第17話 決勝戦 - 前編
[BUILD PHASE START]
決勝戦の開始を告げる無機質なアナウンスが、僕の意識にスイッチを入れた。
作戦は決まっている。相手の『拠点制圧』戦術の弱点、前線に出てくるクラフターを、僕たちが作る空中要塞で叩く!
「ユイ、いくよ!」
『了解、リク!』
僕は、ユイとの高速連携で、複雑なクラフトを一気に組み上げようと、スキルを発動した。
しかし——。
[INPUT REJECTED: ABNORMAL COMMAND FREQUENCY]
ゲーム画面に表示された無慈悲な赤色の警告。僕のコマンドが、弾かれた。
もう一度、試す。だが、結果は同じだった。運営が仕掛けた「負荷軽減パッチ」が、僕とユイの連携を、僕たちの最大の武器を、完全に塞き止めていた。
『おーっと、どうしたことでしょう! ここまで神がかり的なクラフトスピードを見せてきたチーム『ジャンク・キャッスル』のリク選手、手が完全に止まっています! これは、運営から発表があった「負荷軽減パッチ」の影響なのでしょうか!?』
「くそっ……!速く、作れない……!」
指が、思考が、止まる。どうしようもない焦りが、僕の全身を支配した。
『リク、高速な連続入力がダメなら、一つ一つのコマンドを、丁寧に、最大効率で実行するしかない』
パニックに陥る僕の心に、ユイの、静かで、しかし透き通った声が響いた。
「うん。……落ち着け! 落ち着け、僕!」
僕は、自分の頬を一度だけ、強く叩いた。気持ちを無理やり鎮め、猛スピードで頭を働かせる。敵が拠点を作って包囲陣形で攻めてくるなら、こちらは一点突破しかない! なら!
「みんな、今から言うパーツを探して来てほしい」僕はヘッドセットに叫んだ。「それから、クラフトのビルドに時間がかかる。ビルドフェイズの時間をオーバーしてしまうかも……」
『分かったよ。みなまで言うな!』即座に、クエンティンの力強い声が返ってきた。『任せろ! 時間は俺たちが作ってやる!』
「クエンティン……ありがとう」
『俺たちは何を集めればいい?』
『そうそう、時間がもったいないよ!』
リョウガ先輩とミミ先輩も、僕の作戦を信じ、即座に行動に移ってくれた。
僕がいつも通り必要なパーツを伝えると、みんなは戦場にほうぼうに散っていく。僕はまず、手近にあった板とブロックを組み合わせ、僕たちの命であるコアを慎重に設置した。
後は、時間との戦いだ――。
仲間たちが、次々と必要なパーツを見つけてきてくれる。後は組み上げるだけだ。その前に、僕はみんなに尋ねた。
「何か付けておきたいパーツありますか?」
「じゃあ、いつも通り『バネ』を両足に付けて!」ミミ先輩が答える。「『大砲』は操作しづらくなるから、いいや」
「はい。じゃあ、これで」
「俺はいつも通り『板』の盾と、今回は『クロスボウ』を付けてくれ」
「分かりました」
「クエンティンは?」
「俺はいいよ。それより、最高の城を作ってくれ」
「うん、分かった」
ビルドフェイズの終了を告げるブザーが鳴り響く。だけど、僕の目の前にある要塞は、まだ完成には程遠い、アンバランスなパーツの塊だった。
「みんな! やっぱり要塞の完成は間に合いませんでした。でも攻撃はできるから、一旦引いて守りに徹しましょう!」
『ええ~っ、リクっち、私の装備だとそれムズいんだけど!』
ミミ先輩の悲鳴のような声が聞こえる。
「すみません、そこは何とか頑張って下さい!」
僕はせめてもの盾と目隠しとして、三枚の板を要塞の前に立てた。
『これは……なんと静かな立ち上がり! 決勝戦らしからぬ、異様な膠着状態が続いています! 両チーム、相手の出方を窺っているのか、それとも、何か壮大な仕掛けを準備しているのか……!?』
アクションフェイズが始まっても、僕たちは動かない。敵も、僕たちが攻めてこないのを見て、こちらの陣地内に、さらに新たな拠点を築き始めていた。
決勝戦らしからぬ、互いが守備を固め、クラフトを続けるという、地味で、息の詰まるような膠着状態が続いた。
だが、それも二分ほど過ぎた頃。ついに『アヴァロン・ガーディアンズ』の新しい拠点が、僕たちの要塞のほぼ射程距離という場所に完成した。
『まだか? リク』クエンティンが焦った様子で聞いてきた。
「もう少し。今下手に動くとやられると思う」
『だが、もう待った無しだぞ』リョウガ先輩も、流石にシビレを切らした様子だ。
『まあまあ、リクっちの言う通り、下手に出て行ってもしょうが無いんじゃない?』
その時、鋭い『バネ』の伸びる音が、戦場に響き渡った。
その音は、敵が、ランスロット達が攻めて来たことを告げる音だった。
「みんな迎撃頼む!」
『言われなくても!』
クエンティンが、要塞後部に僕が設置しておいた『バネ』で空へと飛び、迎撃に向かった。
『リク、そろそろ動かねーと、何やってるかバレるぞ!』
斥候に出てきた敵の一人を、クエンティンとリョウガ先輩、ミミ先輩の弓矢が撃ち落とす。だが、こちらの要塞の異様な形を、完全に見られてしまったかもしれない。
「分かった! じゃあ、リョウガ先輩、操縦をお願いします!」
『えっ、俺が?』
リョウガ先輩の驚く声。
「はい。今回は僕は修理しつつ、後方から全体をサポートします!」
『覚悟を決めてくれ、先輩』クエンティンが茶化すように言うと、リョウガ先輩も、意を決したように深く頷き、僕が組み上げたむき出しの『ハンドル』を握った。
それを見て、僕はスキルで、目隠しのための三枚の板を、バタン、と前に倒した。
『なんだーーーっ!? あの三枚の板は、目隠しだったというのか! その奥から現れたのは……な、なんだ、あの巨大な要塞は! まるで、大昔の戦艦だ!』
その瞬間、現れたのは、これまでのジャンク・キャッスルとは似ても似つかぬ、威容を誇る陸上戦艦だった。前方に突き出された、三門の巨大な『大砲』。その姿は、大昔の伝説に語られる、不沈艦のようだった。
リョウガ先輩が、その太い声で、高らかに叫んだ。
「ようし! 陸上戦艦『ヤマト』、発進!」
「いけぇ!」
彼の掛け声と共に、三門の『大砲』が同時に火を噴き、凄まじい轟音を立てて、完成したばかりの敵の拠点を、跡形もなく木っ端微塵に吹き飛ばした。
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