第3話 鋼鉄の巨人

夜の美術館。黒いパーカーの青年テッドが静かに美術品を奪い、屋上から姿を消す。その直後、警察のサイレンが響くも、青年はまるで予測していたかのように道を選び、追跡を華麗に振り切った。


「このスリルがたまらねえな、全く。まあ兎も角だ。お宝はいただいたぜ」


翌日の昼休憩の事。マドカはスマホでSNSを眺めながら自作した弁当を食べていた。栄養配分を十分に配慮した内容である。


「また美術品盗難ねえ。この前は金持ちの家の泥棒。物騒な世の中になったもんだな。ま、金持ちの方は阿漕な稼ぎやってたっぽいから、全然同情出来ないけどな。連中の事、可哀そうだとも思えんし」


と、マドカはいつも通りドライな感じだった。


「アンタ、こういうニュースみたいの興味ないとばかり思ってたわ」とセイラが現れる。


「誰が好き好んで、欲にまみれた権力者共の自己顕示欲を満たすようなもの見るかっての。とはいえ、それは少なくともあの一件まではな。流石に情報収集の重要さを思い知ったんだよ」


あの一件とは、ゴルダの事だとセイラは察した。が、マドカとの取り決めで下手に言いふらさない方が良いかもと言われ、誰にも言ってない。


「ああ、アレね。それはそうと、この前、何か作ったって言ってたわよね?見せなさいよ」と要求。


「石動……お前さ、見せてくれない?を通り越して、見せなさいよ、とか。見事なまでのジャイアニズムじゃねえか」


「減るもんじゃないし、良いでしょ?」


「ま、お前の言い分も一理あるしな。放課後に家に来れば見せるよ」とマドカはあっさり了承。


*


そして矢神家。閑散とした家にマドカがセイラを通す。


「私の家と違って、いつも静かだし誰もいないわね」


「ま、両親は多忙だし、姉は都内の大学行くのに1人暮らしだからな。とりあえず入ってくれよ、見せたいものがあるしな」


リビングの机に座ると、マドカはポケットからスマートフォンのような端末を取り出した。


「これは“トランスブラスト”。ラウズの光をこの中に組み込んである。変身、解除、技の発動。全部これだけで行う。無論、スマホとしての機能も完備されてるんだ」


セイラは驚きで言葉を失った。


「……いや、待って、ちょっとそれ凄すぎない? え、今スマホとしても使えるって言わなかった?」


「当然。通話もSNSもゲームもできる。見切った敵の技を登録して、使用・無効を任意に切り替える機能付き」


「なによ、そのハイスペックは……アンタ、日本の中学行く必要ないじゃない」セイラは唖然する。


「ま、アメリカの大学飛び級で卒業してるから、このくらいはな。念のため、スペアもあるし」とマドカは軽く笑った。


その頃、レギオンの作戦本部ではクルセイダーズが反省会を開いていた。前回アラクネを取り逃がしたことで、隊長の声も厳しさを帯びていた。


そこへホログラムが点灯し、若い青年の姿が現れる。


「心配には及びません」


と、穏やかに話す彼は“イラストレーター”のコードネームを持つ推論担当アポロだった。


「イラストレーター」伊達隊員が思わず呟く。


「アラクネはあの後倒されました。レボリュウとは別の存在を感知しましたので。我々の予測は継続的に進化しています。最近動き始めた、レボリュウを操る存在、そしてそれに抗う存在が。皆様、引き続き警戒を。そして可能ならば、情報を持ち帰ってください」


ホログラムは消滅した。レボリュウに関わりのある存在についての対応策に話題が切り替わったクルセイダーズだった。


*


同じ頃。ある日の夕刻、大型トンネルの工事現場。


「もう少しでトンネルが開通しそうですね」


「ここまで数年はかかったもんだ。あとは安全性のテストを……」


ここで現場指揮官の首が跳ね飛ばされ、胴体は巨大な腕につかまれていた。まるで餌でも食べるように捕食を始めた。


「化け物だあああああ!逃げろおおお!」


だが、トンネル開通工事に携わっていた全員消息を絶った。巨大な足跡と、地面を掘り返した跡だけが残されていた


それから数日後の事。休日を利用して買い物中だった村上隊員は、交差点で見知らぬ青年とぶつかる。


「あっ、すみません。お怪我は……」と咄嗟に謝るが、青年は無表情に何か訳の分からない言葉を呟いた。


「!?」そのまま青年は立ち去る。


直感で何かを感じた村上は、彼のあとをつける。廃墟となった建物に辿り着き、物陰から様子を窺うと、青年は“生体鎧”のような異形の存在と何やら会話していた。隠れながらそのやり取りを盗み聞きする。


「鎧を着こんでいるのは女性?さっきの男と道の言語で会話をしているのか?まさか、レボリュウを操っている存在って……」


「ゾラン」「デルフ」といった単語が聞き取れる。


「!?」やがて村上の気配に気づいた鎧を着た女が瞬時に反応する。


女は殺意を剥き出しに向かってくる。逃げようとするがすぐに追いつかれ、胸ぐらをつかみ、腹パンを受けた。一瞬で意識が遠のきそうになる村上隊員。


【このままじゃ、殺される!】


が、青年が手を上げて静止。威厳をもって何かを呟き、女は舌打ちをしてどこかへ消えた。


青年は村上に近づき、興味深そうにじっと見つめる。その眼差しは、どこか我が子を見つめる親のようだった。次の瞬間、ゾランは村上に手をかざす。光が弾けた。


村上は気が付くと、公園のベンチで目を覚ました。周囲に誰もいない。先ほどの出来事を思い出そうとしても、肝心な部分だけが霞んでいる。傷も治っていた。


「……なんだったんだ……?」


夜。白銀の光球がトランスブラストから発光する。


「化け物でも見つけたのか?」


光が差す方向に従い、マドカは人気のいない場所に到着。


「ライド・オン」光が包み込んだかと思うと、白銀の生体鎧、目元にバイザーを装備されたもう1つの姿、ラウズへ変身。


「さて、行きますか」光となって現場まで一瞬で向かった。


たどり着いたトンネル。先日消息を絶ったさぎゅいんとは別の人を、鋼鉄の巨人たるコードネーム「ゴーレム」掴み上げて捕食しようとした。その瞬間、銀光がトンネルを照らす。そのまま作業員を救出した。


「このおっさん、気絶してるか。まあ、そのほうが都合がいいんだが」作業員を安全な場所に安置し、ゴーレムに向き合う。


ラウズは掌から光の球を作り出す。ライトボールで目くらましを仕掛け、恐怖で動けなかった残りの作業員を救出して避難させる。


「ライトボールで倒れるとは思えないが、どうする?」


続けて開発した新技の数々、太陽光線を思わせるソルーチェ、星形のファンネルを出すスターリヒトによる大量レーザー照射を浴びせるが、ゴーレムの硬質な体にはダメージが通らない。


「ならば!」と放った“クリアドロップ”が、右目を削り取ることに成功。しかし、それでもゴーレムは動きを止めなかった。


「おい、ちょっと待て!クソが……硬すぎだろ……!」


ゴーレムは地面を掘り、深部へと潜って姿を消した。追えなかったラウズはその場で変身解除し、膝をついてへたり込む。変身は解除され、マドカに戻った。


「……ああ、クソ、どうすりゃ良いんだ……」


月明かりだけがトンネルを照らしていた。

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