第14話

試着室の扉を閉めると、エレノアは、その場に立ち尽くした。


(わたくしは、いったい……何を……)


手には、先ほど悠斗が差し出した、黒いレースのパンティーが握られている。その布は、まるで蜘蛛の糸のように薄く、掌の中で、くしゃりと音を立てる。


(まさか、このような下着を、わたくしが身につけることになろうとは……)


エレノアは、震える手で、パンティーに足を通した。


騎士団長として、これまで生きてきた。戦場では、男たちと同じように汗を流し、泥にまみれてきた。女性として見られることなど、ほとんどなかった。いや、見られることを、自ら遠ざけてきたのだ。女性としての自分を意識する暇などなく、ただひたすらに、強さを追い求めてきた。


だが、今、この試着室の中では、ただの女として、震えている。


エレノアは、おそるおそる、鏡に映る自分自身を見た。


(……っ!)


鏡に映る姿に、エレノアは、息をのんだ。


黒いレースのパンティーは、彼女の引き締まった腰に、深く食い込んでいる。布面積は極端に小さく、かろうじて割れ目を隠す程度だ。鏡の中の自分は、まるで裸同然。戦場で、どんな傷を負っても動じなかった自分が、今、たった一枚の布で、全身から血の気が引いていくのを感じた。


「な、なんて……」


エレノアは、鏡の中の自分から目を背けたくなった。


この下着を、あの悠斗に見せなければならない。彼のために、この恥を晒さなければならない。


(なぜ、わたくしは、こんなにも……)


エレノアの心は、羞恥心でいっぱいになった。


顔が熱くなり、全身の血が逆流するような感覚。逃げ出したくてたまらない。この試着室から、この街から、そして、この世界から、消えてしまいたかった。


だが、その時、悠斗の言葉が、彼女の脳裏に蘇った。


「エレノアさん!この下着は、本当にすごい力を持っています!この力があれば、きっと、魔王を倒すことができます!」


彼の声は、興奮と、そして、強い決意に満ちていた。


(そうだ。わたくしは、勇者様の力となるために、ここにいる。わたくしの恥じらいなど、取るに足らないことだ)


エレノアは、自分にそう言い聞かせた。


(わたくしは、騎士団長……。いや、今は、もう違う。だが、悠斗様の力となるという使命は、変わらない。わたくしのこの体も、すべて、勇者様の力となるのだ)


エレノアは、深呼吸をすると、もう一度、鏡を見た。


鏡の中の自分は、相変わらず、恥ずかしい姿のままだ。だが、その瞳には、強い意志の光が宿っていた。


エレノアは、意を決して、試着室の扉を、ゆっくりと開けた。


「……悠斗様。わたくしが、これを身につけた姿は……、いかがでしょうか?」


その声は、震えていた。


俺は、その姿を見て、息をのんだ。


黒いレースでできた、ごくごくシンプルなパンティー。だが、その布面積は、極端に小さく、一目でわかるほど、彼女の白い肌に食い込み、かろうじて割れ目が隠されている程度だ。鍛え抜かれた引き締まった腰回り、そして、その奥に広がる、滑らかな曲線美。そのすべてが、見る者の目を奪うほどに、美しかった。


(う、嘘だろ……。騎士団長が、こんな下着を……!)


俺の心臓は、ドクドクと高鳴り、顔が熱くなる。


エレノアは、そんな俺の様子を見て、顔を赤らめた。


「あの……その、似合わないでしょうか……?やはり、このような下着は、わたくしには……」


彼女は、恥ずかしそうに、体を震わせる。


俺は、言葉を失っていた。


だが、この下着は、俺のチート能力を、最大限に引き出してくれるはずだ。この下着を身につけたエレノアは、きっと、俺の力になってくれる。


俺は、勇気を出して、口を開いた。


「……エレノアさん、素敵だ……」


俺の言葉を聞いたエレノアは、目を見開き、信じられないものを見たかのように、俺を見つめた。


(……素敵?わたくしが、このような姿で、素敵……?)


エレノアの頭の中は、その言葉でいっぱいになった。


トクン、トクン、と、エレノアの鼓動が、自分の耳にも聞こえるくらいに高鳴った。


騎士団長として、男たちと肩を並べ、戦ってきた。女性として見られることなど、ほとんどなかった。常に、強さを求め、弱さを捨ててきた。


だが、今、悠斗は、彼女を「素敵だ」と言ったのだ。


その言葉は、エレノアの心を、深く揺さぶった。


(わたくしは、騎士団長として、男たちと戦ってきた。今更、女として、悠斗様に寄り添うことなど……できるはずがない。強くあらねばならないのに……)


エレノアは、自分の感情に戸惑っていた。


胸の奥から湧き上がってくる、今まで感じたことのない、熱い感情。それは、喜びと、そして、戸惑い。


悠斗は、騎士団長としての自分を褒めたわけではない。この、女としての自分を、「素敵だ」と言ってくれたのだ。それは、エレノアが、今まで、必死に蓋をしてきた、女性としての自分を、初めて肯定された瞬間だった。


(でも……。わたくしは、魔王を倒す、勇者様の力となるために、ここにいる。悠斗様に、女として見られるために、ここにいるわけではない……)


エレノアは、自分自身に、そう言い聞かせた。


だが、心臓の高鳴りは、止まらない。それは、まるで、エレノアの中に、新たな命が宿ったかのような、不思議な感覚だった。


その時、俺は、自分の手に、新たな力が流れ込んでくるのを感じた。


それは、これまでに感じたことのない、強烈なエネルギー。


王女様の**赤いTバック**が与えてくれた、破壊的な力。エレノアの**スケスケレースのパンティー**が与えてくれた、身体能力の向上。


それらとは、全く違う、新たな力だ。


(…これが、この下着の力……!なんて、強力なんだ……!)


俺は、その力に、全身が痺れるような感覚を覚えた。ただの若く滾る性欲が、勇者の力だと勘違いさせていた。


そんなことを知る由もない俺は、エレノアの姿が、俺に勇者の力を与えてくれていると、歓喜していた。


(ただの性欲なのに……)


俺は、そのパンティーの力を、全身に漲らせ、エレノアに語りかけた。


「エレノアさん!この下着は、本当にすごい力を持っています!この力があれば、きっと、魔王を倒すことができます!」


俺が興奮してそう言うと、エレノアは、静かに頷いた。


「…そう、ですか。貴方が、そうおっしゃるのなら……」


エレノアは、そう言うと、再び顔を上げた。


その表情は、先ほどまでの恥ずかしさや戸惑いとは違い、強い決意に満ちていた。


「わたくしは、この下着を、貴方の力として、身につけます。そして、貴方とともに、この世界を救ってみせます」


彼女の言葉に、俺は、胸が熱くなるのを感じた。


俺とエレノアは、お互いに見つめ合い、二人の旅の、新たなスタートを誓った。


俺の異世界での旅は、新たな下着を手に入れ、そして、エレノアとの絆を、さらに深めたようだ。

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