てがみをだした
親愛なる、高根麗ちゃんへ
拝啓
いよいよ夏本番を迎えて、蝉の音が聞こえてきました。
貴女が眠りについたあの日からおよそ半世紀以上、おおよそ八十年が経ちました。
貴女のいない日々は本当に寂しいものでしたが、僕は何とか生きてきました。
たくさんの年月を過ごしてきましたが、
今でも、貴女と過ごした一ヶ月間は忘れられない、一番の思い出です。
少しだけ、僕の話をしたいと思います。
僭越ながら、20歳のときに結婚した旦那さんの間に3人の子供が産まれました。
長女にはあなたにちなんで“麗”と名付けました。
麗は貴女のように美しく可憐な娘に育ち、素敵な旦那さんと結婚なされました。
下の子達もすくすくと育ち、巣立っていきました。
子供の成長というのは本当に早いものですね。
先月、孫娘の遥ちゃんが結婚して曾孫を身ごもったと聞きまして、この歳で嬉しくて小躍りしそうになりました。
きっと母である麗も喜んでいると思います。
長男の椛は、貴女のような真っ白で美しい方と結婚なされました。
去年には可愛い孫も生まれて、本当に喜ばしい限りです。
末っ子の椿は、夫の家業を継ぐといって修行中です。
きっといい職人になると、夫も言ってました。
こうして手紙を書いている間も、子供たちはきっとお仕事を頑張っているでしょう。
まだ僕が生きている間に曾孫の顔を見れそうで、本当に幸せです。
出来ればどうか、あの子達を見守っててください。
そして、悪いことから守ってあげてほしいです。
僕は今、広い病室で老後を迎えています。
重い病気を患ったみたいで、体が思うように動きません。
筋肉も衰えて、歩けなくなりました。
今ではもうずっと寝たきりです。
でも悔いは無いです。
確かにまだ、用意したい話もたくさんありますが、
やっと、もうすぐそちらに行けますから、僕は怖くありません。
あの日の約束通り、貴女の分まで目いっぱい生きました。
本当に幸せな人生でした。
もちろん、辛いことも苦しいことも沢山ありました。
貴女のいない人生は、本当に寂しかったです。
何度も約束を破ろうとしました。
貴女にどうしても会いたくて。
でも僕はちゃんと守りました。
しっかりと、幸せになりましたよ。
この93年の人生、そして貴女との1ヶ月は一生忘れられません。
お医者様から数年後には死んでしまうといわれました。
でも僕はもう、ちっとも怖くありません。
何度も言うようですが、ほんとうに幸せな日々でした。
あと少しで会えますが、
貴女にこの手紙を遺しておきます。
最後に一つだけ。
ずっとずっと
どれだけの年月が、月日が経っても
想いは変わりません。
麗ちゃん
僕は
貴女のことを、愛しています。
貴女を想って
この手紙と、花束を遺します。
お返事は、また逢えたら、僕にください。
敬具
夏目恋雪より、愛をこめて
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