線が一斉に集まる。誰もが彼女の指先に注目していた。
最初の挑戦者はクラスメイトの少年。軽く拳を構える。
「お願いします!」
雪乃も小さく頷き、指先に意識を集中する。手のひらから微かな冷気が漏れ、空気がほんの少し震える。
その瞬間、時間の輪郭がわずかに揺れ、少年の動きが一瞬止まったように見えた。
「うわ……!」
周囲の生徒たちは息をのむ。誰もが目を丸くし、ざわめきと歓声が同時に広がる。
「雪乃……すごい……」
「ちょっと、怖いよ……」
複雑な声が入り混じる。だが雪乃は、自分の冷たさをただ確かめるように指先を動かしただけだった。
模擬戦は続き、雪乃は次々と挑戦者を受け止める。指先が触れた瞬間、時間の流れがわずかに凍る。広範囲の空気もひんやりと固まり、窓の外の光まで静止しているように見えた。
「すごい……世界が止まったみたい!」
観客の一人が声を上げる。歓声と驚きが、教室に重なって響く。雪乃の心臓も、少しずつ速く打ち始めた。
結衣が小さく笑う。
「雪乃、やっぱりすごいね。でも……ちゃんと見せられるんだね」
雪乃は照れくさそうに目を伏せる。能力を制御すること、そして見せること──まだ完全ではない。でも、少しずつ、自分の力を受け入れる準備ができている気がした。
模擬戦が終わると、教室には拍手と歓声が残る。雪乃の周囲には、興味津々の生徒たちが集まる。
「雪乃ちゃん、どうやってあれを……?」
「氷で時間を止めるなんて、本当にできるの?」
質問が飛び交うが、雪乃は小さく笑い、静かに答えた。
「まだわからないことも多いけど……触れたものは、少しだけ止まるみたい」
観客の瞳が一斉に輝いた。恐怖もあれば、憧れもある。
放課後、雪乃は日記を開く。
「今日は……怖かったけど、楽しかった。力を使うのはまだ不安だけど、少しだけ、自分の世界が広がった気がする」
指先の冷たさを感じながら、雪乃はそっと手を握り締める。氷結支配──この力が、ただの日常を少しだけ非日常に変えることを、初めて実感した日だった。
夜、雪乃は窓から夜空を見上げる。教室での歓声や拍手の余韻が、心の中でまだ温かく残る。
「明日も……少しずつ、怖くなくなるといいな」
そう呟いた雪乃の手先は、わずかに冷たいが、それ以上に確かな手応えがあった。
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