第38話 最悪の自作自演

「ぐうううううううううううううううううううううううううううううううっっっ!!」


 アドレーヌの金属棒の一撃は、侯爵の頬にクリーンヒット。強烈な一撃と、驚きの余り歯を食いしばる余裕もない。

 結果、横なぎの一閃は侯爵の左頬の肉と、彼の歯をすべて引きちぎった。


「うう、うううう、うううううううううう!!」

「だ……旦那様ぁっ!?」


 口元を押さえてのたうち回る主人を前に、使用人は顔を真っ青にする。殴った当のアドレーヌは、金属棒をクルクルと振り回して倒れた侯爵に睨みを利かせていた。


「き、貴様ぁっ!! 一体、な、なんてことを……!」

「ああん?」


 ギロリと使用人を睨みつけるアドレーヌの迫力に、使用人は「うっ」と口ごもってしまう。何が理由かはわからないが、不満を持っているのだ、と言う意志は伝わってきた。


「ど、どうしてこんなことを!? 金3000と言ったのは貴方だろう! 不足もないはずだ!!」

「そーだな。。……借金の返済額、ちゃんとあるじゃねえか」

「ふがぉ……!?」


 アドレーヌの怒りを含んだ言葉に、侯爵は呻きながら彼女を見やった。借金と言う単語に、僅かばかりだが心当たりがあったからだ。


「思い出したか、間抜け野郎? テメー、1年前に【クロガネローン】で、金借りたよな? 金5だ」

(……【クロガネローン】、1年前……まさか……!?)


 アドレーヌの言う時と場所は、心当たりがある。


 1年前、【グランディア】に仕事で出張をした時の事。


 折角なので有名な娼館街【ヤディアラ】に行ってみようと思い当たり、その際に【クロガネローン】で金を借りたのだ。公費を娼婦相手に使ったとあっては、大問題になるだろうから、リスク回避のために。


「その後、逃げるように街からいなくなりやがったよな? で、利息すら送って来なかった。おかげで利息は膨らみに膨らんで、たった金5が3000にまで膨らんじまったよ。督促の手紙も何度も送ってんのに、無視決め込みやがって」

「ほ、ほへは……!!」

「……【グランディア】出張ということは、直後にBランク相当の魔物が領地に出現して、大急ぎで戻っていただいた時期だ! 仕方がないではないか!」

「その後の利息を払わねえのも仕方ねえってのか!」

「ふぐうっ!!」


 アドレーヌは一切の容赦なく、倒れている侯爵を蹴った。侯爵は吹っ飛び、壁に激突して、芋虫のようにうずくまってしまう。口に溜まった血が飛び散ったせいで、執務室の絨毯には血の斑点があちこちに染みこんでしまっていた。


「とはいえ、だ。金3000にもなっちまったら、いくら貴族様でも払えるかどうかわかんねー。だから、ホントに支払えるかどうか、確かめてみたらよぉ」

「確かめる……? まさか、ゴブリンの死骸を庭園にばらまいたのは、お前なのか!?」

「そうだよ」


 死骸を庭にばら撒けば、ゴブリンたちは怒り狂ってこの屋敷に押しかける。それが分かれば、きっと冒険者に討伐を依頼する。


「そんでその依頼を私が受ければ、ここにどれだけの金があるかも把握できるってわけだ」

「バカな……だと!? そんな事のために、貴様はあんなことをしたのか!?」

「うん。私、金貸し屋だから。社長からも「好きにやっていい」ってお墨付き貰ってるし」


 アドレーヌはバッサリそう答えると、倒れている侯爵に向かってしゃがみこんだ。


「……で、まだ何か文句あるか? 借りた金も返さないクズ侯爵さんよぉ」

「……は、はふへへ……」

「あん? 何言ってっかわかんねえよ」

「はふへへ、ふへ……!!」

「そ、そうだ! ゴブリン! 貴様が呼んだんなら、貴様が何とかしろ!」


 使用人が叫ぶと、アドレーヌはじろりと見つつ、すくっと立ち上がった。


「あー、そうだそうだ。ゴブリンの撃退しないといけないんだったな」

「だから! お前が呼んだんだろうが!!」

「そーそー、大変だったわ。あちこちの巣に行って引っ張ってきて、なぶり殺しにしてよぉ。20くらいの巣から引っ張って来たから、大軍勢になるだろうなあ」

「だ、大軍勢……!?」

「500匹は下らないんじゃね?」


 500!? この屋敷に、それだけの数のゴブリンが、押しかけて来るというのか! ……そんな数、Aランクとはいえ1人でどうにかできるのか!?


「ま、依頼は依頼だから引き受けるけど。――――――そこの芋虫に言っとけ。逃げたらもっと酷いってな」


 そう言い、アドレーヌは執務室から出て行ってしまう。


 出ていくときに、侯爵の身体を踏みつぶすのは、きちんと欠かさなかった。


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