・【バトルステージ4】 徴税官デキウスを討て - 無能将軍バルドゥを逃がせ -
「将軍、ヘバっている場合ではないぞ」
「ほっておいてくれぇ……。部下にも見捨てられて……もう、もう俺は死ぬしかないんだぁ……」
「俺がいる」
「お、おお……っ、俺を見捨てずに――なぁぁっっ、お、お前はっ、あの女狐のっっ?!!」
「我が主イゾルテの命により救援に参った。さあ、共に離脱しよう」
「お、おお……おぉぉぉ、イゾルテ殿ぉぉ……っっ?!!」
気が進まないがこれも任務だ。翼を使って安全なルートを確認しつつ、道を避けて建物から建物へと将軍を誘導した。
「クソ、クソォォ……あの若造も、俺を見捨ておって……っ!」
「いや、あの男は今頃バロンに捕らえられている頃だろう」
「な、なんとぉ!?」
「商船にバロンたちレジスタンスが潜伏しているのをチラッと見た」
「ふ、ふふ、ふはははは……っっ! あの若造めざまぁみろっ!! カオス殿っ、頼りにしておりますぞ!!」
「あ、ああ……」
バルドゥ将軍を連れて西に抜けてゆくと、想定されていたことだが多少の障害が立ちはだかった。
民だ。落ち武者を狩るがごとく、民が将軍を取り囲んだ。
「カ、カカカッ、カオス様お助けをぉぉっっ!!」
「【スリープ】」
術を使うと民の8割ほどがバタリと倒れ、その場でいびきを立て始めた。残りの2割はシャドウボルトで動きを封じ、感激する将軍をさらに西へと導いた。
道中、クイーンとなったイゾルテを見た。氷の魔法剣を使った冷酷無比な刃で、帝国兵という帝国兵を氷漬けにして進んでいた。
「ヒ、ヒィィッ、な、なんなのだ、あの女はぁぁっっ?!!」
バルドゥ将軍はクイーンの圧倒的な魔力に恐怖した。
「ほぅ、あれは相当の手練れだ。敵に回せばカラスとおっさんの彫像にされてしまうだろう」
将軍の悲鳴を聞いてイゾルテはこちらに気付いたようだ。
『よくやった。計画通りその男をこの先に隠せ』
『もちろんだ。しかし悪趣味なことを考えつくものだ……』
『当然だ、帝国には積年の恨みがある……。我は北から行く、そなたは南から抜けろ』
『だからといってあんな――はぁ、承知した……』
氷の女魔剣士を避けて南回りで西に抜けた。
「ありがとうっ、ありがとうっ、感謝していますぞ、カオス様ぁぁっっ!!」
「静かにしてくれ、民に狩られるぞ」
「プギィッッ?!」
そもそもお前たちをハメたのは俺たちだ。感謝されても困るところだ。
さらにもう少し建物から建物を進むと、そこに郊外の土地を使った畑が見えてきた。そこが逃亡計画の終点だった。
「さて将軍、じきに援軍が到着するわけだが、そろそろ俺は行かなくてはならない」
「な、なんですと!? 最後まで守って下され、カオス様ぁぁっっ!!」
「大丈夫だ、このまま西に抜けるより確実な潜伏場所がここにある」
「ここにですかな……? 何やら少し臭いますが……」
将軍は鼻をつまんだ。
「それは肥溜めの臭いだ。そこのふたの下に、人の糞便が発酵したものが入っている」
「なんと汚らわしい!!」
我が主が用意した潜伏場所は、他に手立てがあっただろうにこの場所だ。
「将軍、ここで死にたくはなかろう? 貴方は見つかれば拷問されるかもわからない」
「…………ま、まさか……潜伏場所、というのは……。こ、ここ……?」
「ここなら誰も隠れているとは思うまい。援軍が到着するまで肥溜めの中に身を隠すのだ。拷問か、肥溜め浴か、どちらかを選べ」
将軍はプルプルと震えて葛藤した。しかしそこに風が吹いて草木が揺れると、将軍は飛び上がって肥溜めのふたを開けた。
「カ、カカカ、カオス様ッ、援軍をっ、援軍をここに早くぅぅぅっっ!!!」
「貴方はこの地の希望だ。いいか、決してそこから出るのでないぞ、将軍殿」
少しくらい遅れてもかまわないとイゾルテも言っている。俺は海側からバロンたちの様子を見に行った。
「あ、またカオスだっ! アンタこそこそ何やってんのさーっ!?」
「フッ、久しいな、プリム」
徴税官は既に捕縛されていた。帝国兵の半数も投降し、捕虜となることを選んだ。
「チ、チクショウ……チクショォォ……。エリートの俺が、俺がこんなガキに……っ、つ、強すぎるぅぅ……っ」
バロンは捕らえた徴税官を裁判にかけるつもりだ。ただ斬り殺すより、裁判と刑の執行という手順を踏む方がパフォーマンスになると彼は考えた。
「だ、だがよぉ……へ、へへ……生きて逃げられるわけねぇ……! お前らがおしまいなのは変わってねぇんだ!!」
「確かに一見そのようだが……どうなのだ、バロン?」
バロンは剣を抜いていた。父の敵イゾルテの使い魔を静かに睨んでいた。そこにルディウスとサリサ、つまりは南方からの部隊が合流した。
「裏切り者のイゾルテに伝えろ。お前を倒し、僕は父の仇を討つ。私情ではなく、ファフネシアのために僕はお前を討つ!!」
そうバロンが叫ぶと、まるで示し合わせたかのように船が激しく揺れて悲鳴が上がった。
「必ず伝えよう」
海の彼方に乳白色のピラミッドが現れた。それこそが海底要塞レムリスの地上部だ。船の帆が展開され、風を受けた大商船が彼方の要塞へとゆっくりと海上を走り出した。
「カオス……」
「なんだ、バロンよ?」
「どうして、イゾルテは――」
結局その先は伝える気になれなかったのか、バロンは黙ってしまった。
「お、おおぃぃっっ、お、お前イゾルテの使い魔だろがっっ!!? た、助けてくれっっ、捕まっちまうっっ!! 裁判にかけられてっ、殺されちまうよぉぉっっ?!!」
「すまないが助けようがない。そうだな、お望みなら俺が弁護席に立とう」
「ふざけたことを言うなぁぁっっ!! 助けろっ、助けろっ、俺は評議員の息子だぞっ、助けろこのカラスがぁぁっっ!!」
「……すまん、気乗りしない」
カラスはツバメのように空を切り、彼らの目に届かない高さまで飛翔すると、イゾルテに通信を入れて彼女の元へと降下した。
『見たか? レムリスの雄志を』
『ええ、あまりに綺麗な姿で、感動してしまった……』
『徴税官デキウスは捕縛された。多くの帝国兵捕虜も得られた。将軍は安全な肥溜めで震えている』
『ふふ……完璧ね、離脱しましょ』
俺たちは来たときと同じ馬車に乗り込み、避難民を装って追っ手の帝国軍を隣を抜けた。
今さら駆けつけても遅い。バロンたちは海上要塞に離脱し、要塞が海中への潜水を始めていた。
帝国軍はそれを指をくわえて見守るしかなかった。
「ところで、そろそろ将軍の居所を伝えるべきではないか?」
「気乗りしないわ、後にしましょ」
「フ……ひどい人だな、君は」
「貴方のおかげでいい気分! ふふっ、すごく、いい気味よ!」
将軍が肥溜めの中で真っ青になっているのが発見されたのは、日が沈んだ後のことだったという。
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