噂好きの女
インフルエンサーという人種がいるのは知っている。
しかし知っているのは名前だけで実体はよく知らない。
コンサルティングとの相性はきっといいのだろう。
「ローダとアリスとは上手くやってるんだって?」
「ええ、まあ。いい子たちですよね」
「あっはは! 本気で言ってる? あの子たち、マジでバケモンだよ」
「そんな言い方は……」
「お兄さんだって見たんじゃないの? 普通では考えられない特別な力ってのをさ」
ローダは写真だけで相手の位置を特定し、何も無いところから人を丸呑みできそうな巨大な獣を呼び出すことができる。
アリスはもっと直接的で、触れずに相手を爆発させることができた。
……まあたしかに普通というにはあまりにも特異的だ。
危険といってもいい。
「だとしても、それを悪用するような子たちではありませんでした。付き合いは短いですが、結構人は見てきたのでそれは分かります」
「ふーん」
キサキは両手をポケットに突っ込み、俺に近づく。
そのまま目の前まで顔を近づけてきた。
柔らかい身体に触れて、香水の匂いがうっすらと香る。
キサキはかなり可愛い。目の前で見ているだけでドキドキする。
相手は子供だと自分に言い聞かせた。
「普通の人がうちの会社に入ってくるわけないか。私とも組むことになると思うから。まあ、よろしくね。お兄さん」
ニッと笑ってようやく離れてくれた。
「キサキは主に情報収集や探偵業を担当しています。ローダやアリスに比べると応用はありますが戦闘力は劣ります」
「社長、言い方感じわるー。私は他の子よりまともよりってだけ。じゃあ顔見せも終わったし私は仕事終わりの休みもらうねー」
「どうぞ」
キサキは手を振って去っていった。
元気というか、明るい子だったな。
「もう一人は長引きそうなのでまたいずれ。キサキは大勢のフォロワーがいるので彼女のもとには日々たくさんの情報が集まります。それと彼女の能力を駆使すれば、どんな隠し事でも暴いてしまうでしょうね」
「それは……凄いですね。彼女が今までで一番コンサルティングに近いかも」
「ふふ、細玉君は面白い人ですね。気に入りました。少し大変かもしれませんが、頑張って続けてくれると嬉しいです」
何が面白かったのか、ツボに入ったようだ。
社長の言葉は本心からなのか、表情からは分からない。
裏を読んでも仕方ないので、額面通り受け取ることにした。
「ありがとうございます。頑張ります」
仕事はそれほど大変ではない。
慣れれば後は作業だ。
まあレポートの文字が汚かったり、適当すぎて分かりにくいという問題はあるのだが。
「あれ、お兄さんがいる」
「やあ、ローダ君。おはようございます」
「もう昼だよ?」
「社会人としての挨拶なんだけど……言っても仕方ないか」
リモートワークが終わったらしく、ローダがオフィスに顔を出した。
「仕事はもう終わったの?」
「まあね。僕は見つけるまでが仕事だから、後は知らないし」
「人探しの依頼は結構需要がありそうだもんね。まあヤクザの依頼なんて滅多にないだろうけど」
「ちょくちょくあるよ? お金を持ち逃げされたから探してくれとか」
「そう……なんだ」
子供の情操教育にはあまりよくない気がする。
「お昼食べに行こうよ」
「いいよ、行こうか」
ちょうど昼休みに入った。
ローダを連れて外に出る。
どこでもいいというので、天丼屋のチェーン店に行くことにした。
「こんなお店あったんだ」
「すぐ近くだったけど寄ったことないの?」
「子供一人だと中々お店には入りにくいの。キサキくらいの歳だと平気だろうけど」
「たしかに。社長は……一緒に食べてる姿が想像できないな」
「それはあり得ないね。絶対に」
社長は本当によく分からない。
雇ってくれたのでそれだけで感謝したいくらいだけど、人物像は全く掴めていない。
食べながらキサキのことを聞いてみる。
「うちにいる中で一番年上だね。人のうわさが大好きで自己顕示欲の塊だよ。しかも自分が一番まともだと思ってる」
「彼女も能力があるって聞いたけど」
「そうだよ。僕たちの話も多分聞いてるんじゃないかな」
キョロキョロと周囲を見る。
キサキがいるわけではない。
「密室じゃなければ聞かれてると思った方がいいよ。だからキサキのことを知ってる人は大事な話は絶対に密室でしかしないんだって」
「それは凄いね……」
とんでもない能力だ。
さすがに範囲なんかはあるだろうが、ある意味現代では最強の能力かもしれない。
「まあ適当に褒めておけばいいと思う。僕やアリスよりは弱いから、どうしても困ったら言って」
「ありがとう。覚えておくよ」
食べ終わり、自分の席に戻る。
ローダはソファーで昼寝してしまった。
羨ましい。大盛りを食べたので俺も眠い。
眠気を我慢し、箱の中のレポートをデータ化していった。
手に取った一枚がちょうどキサキのものだった。
依頼は……失敗とある。
ただし一定の目的は達成したので前金だけは回収とあった。
依頼の内容は依頼主のライバル会社で開発された新技術の奪取らしい。
これはコンサルティングの仕事か?
いや、今更だな。
この会社はそう名乗っているだけで、実際にコンサルタント業をしているわけではないのはもう身に染みた。
レポートを読んでいくと目標達成一歩手前まで言ったらしいが、あと少しの所で邪魔が入り失敗したようだ。
相手が雇ったガードマンに負けてしまい、失敗となった。
ただある程度の情報を手に入れたので前金分は受け取れたってことか。
「あー、それ見てるの」
耳の辺りで声がした。
キサキがいつの間にか後ろに立っている。
気付かなかった。
背中に体重を乗せてきて、机の上に置いてあるレポートを取り上げる。
チラリと顔を見たが、不服そうだった。
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