第11話:聖凛高校に入りたい理由

 九鬼先生との模擬戦が始まってから少し経って……。


「はぁ、はぁ……わ、わかった! もうわかった! ストップストップー!」

「え? どうしたんですか? 俺はまだ先生から一本は取ってませんよ?」

「はぁ、はぁ……も、もう良いよ……君の戦闘能力が凄いのはわかったし、それに強化魔法の練度の高さも十分にわかった。だから君との模擬戦はこれで終了だ。はぁ、はぁ……」


 俺は九鬼先生との模擬戦を楽しんでいたんだけど、でも急に九鬼先生は息を切らしながらそう言って模擬戦を無理矢理に中断してきた。


(うーん、ちゃんと一本を取りたかっただけにちょっと残念だな)


 そして九鬼先生はそれから深呼吸をして落ち着きを取り戻してから、改めて俺にこう尋ねてきた。


「はぁ、はぁ……ふぅ。というか君のその身体能力に強化魔法の練度は一体何なんだい? 明らかに中学生レベルじゃないだろ。一体どうやってそこまでの強さを身に着けたんだ?」

「別に大した事は何もしてませんよ。小学一年生の頃に冒険者ギルドで働いてる師匠と出会ってからずっと修行をしてきただけです。毎日森とか山の中を全力で走ったり、滝に打たれながら精神統一したり、大木に向かって何度も正拳突きを打ち続けたり、魔力が尽きるまで強化魔法を発動しまくったり、ダンジョンに入ってひたすらモンスターと戦いまくったりとか、まぁそんなごく普通な修行をしてきただけですよ」

「は、はぁっ!? な、なんだって!? 小学一年生からそんな修行をしてたのかい!? というか修行の仕方が古典的過ぎるよ!? 君はそんなスパルタ過ぎる修行を八年近くも実践してたのか!?」

「はい、そうですけど……え? もしかして珍しい感じですか?」

「珍しいに決まってるだろ!! 今時の魔法士の修行方法はそんな山ごもりとかダンジョンごもりの旧時代過ぎる修行方法なんて誰もやってないぞ!? 近年の修行方法は一流の魔法士が運営してるトレーニングジムやスクールに通って、そこにある最新設備や最新のノウハウを使って学んでいくのが一般的だよ! だ、だからそんな一昔前の何もノウハウがなかった頃に冒険者がやってた恐ろしく辛いスパルタ過ぎる修行を……い、今時実践する狂人が一体何処にいるっていうんだ!?」

「え? いやここにいますけど??」

「いや、わかってるわ!!」


 俺がそう言うと九鬼先生は大きな声を出しながら盛大にツッコミを入れてきた。どうやら俺が今までやって来た修行方法はあまりにも古い方法らしい。


「はぁ、はぁ……でも君がそこまで強い理由はよくわかったよ。そんな昔の冒険者たちがやってたような恐ろしいスパルタ修行を八年近くも続けてるなんて……しかも小学生からそんな修行をしてる子なんて私は生まれて初めてみたよ。よくそんなにも長い期間そのキツイ修行を続けられたね?」

「いや全然キツイなんて思った事はないですよ。どんどん身体が強くなっていくのも実感出来たし、強化魔法もどんどん成長しているのがわかってましたから。だから毎日楽しく修行してました!」

「き、君は本当に凄いな。だがそれだけ強靱な身体と強化魔法を有しているのなら……うん、君はこの聖凛高校に入っても問題無く学園生活を送る事は出来るだろうね」

「え、本当ですか?」

「あぁ。教師である私が保証する。それと……さっきはすまなかったね」

「え? さっきって……何の事ですか?」

「君に聖凛高校は諦めた方が良いと言った事だよ。君は魔法適正は1つしかないという時点でこの学校に入るのは無理だと安直に言ってしまった事を許して欲しい」

「あぁ、その事ですか。全然大丈夫ですよ。子供の頃に聖凛高校に入りたいって言ったら母親にも師匠にも無理だろって言われてましたからね。だから最初から俺は聖凛高校に入れる可能性はかなり低いってのはちゃんと理解してましたから。だから大丈夫ですよ!」

「そうか。最初から周りからそう言われてたんだね。でも諦めずに今日までずっと修行を続けてきたのには一体どんな理由があるんだい? そんな厳しい修行を続けて聖凛高校に入りたいと思った理由があるんだよね? それを私にも教えてくれないか?」

「聖凛高校に入りたい理由なんて決まってますよ。だって聖凛高校はこの国にある唯一の魔法専門高校なんですよ? 沢山の魔法が学べる唯一の高校なんですよ? そんなの凄いワクワクするじゃないですか! だから俺もそんなワクワクとする魔法専門高校に入って沢山の魔法を見て学びたいなって思ったんです! そしてそのためにも魔法の才能がない俺は小学生の頃からずっと修行を続けて来たんです!」


 俺は満面の笑みを浮かべながら九鬼先生に向かって聖凛高校に入りたい理由をしっかりと語っていった。


 すると九鬼先生は俺の入りたい理由を聞いて凄くビックリとした表情を浮かべていった。でもそれから九鬼先生はすぐに笑みを浮かべ始めた。


「そうか。君は何だかとても不思議な子だね。そして何だか……君のような真っすぐな子を見ると嬉しい気持ちにもなるよ」

「不思議ですか? 僕としては普通の事を言っただけだと思うんですけど?」

「ううん。そんな事はないさ。君みたいな子はとても珍しいと思うよ。よし、それじゃあ君への聞きたい事も全部聞けたし実技試験はこれにて終了だ。合否通知については今後書類郵送にて連絡となる。君の実技試験が遅くなって済まなかったね。今日はもう帰って良いよ」

「あ、はい、わかりました。試験ありがとうございました! それじゃあ失礼します」

「あぁ。気を付けて帰りなさい。お疲れ様。神崎君」


 九鬼先生は柔和に微笑みながら実技試験の終了を伝えてくれたので、俺は九鬼先生にしっかりと挨拶をしてから帰路へとついていった。


(でも結局九鬼先生から一本は取れなかったから、正直受験に合格している確率は五分五分と言った所だろうなぁ……)


 まぁこればっかりは一本取れなかった俺が悪いんだし、後はもう天運に任せるしかないだろう。


 そして今の俺に出来る事は聖凛高校に受かってると信じてこれからも毎日修行を頑張っていく事だけだ。


 という事で俺は帰宅後も毎日しっかりと修行を続けていった。山の中やダンジョンの中に籠って毎日しっかりと魔法の修行を励んでいった。


 そしてそんな俺の頑張ってる様子を神様が見ていたのか……それから一週間が経過した頃、俺の実家には聖凛高校の“合格通知”が届いたのであった。

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