6 【剛力】VS【光剣】

 未来のミゲルは、俺と無二の親友だった。


 だからこそ、ここで絶対に止めなければならない。


 こんな公衆の面前で貴族殺しなんてしでかしたら、ミゲルの人生は終わりだ。


 だけど……そんなことはおかまいなしに、木剣で貴族の息子を叩き殺しかねない危うさが、今のミゲルにはあった。


 だから、俺が止める。


「お前は平民みたいだけど、この貴族の味方ってわけか」


 ミゲルが吐き捨てるように言った。


「貴族様に尻尾を振る情けない奴め!」

「俺は誰の味方でもない」


 俺は首を左右に振った。


「ただ、お前を見ていられないだけだ」

「……なんだと?」


 ミゲルの表情がこわばる。


「こんなところで問題を起こしても、なんの益もないだろう」

「益だと? それがどうした!」


 ミゲルが吠えた。


「僕の人生は貴族のせいでめちゃくちゃになった。貴族はすべて僕の敵だ!」


 周囲がシンと静まり返った。


「貴族は傲慢で汚らしくて罪深い存在だ! 貴族は僕の父を殺した! 平和な家庭を壊された! こんな奴ら、全員消えてしまえばいい!」

「……!」


 さっきの貴族の息子がバツが悪そうな顔でうつむく。


「お前の境遇には同情する」


 俺はミゲルを諭した。


 実際、家族を失う苦しみや痛みは、俺も未来の世界で味わっている。


 俺は戦乱で、ミゲルは貴族によって――理由は違うが、痛みは同じだ。


「だけどお前は憎しみに染まって、視野が狭くなりすぎている」

「貴様、僕に説教する気か!」


 ミゲルが怒りの表情を浮かべた。


「いや――どのみちお前は言葉では止まらないんだろう? だから」


 俺は木剣を構えた。


「こいつで止める」

「止められるものなら止めてみろ!」


 吠えて突進するミゲル。


 速い――!


 速すぎて動きがブレて残像が生じていた。


 まだまだ粗削りとはいえ、未来で【光剣】と称される片鱗をすでに見せている。


「はああああっ!」


 高速の突進で距離を詰め、その勢いに乗ったままミゲルが斬撃を繰り出した。


 さながら閃光のように速く鋭い剣技。


 それが【光剣】の二つ名の由来だ。


 いくら俺が二つの紋章に目覚めたとはいえ、油断していい相手ではない。


「どうした? 棒立ちだぞ!」


 ミゲルの残像が三つに増え、そいつらが三方向から同時に打ちかかった。


 後に彼が【残影殺ざんえいさつ】と名付ける幻惑の剣技だ。


「だけど、まだ甘い――」


 未来のお前は、その残像を七つ作っていた。


 俺は【竜翼】による超反応速度を全開にして、それらの攻撃を避けながら、反撃の隙を伺う。


「ちょこまか避けやがって!」


 ミゲルの攻撃がさらに加速した。


 末恐ろしいとは、まさにこのことだろう。


 現時点でも、ミゲルの実力はこの国の上級騎士に引けを取らない。


「だけど――だからこそ、上には上がいることを知るべきだ」


 それがお前の成長につながるはずだから。


 そう、いずれ俺にとってかけがえのない相棒になる、お前の。


 未来を変えるための戦いにおいて、不可欠の存在となるお前の。


「成長してもらうために、俺は――」


 三方向から迫る剣をことごとくかいくぐり、避け、俺はミゲルに肉薄した。


【竜牙】のパワーと【竜翼】のスピードを併せ持つ今の俺は、もはや速度を弱点とはしない。


「ば、馬鹿な――」


 驚くミゲルに対し、俺は渾身の突きを見舞った。


 そして、奴の眼前で木剣を止める。


「っ……!」


 ミゲルの動きが止まった。


 からん、と木剣を取り落とすミゲル。


「……参った」


 一瞬の後、ミゲルは悔しげにうなった。




「この僕が……しかも速さ勝負で負けた……」


 ミゲルはまだ信じられないといった表情だ。


「お前は強い。だけど、まだ完全じゃない」


 俺はミゲルに言って、手を差し伸べた。


「そして、それは俺も同じだ。一緒にここで、さらなる強さを目指そう」

「お前……」

「グレン・ブラスティだ」


 俺はニヤリと笑い、名乗った。


「――ミゲル・ラース」


 ミゲルは名乗り返し、俺の手を握った。


「いずれお前に勝つ男の名前だ。覚えておけ」

「ああ、俺だって負けない」


 俺は力強くうなずいた。


 この出会いは、きっと掛け替えのない友情の始まりになるはずだ。


 未来の俺たちがそうであったように――。

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