すこしだけ

9月2日






 公園へ来た。




 麗ちゃんは…いなかった。




 昨日、会おうって…




 いったのに…






 いなかった




 どうしよう。




 言わなければ良かった。




 どうしよう…!!


 麗ちゃん…




 麗ちゃん!!






 傷つけたくなかったのに




 どうして


 どこ






 どこに行ったの




 どこへ




 蝉時雨。






 ひぐらしが嘲笑う。






 青かった空は、ぼんやりと赤い。




 僕は走った






 嫌な予感がした




 寒気がした










 踏切の音






 光が当たる








 彼女がいた




 僕は息を切らす








 靡く白い髪




 揺れる橙色の瞳






『…すこしだけ、おそかったね』






 彼女は笑っていた




 夕陽色のマリーゴールドを抱えて






「いかないで!!」






 僕は泣いていた




 叫んでいた






『君が悪いんだよ、恋雪ちゃん』








 呪いの言葉を吐いた




 彼女は僕を見ている




 時間が無限のよう




 焦り、




 泣いていた




 手を伸ばした








『恋雪ちゃん』






 声が聞こえた




 いかないで








 涙が地面に落チる前に




 車輪が甲高い声で叫んだ








 鈍い音が反響シた




 耳鳴リが鼓膜をついタ














 悲鳴が聞こエた




 ヒグらシが笑っテいた












 麦ワら帽子が飛んダ




 茜色が舞ッてイた




 花びラガ散る














 朱殷色が空で小さク爆ゼた




 白イ少女ガ宙に舞った




 紅イドレスを身に纏イ




 薔薇ばらのヨうに咲いタ








 夕が顔に落ちた




 信ジタクナカッタ




 目ヲ見開イた




 赤ガ散らバっタ




 ちギれたミサンガが落チテいタ




 息ガ














 詰マった






 でキなカッた














 マニアワナカッタ










 世界が閉ざされた。




 呆気ないほどに、簡単に




 目の前の光景を信じたくない




 どうして




 どうしてこうなったんだ。






 高嶺の花は




 …麗ちゃんは






 僕だけの高嶺さんは












 僕の


















 目の前で…




























 しんだ。






 










 あぁ










 うぁぁ










 いや






 いやだ










 いやだいやだいやだいやだいやだ






 信じたくない










 どうして








 僕




 僕のせいだ






 僕のせいなんだ。












 ぜんぶ




 ぜんぶ僕が悪い。








 僕が












 悪いんだ。














 僕がしねばよかったのに




 救うって豪語したのに




 誓ったのに




 決めたのに




 目の前で花が散った。








 救えなかった。




 高嶺の花を








 僕だけの












 僕の初恋の人を
























 あの血の匂いが








 音が








 顔が








 忘れられない




 夢で






 ゆめであってほしい














 頭に




 焦げ付いて








 染み付いて
















 離れない












 麗ちゃん










 逢いたいよ






 麗ちゃん…








 いかないでよ




 まってよ




 麗ちゃん




 麗ちゃん、麗ちゃん、麗ちゃん




 いやだよ














 いかないで










 麗ちゃん……












 会いたいよ












 いやだよ






 1人はいやだよ
















 折れ曲がった関節も










 真っ赤になった髪も










 潰れた頭も












 歪んだ顔も












 ぜんぶ




 夢だったら




 悪夢だったらよかったのに












 救急車の音がする。




 それが現実をぶつけてくる。




 胃液が競りあがる。




 こんなの、信じたくない。




 警察が事情を聞いてくる。




 異国の言語のようにしか聞こえない。




 彼女は青いシートで消されていく




 なんで、なんでぜんぶ




 うまくいかないんだよ




 ああ、もう










 麗ちゃんのいない世界なんて
















 僕、耐えられないよ










 いやだよ…もう……








 麗ちゃん
















 好きだよ、ほんとうに










 ずっとずっと…














 …ごめんなさい








_________




 9月3日












 世界が












 真っ暗だ。










 灰色に汚れている






 僕






 は








 なにをしたんだろう






 僕は




 なにが、したかったんだろう














 もう






 生きる目的を












 花を














 失った僕には






 もう僕には






 何も残ってない










 生きる意味が無いんだ












 僕は










 どこで、間違えたんだろう










 あるいは最初から










 道を










 過去を消せば












 もう、楽になるかな










 恋をしなければ










 好きという感情を








 抱かなければ










 僕は












 僕は、救われる?














 わからないよ




 麗ちゃん








 僕、会いたいよ。
















 耐えられないよ




 麗ちゃん…








 僕、僕はもう












 もう、無理だよ










 麗ちゃん








 明日








 君に、会いに行くよ

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