27話:セーブポイント

 ヤ、ヤバい……

 何かこの……危ない奴と関わってしまった感覚を久々に味わってしまった。

 彼女の瞳に俺が写る。

 その視線は、信仰する神を見つけた信者のように真っ直ぐ、瞬き一つせずに見つめ続けた。


「貴方と取り引きしたいの」


 彼女は目線を逸らさない。


「私をあの穴の下に連れて言って欲しい。世界の終わりの時に。もし、連れて行ってくれたら、お礼は何でもするわ」

「……な、何でも?」


 俺は思わず聞き返すと、彼女は笑みを浮かべる。


「ええ……お金が欲しいでも良い。コネもある程度あるから就職でも推薦状を送ってあげるわ」


 彼女は、ゆったりと近づいてくる。


「私は他人から見て容姿が良いみたいだから、頼まれればお付き合いだってするわ。体だってあげても良い。奴隷にだって……」


 俺は寒気を覚え、後ずさりするも逃れられなかった。

 まるで蛇に追い込まれるように、彼女の指はゆったりと俺の首を捕らえ、顔を近づける。


「貴方の言うことなら、何でも聞くわ……ずっとね」


 唇が俺の顔に近づき言葉を囁かれた。


「……」


 俺は何も答えられない。

 とんでもない美人が、目の前でとんでもないことを囁いてきたのだ。

 美人に免疫のない二十歳男にはとんでもない奇襲攻撃だった。

 こんな安い誘惑に乗ってはいけないのわ分かっている。

 こんなことをこんな状況で、こんな美女に言われたらもうどうしようもない。


「……これを見て」


 神瀬は囁き、ほぼ顔同士を密着しながら懐から携帯電話を取り出す。

 携帯電話の液晶画面には、神瀬と俺の顔が並んで映し出されている。

 まるで、カップルのツーショットのように……


「はい、チーズ」

「……あ」


 その映像は、幾多いくたのシャッター音と共に保存されてしまった。


「わーい、撮っちゃった」


 彼女は写真を撮ると、すぐさま俺から離れ画像を確認し始める。


「お、おい! 何勝手に撮ってやがる!」


 携帯電話を奪い取ろうとするが、彼女は狙ってか、ギリギリの所で俺の腕を避けていく。


「あら、どうしたの? もしかして照れているのかしら?」

「うるせえ! その写真をどうするつもりだ!」


 そう聞くと彼女は不敵な笑みを浮かべ、

「どうしようかしら? 私がやってるブログに載せるのも良いわね。私の勇者様現る……みたいに」


 楽しそうに携帯電話を抱える。

 は、はめられた……


「俺を脅してるのか?」

「何の事かしら? 私は脅しているつもりはないのだけれど?」


 クスクスと俺を嘲笑う神瀬。

 まさかこうやって弱みを握られるなんて……


「何はともあれ、貴方にもメリットがある話だと思うのだけれど? あの先に何があるのか気にならない?」


 と、神瀬が携帯電話を胸ポケットにしまおうとした時だった。


「後輩をイジメるのは関心ならない……」


 一定の距離を保っていたはずの大野が神瀬の携帯電話をスッと取っていた。

 俺達二人が驚いていると大野は続ける。


「神瀬君の手段はいつも強引だから、少し見張っていたんだ……予想通りだったよ」

「もー返してよ大野君!」


 神瀬が頬を膨らませ、奪われた携帯に手を伸ばす。

 すると大野は全く抵抗を見せず、呆気なく奪い返し緩い攻防が終わった。

 大野が話す。


「因みに……君が撮った写真に脅す効果は無い。僕が写っているからね……」

「え?」


 神瀬は携帯を開き写真を確認する。

 俺も覗き込む。


「「……あ」」


 俺達は写真を見て声を上げる。

 俺達の顔近ツーショットの間に大野が距離を取りカメラ目線でピースをしていた。

 大野は話す。


「松本君は今いろいろ試行錯誤している所だ……彼の自由意志を阻害するのは、現状害しかない」

「……」

「君が彼をコントロールした所で、それは君の出した答えだ……それは主観であって、君のではないんじゃないか?」


 大野の説教? を聞いた神瀬は唇を尖らせむくれ面になる。

 更に大野は淡々と続ける。


「君がやるべき最適解は彼に協力する……それが一番良いと思うけれど……」

「はぁ……わかったわ。まさか大野君に諭されちゃうなんてショックだけど」


 正直俺も、人を簡単に殺す奴がと思ったが神瀬に弱みを握られるのは避けられて本当に助かった。

 それは感謝しかない。

 すると、突然パンッと手を叩く神瀬。


「さて、それじゃあさっそくだけど一緒に行きましょうか!」


 そう言うと立ち上がり身支度を始める。


「ま、待て! いったい何処に?」

「決まってるでしょ? 貴方が気になっている場所の前まで」


 そう言うとロッカーから作業服のジャケットを取り出し、俺の身体にあてがう。


「うーん、このサイズで良いかしらね? 汚れないようにウチの作業着を貸すわね。あ、あと一旦倉庫にも寄るから」

「ちょ、ちょっと! 行動が早いって!」

「善は急げ。それともこれから講義でもあるの?」

「いや、今日は夜の講義だけで……」

「それじゃあ大丈夫ね!」


 本当に強引だ。

 だが、早く真相に辿り着きたいという気持ちもある。

 神瀬の勢いに今は乗ろう。


「……そう言えば、君の名前を聞いてなかったわね」


 そう言えば自己紹介をしないまま話が進んでいた。


「あ、ああ……俺の名前は――」

「わかりやすく、セーブポイント君で良い?」

「おい!」

「冗談よ!」


 ウフフと神瀬は笑って誤魔化された。

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