第5章 夢を喰う者たち

 その夜、私は夢を見た。

 いや、“見せられた”と言った方が正確だろう。


 空が裂け、光の矢が降る。

 都市が海に沈み、人々は声を失い、口を開けたまま空を仰ぐ。

 月が赤く染まり、星々が――笑っていた。


 そのとき、夢の中で私は、自分の目を外から覗き込まれているような感覚に襲われた。

 それは侵入ではない。干渉でもない。

 “誰か”が、こちらを見ながら、夢を通じて何かを伝えようとしている。


 目を覚ましたとき、私は全身が汗まみれになっていた。

 呼吸が浅く、心臓は暴れていた。


 「ホームズ……!」


 私が寝室を飛び出すと、彼もまた書斎で起きていた。

 机の上には、びっしりと書き殴られた紙の束。

 その中央に――円環のような落書きが、延々と繰り返されていた。


 「……寝ていなかったのか?」


 「寝たさ。だが、夢の中で**“誰かの記録”を読まされていた**。

  文字ではない。映像でもない。

  あれは……感情そのものを押し込まれるような感覚だった」


 彼の声は震えていた。


 「“彼ら”は地球に来たのではない。

  我々の意識に、ずっと前から“棲んでいた”のかもしれん……」


 そこへ、天文学者から一通の書簡が届いた。


 「夢の中で“深海の都市”を見た。

  そこでは、星と魚と骨とが、すべて同じ意味を持っていた」


 ホームズは目を細めた。


 「つながったな……。

  これは“宇宙の来訪”ではない。“回帰”だ」


 「回帰?」


 「ああ。彼らは既に来ていた。

  古代に一度、地球と接触し、“記憶”だけを残して去った存在。

  今、それが目覚めようとしている。

  “我々の記憶”という、最も原始的な容器を使って」


 そのとき、ドアがノックされた。


 来訪者はラザフォード少佐だった。

 彼の表情は、いつになく硬い。


 「……発見された。

  隕石の落下地点で、**“人間と同じ脳波を持つ”存在が確認された。

  だが、そいつは肉体を持たない。

  “脳波のみの存在”が、地下構造物に留まっているんだ」」


 「まるで、“夢そのもの”がそこに在るかのようだな」

 ホームズが呟いた。


 「では行こう、ワトソン。

  “人類の夢”が根を張った場所へ――

  そして、それを誰が植えたのかを確かめに」

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