人間の、真理(?)【旧・人生はひつまぶし】

@11hsk

人生とひつまぶし

 「世界はひつまぶしで始まって、ひつまぶしで終わるんだよ!」


そんな突拍子もなく、馬鹿な発言をしたのは、隣に座っている彼女だった。しかも、普段は何も面倒くさそうな目をしているのにこういうときだけ、まるで子供が新作のおもちゃををねだってくるようなキラキラした目でこちらを見てくる。


 新幹線の独特な匂いに包まれながら、耳に膜が張ったりなくなったりを繰り返しながら、京都から家に帰っていた。僕は耳の違和感が気持ち悪すぎて、ノイキャンのイヤホンをつけて音楽を聞いていた。もう少ししたら眠りに入るところだったが、そうなることはなかった。突如、右耳につけられているイヤホンを外された。なにかと思い、彼女に


 「何?」


と不機嫌になりながら、聞くとさっきのとんでもない発言が僕に飛んできたのだった。


当然新幹線だから、周りは静かで中にも僕みたいに寝ている人がいた。彼女の声はちゃんとひそめてあるけれど、声の生き生きさは抑えきれていなかった。


 「何がどうなったら、そんなことに繋がるの?」


 周りに配慮をして僕は控えめに彼女の発言に反応してあげる。眠たかったところを突然遮られて、ズキズキと痛む頭を抑える。たぶん、まだ僕の不機嫌な声は直っていなかったのだと思う。だって、そうでなければ彼女のこんな満面の笑みは見られないはずだから。


 「いや〜、君がさっき”人生ってのは所詮神さまのなんだよ”って言ってたでしょ?」


 彼女はそう言って、わざわざ新幹線に乗る前に発言したときの僕のマネをしてみせた。彼女のモノマネは全然似ていない。だって、僕はあんなに険しい顔をして言っていなかったもの。今みたいに不機嫌であったわけでもあるまいし。


「確かに言ったけどさ。それをどうしたら”世界はひつまぶしで始まってひつまぶしで終わる”ってなるの?何も見えてこないんだけど。」


 僕は今言ってしまった言葉を後悔する。ついこの間、彼女が

 「人間ってじゃがいもなんだよ!」

と言ってきて、全く納得できなかった。だから、”彼女の発言にまともに取り合わない”と決意したばかりなのに。無視すればよかったのに、僕の意志がこんなに弱かったのかと驚く。が、言ってしまったことは取り消せない。こうなってしまった以上、多少は彼女の発言に付き合ってあげよう。


 「ひまつぶしってひつまぶしって聞こえるでしょ?で、さっき君が言ってたけど、もしこの世を神様が見てるんだったら、神さまはかば焼きなのね。」


 もう僕は彼女の発言のどこから突っ込めばいいのかわからない。いつも思うが、彼女が考えることはどこから来ているのだろうか。いつしか思った”彼女は宇宙人である”という仮説は合っているのかもしれない。


 やはり、彼女の声は生き生きしている。寝ている人を起こしてしまわないか心配だ。僕が考えている内に彼女は言葉を続けた。


 「それでね!人はうなぎ以下で使者から言葉を聞く行為が切るでそのことをひつまぶしって言うのね。」


 「あぁ、そこでひつまぶしがやっと出てきたんだね。それがどうやったら世界=ひつまぶしに関わってくるの?」


 「そうそう、まず知っておいてほしいのが、ひつまぶしってうな重の上位互換なのね?」


 「う〜ん。僕の記憶が正しければ、先に生まれたのはうな重だと思うけど。たしか、出前で運ぶときに陶器の器じゃなくて、木製のお櫃を使ったことが最初だって何かで書いてあったと思うんだけど...」


 昔に読んだ記事を思い起こしながら彼女の間違いを正してあげる。


 「まぁ、うな重の方が生まれたのが先だと思うけどね?」


 このことは彼女も知っていたらしい。確かに、普通だったら知らなそうなことも知っている彼女にこの手の知識がないはずがない。彼女のことを少しだけ尊敬してあげたけど、それも束の間。


 「だけどね、それはひつまぶしが世界の全てだって考えたら、辻褄が合うんだよ!」


 これまでで一番とんでもなく、馬鹿としかいいようがない発言が飛んできた。痛みが引いたはずの頭痛がぶり返してきた。一息、息をついて


 「それってさ、仮にうな重を世界の全てとしたら、これも成り立つからその理論は成り立たなくなるくない?別にそこがひつまぶしである理由はないんだし。」


そういって、彼女の考えた理論の欠陥を指摘すると、


 「確かに...」


と彼女は明らかにしょげた顔をして、落ち込んでいる。しかし、それも束の間。今度は真顔に変わって、再びぶつぶつと呟き始めた。


ーさっき何か小さい声で喋ってたのはこのくだらない理論を考えていたのか。


新幹線に乗る前に僕に聞いてきたのもそれだったのか。そう思うと、あの時から自分の選択を間違えていたことに衝撃を受けた。たとえ、僕が彼女に理論を聞かなくとも、彼女が


 「君も、関わってるんだからちゃんと聞いてよ!」


と言ってきたであろう。彼女は自分に都合がいいように解釈したり、こちら側の揚げ足を取っていくから。そんなことを考えていると


 「やっぱ、今のなし!また、理論破綻しないように考えとくから!」


ーそう言って、同じことを言ってきたことはほとんどないが。


そう思ったが、言わないでおくことにした。彼女の機嫌が悪くなりそうだったから。彼女の機嫌を直そうと思うと、こちらが多大な犠牲を払って折れなければならない。それはそれでめんどくさくて、骨が折れる。彼女の機嫌が少しでも良くなるように、


 「まっ、今のままでもいいんじゃない?」


というと、彼女は嬉しそうに笑った。この笑顔に罪はないと思いながら、彼女のこの笑顔を僕の脳に刻みつけた。


 僕は今日もどこかで彼女の謎理論に付き合ってあげている。

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