トラック6 就寝、姉弟子付き

//SE:外から聞こえる、吹雪の音(開始)

//SE:近づいてくる足音

//SE:ふすまが静かに開く音

//SE:ふすまが静かに閉じる音

//SE:近づいてくる足音


//小声で

//正面から

//感嘆のようなニュアンスで

「あーお……」


「……あんなに、わたしはあやかしだって忠告したのに、むぼーびな寝顔」


「……むぼーびすぎて、食べちゃいたいくらい」


//SE:服が擦れる音


「それじゃあ、いただきます」


//口を大きく開いて食べるように

「あーん……」


//目が合って硬直する時間分、少し間を置いて


//あっけらかんと

「なーんて、おはよ」


「ふふ、おとーとくんが起きてたの、気づいてたよ」


「でも、隙だらけだからつい、ね。これも姉弟子としての稽古です」


「まあ……ここに来た理由は、それだけじゃないんだけど」


//SE:布団が擦れる音

//少し近づいて

「それでね……今日はこれから、一緒に寝ていい、かな?」


//少し間を置いて


「え、どうして、って……」


「……えっと、笑わないでね」


「吹雪の音が、今日は一段と騒がしくて、眠れないの」


//少し間を置いて


//少しだけすねたように

「……もう、笑わないでって言ったのに」


「……それにさ、今日は一段と寒いし……だったら、おとーとくんと二人で一緒に眠ればいいんじゃないかな、って」


//殊勝な感じで

「……だめ、かな?」


//肯定する

//返事のぶん、少し間を置いて


//心なし声を弾ませて

「ん。ありがと……じゃあ、入るね」


//SE:布団に入る音


//右から

「ん。おとーとくんが暖めておいたお布団、あったかい」


「わたし、一緒におとーとくんとお布団に入ってるの、好き」


「おとーとくんは、この一年でどんどん大きくなるけど……私は、変わってない」


「でも、一緒に横になって寝転んでいたら、身長なんて関係ない。だから、好き」


//馬乗りになる形で

//正面から

「こうして、頭を撫でてあげることも、すぐにできる」


//SE:髪を撫でる音(開始)


「よしよし、えらいえらい」


「おねーちゃんの手が届くところに頭を用意してくれて、とてもえらい」


//SE:髪を撫でる音(終了)


「ふふ、満足」


//SE:布団が擦れる音


//右耳から

//耳元まで近づいて

「ね、おとーとくんは、眠れそう?」


「……なんだか眠れないよね」


「そうだ、ちょっとだけ、じっとしてて」


//SE:大きく布団が擦れる音

//SE:外から聞こえる、吹雪の音(終了)

//SE:心臓の音(開始)


//左から

「ね、心臓の音、きこえる?」


「心臓の音を聞いていると、ヒトは安心するんだって」


「ね、どう?」


「……ふふ、安心するんだ。よかった」


//少しだけ間を置いて


「それにしても……改めて考えると、不思議だよね。わたしはあやかしなのに……人間じゃないのに、心臓が鳴ってるなんて。他にも呼吸もするし、ご飯も食べるし、眠るし」


「お師匠さまもね、私に会ったとき、こんなあやかしはこれまで見たことがないって言ってて……すぐに道場まで連れてこられちゃった」


「そこからは……道場で修行して、たまにお師匠さまにあやかし退治に連れて行かれる毎日で」


「……たまに、危ないからってお師匠さまに置いてかれるときもあって、そんな日は、ここで一人で、じっと待ってたの」


「でも、一人でいるのは寂しくて、ついここから出ちゃって……」


//どこか嬉しそうに

「……それでね、きみと出会ったんだ」


//SE:心臓の音(終了)

//SE:身じろぎして、少し離れる音


//少し間を置いて

//正面から

「でもね、実は私、知ってるの」


「あやかしは、あやかし自身が生まれたときに……自分が、ここにいるって気づいたときに、最初に望んだ形になる、って」


「お腹が空いたーって思えば、なんでも食べちゃうあやかしになる。早く動きたいって思えば、きっと足の早さとか、泳ぐのが速いあやかしになっちゃう」


「……私は……誰かと一緒にいたいって思ったから、この姿になったんだと思う」


「あやかしなのに、人間みたいな姿に」


「あやかしは、一人ぼっちで生まれるって言ったよね。わたしはね、きっと、寂しかったんだ」


「だから……わたしはね、きっとおとーとくんと一緒にいるために生まれてきたの」


「少なくとも、わたしはそう思ってる」


「だから……わたしはきみとずっと、こうして一緒にいたい」


//少し気を取り直した形で

「でも、わたしはおねーちゃんだから。おとーとくんの足を引っ張る気は、ないからね」


「お師匠さまも腕は確かなんだから。ちょっとだけサボってるだけで、弟子なんてとろうと思えば、いくらだって増やせるはず、なんだよ」


「なんなら、わたしがお師匠さまの代わりに、師匠をやってもいいわけだし」


//少し弱々しく

「そしたら、おとーとくんがいなくなっても、寂しくはないから……」


「おとーとくんの好きなように、この先、過ごしてもいいからね」


「でも、それまでの間だけは、こうしていさせてくれると、嬉しいな」


//SE:ハグの音


//右から

//耳元で

「ん……急に抱きしめてくるなんて、おとーとくんもなかなかやるね。いきなりで、避けられなかった。姉弟子失格かも」


「でも、こういうことは、大事な人にするように、って……わたし、お話ししたよね」


「……だから、離して。じゃないとわたし、勘違いしちゃうから」


//少しだけ間を置いて


「……離して、くれないんだ」


「おとーとくんは、ひどいね」


「でも、ありがと」


//SE:ハグをし返す音


「今日はずっとこうして、たくさんくっついてたね。おとーとくんのため、って言ってたけど……やっぱりこうしてるとね、わたしの方が安心するの」


「……おとーとくんにくっついてると、落ち着くの。変じゃない、よね」


「おとーとくんは、わたしにこうされるの、好き?」


//返答までの間を置いて


//嬉しそうに

「……好き、なんだ。ふふ、一緒だね。似たもの同士だ」


「なら、今日はこうしていよう。なんなら、このまま寝ちゃっても、いいかもね」


「離さないなら、了承と受け取るから」


//少しだけ間を置いて


「……それじゃあ……おとーとくん、おやすみなさい」


「明日も、明後日も、この先も……一緒にいようね」


//少し間を置いて


「……そうだ。手、握っていい?」


//SE:手を繋ぐため、身じろぎする音


「やっぱり、手、つめたい」


「でも、おとーとくんのつめたい手、私は好きだよ」


「私でも、暖めてあげられるものがあるんだって思えるから」


「おとーとくんが眠れるまで、握って、あっためてあげるから……わたしの手、離しちゃだめだから、ね」


「約束、だよ」


//少し間を置いて


「……すう、すう。すう、すう」


//寝息でフェードアウト

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