第61話 非情な現実
――――――目を覚ました僕が見たのは、見覚えのない天井だった。どうやら、僕はそのまま、病院に担ぎ込まれたらしい。
「やあ、気が付きましたか」
穏やかだが、背筋がぞくりとするような声。やはり声の主は、クロガネ社長だった。出張から帰って来たらしい。……それだけの間、僕は眠っていたのか。
「し、社長……? 僕、一体……?」
「ご心配なく。眠っていたのは、丸一日程度ですよ。そんなに重症じゃないです」
少し頭がぼうっとしていたが……クロガネ社長のにこやかな笑顔を見た途端、僕はすぐさまガバっと起き上がった。
こんな、寝ている場合ではない。気になることがある!
「あ、あの! あの子たちは、どうなりましたか!?」
「ああ、あの双子ですか。……案外、元気でやってるみたいですよ?」
僕なんかに初めてを捧げなければいけなかった、可愛そうな女の子。しかもその後、さらに純潔をもう一度奪われるという、本当に可愛そうな娘たち。
彼女らを借金の片に売ったのが、他でもないクロガネ社長。だから、出張から帰ったらどうなったのか、どうしても聞きたかった。
「例の変態さんね。生娘の処女膜を破るのが好きなんですが、逆に一度破った女には興味がないんですよ。何だったら、囲っている女に他所の男が出来ても、知らぬ存ぜぬくらいの放任主義だそうで」
「そ、そうなんですか……」
「そう言う意味では、一度我慢したら自由なだけ幸せでしょう。どっちかというと、親御さんの方が大変ですかね」
「え?」
「事業を手掛ける金もなくなり、愛人や使用人たちにも逃げられたみたいで。今だと路地裏で乞食をしているそうですよ?」
「……そうですか……」
なんてひどい、という気持ちが浮かんだが、冷静に考えたら……このお父さんが【ヤディアラ】なんて行くお金を借りなければ、こんなことにはならなかった。誰も傷つくことも、なかっただろうに。……せめて、利息だけでも払っていれば。
そう思うと、何だか一から十まで同情する、という気持ちにはなれなかった。
「ところで。ルイくんが寝ている間に、色々と手続きがあったんですけどね?」
「え?」
首を傾げる僕の前に、クロガネ社長はドスン、と金の袋を置いた。ざっと金100が入る袋が、満ち満ちに詰まっている。
「……何ですか、このお金」
「君の報酬ですよ。【ダンジョン】で採取した素材の下取り代」
「……あ、そうか。じゃあ、モーダさんの借金は……?」
「それなんですけど。――――――完済されてないです」
「……え?」
言っていることの意味が理解できず、僕は声が出てしまった。
だって、この素材の下取り代があれば、借金なんて――――――。
「……あれ、ちょっと待って下さい? このお金……!」
「あ、気づきました?」
「……これ、全部じゃないですか!?」
僕の想定だと、素材の下取り代は、僕とモーダさんで折半。その折半分で、モーダさんの借金は十分返済できるだろう踏んでいた。
【頭突きトカゲ】と【シャッコー・ゴーレム】という上位ランクの魔物を、下位ランクの冒険者である僕らが討伐し、素材を持ってきた。いくらかボーナスが付くとしても、多くて金100くらいだろう。なので、金50ずつ。僕としても十分だし、モーダさんも借金を返して、少しばかり余裕がある計算だった。
「……何でそれが全部、ここにあるんですか!? モーダさんの分は?」
「ルイくん。今回の【ダンジョン】での魔物討伐ね。……公的には、君一人の手柄になってるんですよ」
「え……」
******
――――――僕は【ダンジョン】から出た時、ぐっすり眠っていたので知らなかったのだが。
【ダンジョン】を出た僕らの前に待っていたのは沢山の冒険者と、腕を組んで待ち構えていた冒険者ギルドの職員たちだった。
「……よう、連れて来たぞ」
「ご苦労様です」
アドレーヌの言葉に、ギルド職員たちはピシッと頭を下げる。そして、僕を背負っていたモーダさんの脇を、ガシっと抱える。
「ルイくん!! ルイくんっ!!」
「うるせえな、寝てるだけだよ。とっとと病院に連れてけ」
モーダさんから引きはがされた僕を支えてくれたのは、駆け寄って来たミカちゃんだったらしい。そしてアドレーヌさんは、僕の冒険者証を首から引きちぎると、ミカちゃんに渡した。
「この魔物の素材、コイツが採って来た奴だ。下取り頼むわ」
「ルイくんが……? あの、アドレーヌさんは?」
「アタシは関与してねえ。冒険者証でわかるだろ」
冒険者証には、冒険者たちの活動を記録として保存する魔法がかけられている。なので、実際に誰がどうやってクエストをこなしたのか、ギルドで調べることが出来る。
報酬の取り分などで冒険者同士が揉めることがあるので、ギルド側で公正に判別するために作られた仕組みらしい。こんなの作る人は、相当頭がいいのだろう。
「モーダ・メッソ! ギルド無断侵入罪で、話がある。ギルドに来てもらうぞ」
「え……!」
「来い!」
「……は、はい……」
そうしてモーダさんは、ギルド職員に連行されて行ってしまった。
僕はミカちゃんたちに病院へ連れて行かれ、「疲労が一番大きい」という医者により、殆どほったらかし同然でベッドで眠っていたのだった。
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