第15話「鍛冶ギルドと牙を剥く影」
王都の空は、秋の終わりを告げるように高く澄み渡っていた。
工房の炉が赤々と燃えるなか、フェンが黙々と鉄を打っている。その腕前はすでに見違えるほど成長していた。
ライラは防具の革と金属のバランスを調整し、グリトは細かい刻印や仕掛けの試作に没頭している。
「――よし、今日はこれで一度火を落とすぞ」
オリンの声に、三人の弟子が一斉に手を止める。
夜更けの鍛冶は危険が多い。だが、それ以上に、心を削る。
サーシャが軽やかに扉を開けて入ってきた。
「……お邪魔。今日は少し厄介な話を持ってきたの」
「厄介、か」
「うん。鍛冶ギルドの“査問官”がこっちに来てる」
工房内に緊張が走る。
鍛冶ギルドとは、王国の鍛冶職全体を束ねる存在であり、王都の権威そのもの。
オリンが王都から追放された一件も、元はそのギルドの中枢との対立によるものだった。
「“査問官”って、認定工房への抜き打ち検査?」
グリトが不安げに口を開く。
サーシャは頷いた。
「灰狐商会と繋がってる“誰か”が、密告したのかもね。“子どもを使った鍛造”とか、“危険な刻印の乱用”とか、ね」
「冗談じゃねぇ……」フェンが眉を吊り上げた。
「俺たちは真面目にやってる!」
「だからこそ、やられる前に備えるのよ。今晩中に、記録と完成品を全部確認して」
「問題はない」とオリンが言った。「だが“準備”は怠るな。奴らが見るのは“真実”じゃない。“都合のいい証拠”だ」
翌朝、鍛冶ギルドの査問官が現れた。
黒い外套をまとった男。冷たい目に知性と傲慢が宿っている。
「――オリン・ハルド。この工房での活動を監査させてもらう」
「好きにしろ。炉も記録も、お前の前で全部さらす」
オリンは一歩も引かない。だが弟子たちは明らかに緊張していた。
査問は細かく、苛烈だった。
作業台の並びから、刻印の筆跡、温度記録まで――。
途中、グリトの試作品のなかに、未申請の“連動仕掛け”があることを指摘される。
「これ、申請されていませんね。使用中止処分に相当します」
「まだ試作段階だ。納品もしてないし、危険性も報告済みだ」
「――あなたの報告が“信用に足る”ならば、ですが」
静かなやりとりの中、フェンがついに声を上げる。
「信用って何だよ! 俺たちは毎日、火を見て、鉄を打って、真面目にやってるのに!」
「信用とは、積み上げるものです。あなた方のような“無資格の弟子”がいる工房に、王都の認定を与えたこと自体が疑問視されているのですよ」
その瞬間、ライラが一歩前に出た。
「じゃあ……見てください。私たちが鍛えた防具。実戦で使われて、村を救った盾です」
彼女が差し出した小さな胸当てには、山賊の刃を受けた跡がくっきりと残っていた。
査問官は無言でそれを受け取り、しばらくの間、じっと見つめていた。
「……記録に残しておきましょう」
そう一言だけ残して、男は去っていった。
その夜。
工房の灯りが落ちた後、オリンはひとり、使い込まれた工具を磨いていた。
「……信用は、時間がかかる。でもな、一度ついた“火”は、そう簡単に消えねぇ」
「オリン」サーシャが後ろから声をかける。「きっと、伝わるわよ。あの盾も、この工房も」
「伝わらなきゃ、“火”をもっと強くすればいい」
「そのためには、次の依頼が必要ね」
「あるのか?」
「灰狐商会の動きに腹を立てたって噂の貴族から、“特殊装備の依頼”が来てる。ちょっと、癖があるけど……受ける?」
「当然だ」
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