17 超魔導騎士への第一歩
「いいか、グレン。魔力には波というものがある。感じ取れるか?」
「波……ですか? うーん……」
俺は体内に意識を向けてみた。
そもそも、魔力とは何か?
正確な知識はなく、あくまでも感覚の話になるけど――普段は眠っていて、それを起こそうと意識すると、体の内側が爆発的に熱くなる……その『熱』こそが魔力だと思う。
そう、熱なんだ。
波というイメージはない。
俺はそれをアストライアに話した。
「熱……か、なるほどな」
彼女がうなずく。
「お前はまだ自分の魔力を漠然としか捉えられていないんだ。だから『熱』として――つまりは強大なエネルギーとして認識している。まずはその『熱』をもっと深く感知するところから始めろ」
と、説明するアストライア。
「深く感知……ですか?」
「己の体内に、精神二、もっと意識を向けてみろ。その熱が何なのか、もっと感じ取ってみろ」
言われた通り、俺は体の内部に意識を向けた。
今までよりも集中して、深く、深く――。
それから一時間後。
「うーん……難しい」
俺は頭を抱えていた。
アストライアの教えは分かりやすいものの、実践するとなると簡単にはいかない。
「熱としか感じられないな……」
「まあ、慣れよ慣れ」
サーラが慰めてくれた。
「君はできるのか? 魔力の感知」
「は? 当たり前でしょ!」
サーラがムッとした顔で叫んだ。
「基本よ、基本」
「そ、そうか……そうだよな。悪かった」
「あ、ううん。グレンは基本から学んでるところだもんね。あたしこそ、その……ごめん」
お、意外と素直だな。
俺は思わずにっこりしてしまった。
「いちゃつくのもいいが、そろそろ次の訓練に入るぞ」
と、アストライアが言った。
「べ、別にいちゃついてないです……っ」
サーラが慌てたように抗弁する。
その頬がやたらと赤かった。
「まあ、一朝一夕にできるものではないからな。次は違うアプローチでいくぞ」
アストライアが言った。
「まずは魔力弾を作れ。大きさは拳くらいまで凝縮できると理想的だが、最初は難しいだろうから、サイズは気にするな」
「魔力弾を……」
言われたとおり、俺は右手を掲げて巨大な光球を生み出す。
「それを消さずに維持してみろ」
アストライアが指示した。
「分かりました」
魔力弾は俺の意思で任意の方向に撃ち出せる。
逆に言えば、『撃ち出そう』という意思を持たなければ、保持しておけるはずだ。
とはいえ、前回の戦いでは生み出した傍から撃っていたから、魔力弾を一定時間保持できるのかどうかは、やってみないと分からない。
「ぐっ……うう……」
数分経つと、俺の手のひらの上で魔力弾が大きく揺らぎ始めた。
今にも暴れそうな魔力の塊――。
これをずっと保持するのは、思った以上に大変だ。
「だ、駄目だ……っ!」
それ以上制御することができず、俺は魔力弾を真上に放った。
「弾けろ!」
どー……ん!
上空高くで爆発させる。
これなら周囲に被害は出なかったはず。
「――ほう」
アストライアが小さくうなった。
「すみません。あまり長い時間、魔力弾を保持しておくことが難しくて……」
「何を言っている? 今、お前は五分以上も保持していた。初心者でこれだけできるのは驚異的だ」
ニヤリと笑うアストライア。
「思った以上に、お前には魔法の素質があるようだ。騎士を辞めて魔術師を目指した方がいいんじゃないか?」
騎士じゃなく、魔術師を目指す――。
そんなこと、考えたこともなかった。
でも、俺は。
「いえ、俺が目指すのは騎士でも魔術師でもありません」
アストライアをまっすぐに見つめ、俺は宣言した。
「すべてにおいて圧倒的な力を持つ最強の存在――大切なもの全てを守り、運命すら覆せるような、そんな存在を目指しています」
そう、超パワーと超スピードを兼ね備えた『超騎士』に超越的な魔法能力をも加えた――いわば『超魔導騎士』に。
必ず、なってみせる。
その後も、俺の魔法訓練は続いた。
魔力の形を自在に変える訓練。
複数の魔力弾を同時に操る訓練。
動きながら魔法を制御する訓練。
アストライアの指導は的確だった。
だから俺は、魔法の扱い方をどんどん吸収していった。
――そうして、一日の訓練がやっと終わった。
とても一日とは信じられないほどの、濃密な時間だった。
が、『やっと終わった』と思ったのもつかの間、
「さて、総仕上げだ」
アストライアが疲れた俺に言った。
……まだ、やるのか。
いや、ありがたいんだけど、さすがに疲労感がすごい。
「私と模擬戦をしてもらう」
アストライアが俺を見つめる。
「本気で来い」
「俺がアストライアさんと模擬戦――」
「確かに今日一日でお前の魔法は確実に進歩した。が、それは訓練場での話だ。しょせんは実戦で使えなければ何の意味もない」
アストライアが言った。
「……はい。よろしくお願いします」
考えてみれば、魔法師団のエースとの模擬戦なんて願ってもない機会だ。
疲れているけど、断る理由なんてない。
魔法初心者の俺が、魔法戦闘においてアストライアとどこまでやり合えるか――。
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