第4話
第三章 カーテンの向こうにいる読者
朝の光がカーテンの隙間から差し込んでいた。
半透明の布を透かして届くその光は、外の世界の存在を淡く知らせてくれる。
けれど私が手を伸ばしてカーテンを引けば、そこにあるのは白い壁と街の片鱗だけ。
六尺の空間にいる限り、外の全てをつかみ取ることはできない。
看護師の高梨さんがやって来て、軽く会釈をした。
「今日は天気がいいですよ。窓を開けますか?」
彼女はそう言いながら、器用にカーテンを開けたり閉めたりする。
開けば光が流れ込み、閉じれば再び均質な病室の色が戻る。
その単純な動作に、なぜか私は「物語をめくる仕草」を思い出していた。
子どもに絵本を読んでいたときのことだ。
ページをめくるたびに、子どもは顔を近づけ、次の場面を覗き込もうとした。
「その先に何があるの?」という期待を込めた瞳は、まるで読者そのものだった。
ページの向こうには未知の世界が広がり、カーテンの向こうにもまた、知らない日常が広がっていた。
私は気づく。
カーテンとは、ただの布ではなく「境界」そのものだ。
内と外を分ける境界であり、同時に、外を覗かせる窓でもある。
子どもにとっての絵本のページと、私にとっての病室のカーテン。
どちらも「世界を隔てる」と同時に「世界を開く」役割を持っているのだ。
看護師が去ったあと、私は一人でカーテンを引いた。
その向こうに広がる街の光景は、相変わらず遠い。
だが私はもう、ただの檻としては見ていなかった。
――これは私にとっての「次の頁」なのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます