第4話 どうして!? ドキドキの初めての魔法は謎がいっぱい!



 放課後、私と優里くんは学校の図書館にいた。広くて木製の本棚がたくさんある図書館は、かなり圧倒される。人気もまばらで、利用もしやすい。不必要な装飾物もないのも、本を読んだり探すのに集中しやすくて好感度が高い。


「優里くん、本当に魔力を上げる方法ってあるのかな?」あいt

「ないことはないんじゃないかな。食べ物とかで上がると助かるんだけど」

「さすがに食べ物はないんじゃない? 簡単すぎるし」


 それこそ誰でも自力で魔力を持ったり、魔法を使える事になってしまう。それって悪用に繋がるし、危険だと思う。


「だよねぇ。というか、なんか昨日から僕の体が変なんだよね」

 本を本棚に戻しながら、不思議そうに優里くんは言った。綺麗な黒髪が、風に揺れる。なんかアンニュイな雰囲気の横顔に、ときめいたりして。

「変? やっぱ体調悪い? 優里くん、無理しないで」


 優里くんの顔色は、特に悪くないと思うんだけれど、熱とかないよね? 大丈夫だよね? でも、昨日が昨日だし……。私鈍いから、気づいてあげれないかもしれないのが、これからの不安要素。


「そういうのとは違うんだよね。なんか、みなぎる感じ」


 一体どういう事態。よくわかんないけれど、まあ、いいか。


「元気ならいいけど」

「心配してくれてありがとう。リナ」


 嬉しそうに笑う優里くんは可愛い。


「ううん。でも、絶対何かあるはずだから」


 調べてけば、きっと……。


 だってこの図書館、凄い量の本があるんだもん! 万? 億? 本当、ありえないぐらい広い図書館。魔法関係以外の本もあって、娯楽探しにも使える。


「そうだね。優里くん。諦めないで行こう」

「明日はプールを使った水魔法の授業だね」


 水着にはならないらしいから、正直恥ずかしいとかはないが助かる。でもいずれ、男女合同で水着で実技もやるのかな。やだなぁ。照れちゃうし、出たくない。正直見るのも見られるのも抵抗ある。


「不安? 優里くん」

「僕全く泳げないから」


 顔を赤くして優里くんは言った。そういう事か。


「なるほど。大丈夫、私がいるよ」


 別に泳げないくらい、どうって事ない。生活にはほぼ関係ない。気に病む必要は全くないよ。私も凄く泳げるってわけじゃないしね。さすがに溺れはしないけど、泳ぐスピードは遅い。


「ありがとう、リナ」

「無理はしないでね。優里くん」

「ある程度しないと、鍛えられないよ」


 そういえば部屋に筋トレ道具があったような気もする。


「じゃあ、ある程度以上は無理するのやめてね、優里くん」

「僕が頑張らないとリナの成績にも関わるんだよ?」

「ペアだからそうだろうけど、それで優里くんが体調崩したら意味ないよ」


 別に、好成績を取りたいわけでもないし。それよりは、魔法の基礎を覚えて、今後に活かす方法を見つけていきたい。誰かの役にも立ちたい。私、石川県では某個性な女の子だったから……。あまりオシャレじゃなくて、見た目も平均的で、勉強だけはまあできるけれど、ずば抜けてるわけでもなくて。


 友達もいたけれど、逆にいえばいつもそばに友達しかいないような、狭く不覚な感じの関係だった。だって、仲良しな子は大切にしたかったから。


 今は、スマホでやり取りするぐらいしかできないけれど、離れてもやっぱり大事な友達だ。休暇の時、石川県に帰ったら、お土産をたくさん持って一緒に遊びたい。


 ってのは置いといて。


「本当優しいね。リナは」


 まるで優しくされ慣れてないように、優里くんはいつも私に感謝してる。


「普通だよ」

「僕、いつだって学校では足手纏い扱いだったから。僕の見た目が好きっていう女の子はいたけれど、ミーハーに騒ぎ立てるだけで、何もなかったし。友達らしい友達もいなかった。読書が友達的な感じだったよ」

「読書楽しいもんね! 有益な情報が手に入ると最高だよね! 私も好き!」

「あは。リナの前向き思考最高」


 笑い出して、慌ててここが図書館だとわかり黙る優里くん。私はそれを見てクスリと小さな声で笑った。


「図書館で爆笑はダメだよ、優里くん」

「ごめんってば」


 静かにじゃれ合う私達。

 私達は、図書館で楽しい時間を過ごした。


 娯楽向けの面白そうな本を見つけた。


 ……ためになる情報の掲載された本は、結局見つからなかったけれどね。


***


 次の日。実技の授業で、私達はプールにいた。


 当然のようにプールも広くでかい。白を基調としたプールは、なんとなく高級感がある。野外かと思ったら室内で、正直嬉しい。空調もいい感じだし。夏場も日焼けとか、気にしないで済みそう、ラッキー。


 老女先生がみんなを集めて、人数を数えてそれぞれをわかれさせる。ペアの私と優里くんは向かい合い、少し緊張した雰囲気になる。大丈夫かな? 出来るかな?


「水魔法、呪文はこれだ。やり方はいつも通り。頑張るのよ」


 老女先生の言葉に、優里くんは試すように呪文を唱える。


 すると、だ。


「わっ!? 水の玉!?」

「嘘だ……」


 優里くんの指先から、抱き合ってもないのに水の玉が生まれた。

 ありえない。私は何もしてないのに……どうして?


「高坂!? お前、何をしたんだ」

「先生、僕は何も」

「魔力タンクから魔力を補充せずに、魔法を……? でもお前は、魔力を持ってないだろう」

「そうなんですよ。僕もビックリで」

「不可解な……」


 老女先生は神妙な表情で優里くんの指先を見つめる。

 ざわつくプール周辺。ありえない。ありえない。ありえない。


 優里くんが自発的に魔力を埋めるとしたら、私ってもしかしていらない子なのでは? そんなの、嫌だ。


 私はその場から逃げ出そうとした。その瞬間。優里くんとぶつかり優里くんがプールに落ちた。


「きゃああ!? 優里くん!? ごめん!」


 沈んでいく優里くんは、本当に泳げない様子で、私はパニックになる。どうか、死なないで。みんなが騒ぐ前に、私がプールに飛び込んでいたもんだから、周りはただ優里くんをプールから引き上げる様子を見ているだけだった。


 やっぱり水を吸った服は重いし、そもそも男の子を運ぶのは大変だった。


 でも、私が助けなきゃって思った。原因は私だし、何より優里くんを助けるのは、私であって欲しかった。理由はわからないけれど、他の誰かであって欲しくなかった。


 ペアだから、かもしれない。理由なんか考えてる暇がないまま、私は人工呼吸を始める。どうか、助かって。こんな形でのお別れなんか、嫌だよ。


「わっ!?」


 私が、優里くんに人工呼吸した瞬間、優里くんが発光した。


「ありえんだろ……この魔力……」


 呆然とした老婆先生が私を見る。


「高坂、お前の魔力数値は……」

「知っての通り、大量の0でした」


 優里くんが息を吹き返して、私の方を見てる。虚であるはずの瞳は、明らかに力がみなぎっていた。なんていうか、いつも具合が悪そうな優里くんが、ありえないぐらい体調が良さそうな感じ。


「誰か、魔力測定器をもってこい!」

「はいっ! 先生!」


 老女先生に言われて、メガネの男の子が走り出す。


「優里くん、大丈夫?」


 私は優里くんの様子を伺う。他の男子生徒が、意識を取り戻した後に優里くんを椅子まで運んだので、優里くんは座っていた。


「リサ。ごめん、助けてもらってばっかりで」

「今回は私が絶対悪いから、あんま喋らないで休んでいて」


 本当、息を吹き返してくれてホッとした。涙が出そうなぐらい怖かったんだから。悪いのは全部私だけれど。


「でも、今生まれて初めてってレベルなぐらい、元気なんだ」

「へ? そんなに? 何で?」

「わからない」


 私達がキョトンとしていると。

 老婆先生が魔力測定器を持って優里くんに歩み寄ってきた。


「わしは南沢が魔力をいくらでも吸えるが故の、代謝の良さからの病弱体質なのは知ってた」

「そうなの? 優里くん」

「まあ、そうだね。使い道がないけど、その通りだよ、リサ」

「凄いじゃん!」

「いや、凄いのはお前もだぞ。高坂」


 老女先生が真剣な表情で言った。え? 私? 優里くんじゃなくて?


「え? 私が?」

「この数値を見ろ。お前が人工呼吸をした結果、南沢の魔力測定値も……」


 魔力測定器を見ると……えええええええ!? こんなのあり!? 冗談でしょ!?


「大量の0……?」


 この前の私と同じじゃん! つまり、魔力はないって事? え? どういう事?

 意味不明すぎるよ。


「今まで見たことがないから誰もわからなかったが、これが測定不能なぐらいの魔力という事だ。高坂。水魔法を唱えてみろ」

「えっと、こうですか」


 優里くんが呪文を唱えると。


「うわあああ!?」


 私は叫んだ。だって、プールの水が一気に暴れだしたのだから。

 嘘!? こんなの、予想外の展開すぎるよ。


 まるで水でできた竜の如く動き回る水。何かのショーを見てるみたい。はわわ。優里くんは顔色ひとつかえず、どんどん魔法を生み出していく。


「虹だ……」


 気がつけば、水の魔法の結果虹ができていた。


「すげー」

「優里くんってやればできるんだ」

「というか、南沢も凄いんじゃ」


 みんながワアワア騒いでる。私は声が出ない。ビックリしすぎて。


「つまりは、高坂。お前も南沢も、この学校でいちばんの魔力と魔法使いの素質の持ち主ってわけだ」


 老女先生は達観した様子でそう言った。


「正直、教師すらも超えてる。あとは魔法を覚えていけば、最強のペアになるだろう。抱きつきで魔力が入らなかったのは、南沢の魔力が多すぎて、絞れなかったからだ」

「え、私の?」

「言いにくいが、口づけなら魔力をまとめれるのだろう。まあ、しばらくは高坂の方は残った魔力だけでも、大体の魔法は使えるだろうけれどな」


 私、そんなに魔力が凄いの? 信じられないんだけれど。

 優里くんは、どこか満足げな表情で私をみていた。そして、魔法を止めると、私の方へ走ってきた。


「よかったじゃん、リナ。最強だって」

「正直夢みたい、私、素質ないかと思ってたから」


 私はさすがに泣き出した。無理。耐えれない。嬉しすぎる。


「ないどころか最強だよ! 僕もだけど」


 ドヤ顔の優里くんは可愛い。私も真似てドヤ顔。えへへ。

 みんなの授業は私達が気になりすぎて、完全に止まっちゃってる気がするけれど! なんかごめんって気持ち。


「嬉しい!」


 私と優里くんはピョンピョンと飛び跳ねる。もう浮かれて浮かれて仕方がないんだけれど、仕方がないよね! はあああああああ。最高!


「……でもさ、リナ」

「何? 優里くん」

「これからは、僕達キスしなきゃいけないってことだよ」

「……そういう事になるね」

「僕、里奈の恋人になれるように頑張るね」

「え?」

「だって、嫌でしょ。恋人じゃないのにキスするとか」


 えええええええ。真剣な表情でそんな……まあ、事実だけれど!


「僕を好きになってね、リナ」


 周りが悲鳴をあげている。私もあげたい。

 老女先生は頭を抱えている。


「好きになってもらったら、次は婚約から始めよう」

「ゆ、優里くん?」


 優里くんって、思ったより攻め系男子? 病弱だし、自分の事「僕」っていうから、大人しそうな雰囲気だったけれど、もしかしなくとも、体が弱くて静かにせざるえな買っただけ?


 ニコニコ笑顔の優里くん。


「実は、そんな気はしてたんだけどね。リナはきっと、数値異常だって」

「優里くん!? 気づいてたの?」

「だって、入学試験で魔法学校の素質があるかないかは、担当の先生が魔法で判断してる」

「そうなの!?」

「うん。学力があっても、素質がないと入学できないって聞いたよ」

「何で知ってるの?」

「コネ入学だからね!」


 あ、なるほど。って失礼か。


「僕、リナを落として見せるから」

「ええ……?」

「だって、僕、リナの事もう好きだし」


 少し頬を赤らめて優里くん。私は腰を抜かしそうになる。


「へ!?」


 嘘ぉ!?


 いつの間に、こんな私を!?

 周りがざわめく。無理もない。


「ちなみに僕、初恋だから」

「ええええ!?」

「大好きだよ、リナ」


 優里くんが接近してくる。すると。


「いたっ」

「何してるんだ、こんな場所で。授業に戻らんかい」


 老女先生が浮き輪で優里くんを殴った。で、ですよね。


 完全公開告白の現在、みんなソワソワしながら私達を見てる。ああああああ。恥ずかしい! 逃げ出したい、いや逃げる!


「私、具合が悪いので保健室行ってきます!」

「あ! リナ!」


 保健室へ行くと、保険の先生は仮病扱いして私を追い返した。

 当たり前である。


 だから、仕方がなく私は校庭の木陰の下でひとり、授業をサボった。

 涼しい風が吹いてるはずなのに、なぜかずっと体が熱を帯びて、とろんとしいた気持ちだった。

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