アリスと依頼と変な少女
外にいたアリスに車を回してくるので待っているように伝え、駐車場へ向かう。
相変わらず車の調子はいい感じだ。
車をアリスのいる所まで走らせ、横付けする。
助手席に乗ってシートベルトを着けたのを確認し車を走らせた。
「場所は分かる?」
「ここからちょっと離れたところ。車だと三時間くらいかかるかな」
「……ずいぶん遠いね。こういう時に一人で行ってた時はどうしてたの?」
「電車とか、タクシーとか。電車だと時間がかかり過ぎて手遅れになってたこともあって怒られたり面倒だった。タクシーは手を挙げても止まってくれないし」
「そうなの」
そりゃそうだろう。
しかし手遅れ……どうなったんだろうか。
車がないと移動は不便だもんなぁ。
子供だけだと遠くに移動するのは難しいだろう。
アリスの案内に従って車で向かう。
距離は三時間と言っていたが、どんどん風景がビル群から田舎のものに変わっていく。
途中で海が見えたので、どうやら海に向かっているらしい。
外はまだ明るいが、もう小一時間もすれば夕方になるぞ。
砂浜の隣の道路を走っていると、アリスが車を止めるように言ってきたのでそこで停止させて車の外に出た。
潮風が頬を撫でる。
海なんて久しぶりだ。
遊びに来たわけではないが、開放感もあって少し気持ちいい。
「こっち。立ち止まってないで付いてきて」
「ごめんごめん。今行くよ」
言われるままアリスの後ろを付いていく。
ローダは話しやすくて協力的ないい子だったんだが、アリスはやはりとっつきにくい。
上手くやっていけるのか心配だ。
少し歩くと、大きな建物が見えてきた。
その建物の前で二人が言い争っているのが見える。
一人は壮年の男性で、もう一人は少女のようだ。
特徴的なのは、少女が巫女服を着ている点だろう。
神社ならまだしも、こんなところで見かける服装ではない。
「チッ」
アリスが巫女服の少女を見た瞬間舌打ちする。
社長に肩を触られた時よりも機嫌が悪そうだ。
もしかして顔見知りなのだろうか?
でも聞くのはちょっと怖いな。
壮年の男性がこっちに気付き、会話を中断して歩いて近づいてきた。
「九十流怖・コンサルティング株式会社の皆さんですね、お待ちしてました。私は地主の三川といいます」
「ちょっと待ってください! 話はまだ終わってません!」
巫女服の少女もこっちにくる。
アリスを見るなりキッと睨みつけてきたので顔見知りのようだ。
仲は良くなさそうだが。
「こういう事象の解決は私たち八道の仕事です! そんな怪しい人たちに頼らないでください」
「そんなこと言われてもなぁ……知り合いがここに依頼すれば解決するって教えてくれたし。そもそも八道ってなんなんだい? 聞いたことないけど」
「そ、それは……あんまり有名じゃないのは本当ですけど。ちゃんとした組織なんです。今回だって、異変を感知したから私が派遣されたんですから」
「うーん……。押し売りは困るなぁ」
「あの、とりあえず話が進まないのでご依頼について説明していただけませんか」
いまいち三川さんと少女の会話がかみ合っていない。
恐らくこんな調子で押し問答してたのだろう。
ずっと話を聞かされて足止めは勘弁してほしいので話に割って入り、依頼内容を聞く。
少女はうちのライバル会社? の人かなにかみたいだ。
「分かりました。私もなるべく早く解決して欲しいので……」
「う~!」
巫女服の少女は不満たらたらだったが、誰に任せるかは三川さんが決めることだ。
それくらいは分かるのか、大人しくしている。
「砂浜の所に付いてきてください」
三川さんが砂浜に移動するのでついていく。
「この辺は夏は海水浴場として人気がありますが、シーズン以外は静かなものです。これといっておかしなことも起きてませんでした。ですが、今朝突然おかしなものが海から流れ着いてきたんです」
「はぁ、おかしなものですか」
少し歩いた場所で、赤黒い何かが横たわっていた。
うっ、となるひどい匂いを放っている。
大きさは腕くらいはある。腐っていて分かりにくいが、なんとなくサソリっぽいフォルムをしていた。
頭の部分がやけに大きく不気味だ。
「こんな生物、見たこともありません。図鑑を見たり知り合いの海洋学者に聞いてみましたが全く正体が分からず」
「私も見たことがありませんね。でもそういう時は市役所とかに相談するものでは? 不気味でも新種なら町おこしとか」
「これだけならそうしたかもしれません。ですが、海の方を見てください」
海に視線を向ける。
もう夕方近いので赤みがかった海は奇麗な景色だった。
特別おかしなことはないように見える。
「奥の方に黒い塊が見えませんか?」
「……見えますね」
たしかに所々に黒い塊が見える。
スマホで拡大してみると、それはどうやらこの流れ着いたサソリっぽい生き物のようだ。
しかもサイズがここにあるものより大きい。
それがいくつもある。
「うわぁ」
「怖いでしょ? 市役所は相談してみたけど動いてくれないし、かといって船を出して近づくのも危なさそうだし……」
「ですから、私が解決すると言ってるんです!」
呼ばれた理由は分かった。
コンサルティングに関係あるかはともかく、困っているのは伝わってくる。
夏シーズンまでまだ日があるとはいえ、このままだと影響しそうだ。
そもそもこれが生きたまま上陸して無害なのかも分からない。
「じゃあ、解決した方に報酬を支払ったらいいんじゃない? うるさいし」
「九十流怖さんがそういうならこっちは構わないが、いいのかい?」
「まぁ、アリスちゃんがそれでいいなら」
基本的に俺は立ち会うだけで内容は任せることになっている。
それだけ自信があるということだろう。
巫女服の少女はどこからか取り出した紐で巫女服を動きやすく括る。
「私が勝つから問題ありません。いつもいつも邪魔して。今日こそ分からせてあげる」
敵視されてるなぁ。
アリスの方は相手にしていないみたいだ。
三川さんは後は任せたと言っていなくなってしまった。
「日が落ちるまでは上がってこないと思う。それまでここで待つからおじさん、飲み物とお菓子を買ってきて」
「あ、うん。分かった」
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