君の声が聴きたくて

汉化组

序章(じょしょう)

第1話 図書室の声


私は毎日、放課後になると図書室の窓際の席に行く。


そこには、いつも同じ男子が座っている。


彼は本を読みながら、時折小さく笑う。


その声が、なぜかとてもきれいで……私は、いつからか彼の声に聴き入っていた。


でも、私は彼の名前も知らない。


ただ、「声が綺麗な男子」として、密かに憧れていた。


彼の席は、図書室の奥、窓際の二列目の一番端。木製の丸いテーブルに、背もたれの高い椅子。彼はいつもその席に座り、膝の上に本を広げている。周囲の喧騒をよそに、静かにページをめくり、時折小さく笑みを浮かべる。


私は、彼の隣の席に座ることはない。ただ、その席から少し離れた場所で、自分の本を読みながら、彼の様子をそっと観察している。彼の横顔、指先、本の表紙。何もかもが、なぜか気になって仕方がない。


今日も、私はいつものように図書室に向かった。放課後の教室は騒がしく、友達と話をしている子や、部活に向かう子たちで溢れている。でも、私はそんな中に混ざることなく、一人静かに図書室へと向かった。


図書室のドアを開けると、いつものように静かな空気が包み込んでくる。本の匂い、紙の音、そして時折聞こえる静かな話し声。私はいつものように、窓際の席へと向かった。


そして、彼の姿を見つけた。


いつものように、窓際の二列目の一番端の席に座り、本を読んでいる。彼の横顔は柔らかく、窓から差し込む午後の光が、彼の髪を優しく照らしていた。


私はいつものように、彼の隣の席ではなく、少し離れた場所に座った。そして、自分の本を開いた。


でも、私の視線は、自然と彼の方へと向かってしまう。


彼は、今まで読んでいた本を閉じ、新しい本を取り出した。その本の表紙を見て、私は少し驚いた。それは、私も読んだことがある小説だった。懐かしいタイトルで、高校生には少し難しい内容だと思っていたのに、彼は平然と読んでいる。


私は、彼がその本を読み始めるのを見ながら、自分の本に目を落とした。でも、集中することができなかった。彼の様子が気になって、何度も視線が彼の方へと向かってしまう。


彼は、本を読みながら、時折小さく笑みを浮かべる。その笑顔が、なぜかとても優しくて、私の胸が少し疼いた。


時間が過ぎていくのを感じながら、私は彼の様子をそっと観察していた。彼は、本を読むのがとても早いようで、私が一章を読み終える頃には、彼はもう次の章に進んでいるようだった。


そして、図書室の閉館時間が近づいてきたころ、彼はようやく本を閉じた。そして、立ち上がり、本を棚に戻しに行った。


私は、彼の後ろ姿を見送りながら、少し名残惜しい気持ちになった。


彼は、図書室を出ていく前に、一度こちらを振り返った。私は、びっくりして顔を下に向けた。そして、心臓がバクバクと鳴り始めた。


彼は、何か言おうとしたのだろうか? でも、何も言わずに、図書室を出ていった。


私は、彼が出ていったあとも、しばらくの間、その場に座っていた。そして、彼の席を見つめながら、考え込んでいた。


彼の名前は、何だろう? どこのクラスの人だろう? なぜ、毎日図書室に来るのだろう?


いろいろな疑問が、頭の中を巡る。でも、何よりも気になるのは、彼の声だった。


あの、とてもきれいな声。私は、いつか彼の声で、何か話を聞いてみたいと思った。


翌日、私はいつものように図書室に向かった。でも、彼の姿はなかった。


窓際の二列目の一番端の席は、空っぽだった。私は、少し落胆しながら、いつもの席に座った。


でも、彼が来るかもしれないと思って、私は図書室に長居することにした。


時間が過ぎていくのを感じながら、私は本を読んでいた。でも、集中することができなかった。彼のことが気になって、何度も窓際の席を見つめてしまう。


でも、彼は来なかった。


その日、彼は図書室に来なかった。そして、次の日も、再来の日も、彼は来なかった。


私は、少し不安になり始めた。彼は、どこかへ行ってしまったのだろうか? もう、図書室に来ないのだろうか?


そして、一週間が過ぎたある日。私は、いつものように図書室に向かった。そして、窓際の二列目の一番端の席に、彼の姿を見つけた。


私は、少し驚きながらも、嬉しくなった。彼が戻ってきたのだ。


彼は、いつものように本を読んでいた。そして、私はいつものように、少し離れた場所に座った。そして、自分の本を開いた。


でも、私の視線は、自然と彼の方へと向かってしまう。


彼は、いつもと同じように本を読みながら、時折小さく笑みを浮かべる。その笑顔が、なぜかとても優しくて、私の胸が少し疼いた。


その日、私は勇気を出して、彼に話しかけてみることにした。


図書室の閉館時間が近づいてきたころ、私は立ち上がり、彼の方へと向かった。


彼は、本を閉じ、立ち上がろうとしていた。


私は、少し緊張しながら、彼に声をかけた。


「あの……すみません。あなた、いつもここで本を読んでいるの、見かけていて……」


彼は、少し驚いたような表情を浮かべた後、優しく微笑んだ。


「ああ、そうなのか。いや、別に変わったことしてるわけじゃないけど」


彼の声は、やはりとてもきれいで、私の胸がドキドキと鳴り始めた。


「あの……あなたの名前、知らないんですけど……」


私は、少し恥ずかしそうに尋ねた。


彼は、少し笑ってから答えた。


「僕? 僕は神谷悠真(かみやゆうま)。君は?」


「桜井ひなた(さくらいひなた)です」


「桜井さん……か。いい名前だね」


彼の言葉に、私は少し嬉しくなった。


「神谷さんは、どこのクラスの人ですか?」


「僕は二年A組。桜井さんは?」


「私は一年B組です」


「そうなんだ。じゃあ、一年生か。まだ慣れてないこと、たくさんあるんじゃない?」


「ええ、まあ……」


「僕でよければ、何か困ったことがあったら聞いてくれていいよ」


彼の優しい言葉に、私は少し感動した。


「ありがとうございます。でも、大丈夫です」


「そう? でも、何かあったら、遠慮なく言ってくれていいからね」


「はい」


私は、彼の優しい笑顔を見ながら、心の中で思った。


(この人、本当に優しい人だな……)


そして、私は少しずつ、彼との距離が縮まっていくのを感じていた。

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