【凶犬】アドレーヌさん
第34話 【勇者景気】の到来
―――――――その日、【グランディア】及び、王国中に大ニュースが報じられた。
遠くない未来に来たると予言された大いなる厄災に対抗するべく、【勇者】が誕生したというのだ。
そして、【勇者】と同行するべく、王国は直々に優秀な冒険者を指名した。
【勇者】パーティーの誕生である。そして【勇者】パーティーはこれから、力をつけるために王国中を漫遊するらしい。
王国の各地は色めき立った。何しろ【勇者】の誕生とは、心の安寧となる――――――から、だけではない。
「【勇者】様が来た場所ってなったら、それだけで宣伝効果になるからね。観光客も増えるから儲かるでしょ」
「なるほどねえ」
報じられたニュースには、【グランディア】の人々も興味津々。僕が集金に街を歩いている間も、すれ違う人たちは【勇者】の話ばかりだ。
「それに、それだけじゃねえ。武者修行のために、地上の高ランク討伐クエストを、行った先の冒険者ギルドで片っ端から受注してこなしてるって言うぞ」
「へえー。実力は……まあ、言うまでもないわな。じゃあ……」
「ああ。地上の危険な魔物が一掃されるからな。旅もしやすくなるってことよ」
(じゃあ、流通とかも盛んになりそうだな……)
そうなると、王国全体の景気が良くなりそうな、そんな気がする。いうなれば、【勇者景気】ってところか。
噂話を耳に挟みながら、僕は取り立ての仕事をこなしていく。その間も、「【勇者】ってのは、なんでも女の子らしい」「王国騎士と、賢者と、聖女が仲間らしい」「村娘だったのが、聖剣に選ばれた」などなど、情報は勝手に、続々と仕入れることが出来た。
……そんな中で、気になったことが一つ。
「景気が良くなるって言うけどさぁ。割を食うのは、俺達冒険者だよなあ」
とある冒険者から利息を回収していた時、やっぱり【勇者】の話になって。その人が、こんなことを言っていたのだ。
「高ランクモンスターの討伐クエストってのはよ。俺達冒険者の一番の稼ぎだからさ。横取りされちまったら、食い扶持が減っちまうよ」
「……あ、そうですね。確かに……」
「余程の緊急クエストでもない限り、依頼主だって【勇者】様に頼むだろうしな」
【勇者】パーティーも、一応括りとしては冒険者ギルドに所属する冒険者という名目だ。なのでギルドで管理しているクエストを受注するのだが。
そうなると、あちこちの街にいる冒険者たちとクエストの取り合いをすることになる。というか、冒険者からしたら【勇者】に報酬の良いクエストを横取りされたに近い。
「……そうか。そうなると、冒険者さん、稼げなくなっちゃいますね」
「ま、【勇者】が受けるのは地上のクエスト限定だから、【ダンジョン】で稼ぐような奴には関係ないだろうがな。俺達みたいな地上でもがいているような連中には、嫌な話だよ」
世間で訪れが待ち望まれている好景気は、冒険者たちを犠牲にして成り立つもの。冒険者たちの生活は、これから苦しくなってくるだろう。
「……困ったら、いつでも相談してくださいね? じゃあ、また10日後に」
「勘弁してくれ。今の時点でひーひ―言ってるんだからよぉ」
冒険者は冗談半分、本気半分でそう言うと、フラフラと歩いて行ってしまった。きっと、冒険者ギルドにクエストを受けに行くのだろう。そうしないと、利息と生活費を確保できない。休みなんてほとんどない、ブラックなお仕事だ、冒険者って言うのは。
「……冒険者さんへの融資、増えるかもなあ」
口ではああ言ってても、お金は手元になければどうにもならない。となると、借りられるところに借りに来るしかないだろう。
そうなると金貸し屋の僕として考えるべきことは、どうやって返済をしてもらうかだ。景気が悪くなるなら、返済だって大変になるに違いないのだから。
……いや、考えても仕方ない。僕ら金貸し屋の仕事は、お金を貸すことだ。生活に困っている人がいるのなら、立て直すためにお金を貸す。新しいことに挑戦したい人がいるなら、成功を願ってお金を貸す。それが、金貸し屋として僕が彼らを応援できる、唯一の手段。
最近は、そういうマインドになってきた。勿論貸したお金は返してもらわないといけないんだけど。だったらちゃんと返せるようにサポートしてあげるのも、仕事の内じゃないかと思うのだ。どうしても返せないなら、その時どうするかは、その時知恵を絞ろう。
こんなことをマンダさん辺りに聞かれたら「何甘いこと抜かしとるんじゃ!」とドツかれるだろうけど。
なのでこれは心の中にそっと秘めた、僕の金貸し屋としての矜持と言う奴だ。
そんな矜持を胸に、粛々と今日の分のお金を集金し。返済を渋る人には、どうやったら返せそうかを一緒に考えて。
結果、予定していた時間よりも遥かに遅く、夕方ごろに僕は事務所に戻ることになった。普段は朝に集金して、昼過ぎには戻って来れるんだけどね……。
返せない人の返済の宛てを一緒に考えてると、時間がかかるんだ、これが。
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