婚約者に捨てられ、親友に裏切られた私ですが――どん底からのストーリー
ワスレナ
第一章
第1話 絶頂だった私、派手に逝きました!
私、
髪も目もごく普通の色、モデルみたいに完璧じゃないけれど――友達からは「そこそこ可愛いし、愛嬌あるよね」なんて言われる。
笑えば雰囲気が柔らかくなるのは、自分でもちょっとした取り
シャンデリアがきらめく高層ホテルの最上階での貸切ディナー。
今日この時のために、メイクもコーディネイトもばっちしキメてきた。
窓の外には都会の夜景が広がり、宝石箱をひっくり返したみたいに光が
その真ん中で、私は彼と向かい合っていた。
テーブルの上にはフレンチのフルコース。
フォアグラだのトリュフだの、テレビでしか聞いたことがない料理が、当たり前みたいな顔で並んでいる。
ナイフとフォークを持つ手が、ちょっと震えてるのは緊張のせい。
向かいに座る彼――
大企業の御曹司で、誰もが
三カ月前に婚約を申し込まれた時、夢じゃないかと頬をつねったくらい。
その彼が今日、「大事な話がある」って言ってきたのよ。
……大事な話なんてもう、答えは決まってるじゃない。
そう、次は『結婚』のプロポーズ――。
頭の中ではすでに白いドレスを着てる私がいる。
バージンロードを歩く自分の姿を想像して、思わず顔がにやけそうになる。
大企業の社長夫人という、最高の未来がすぐそこにあるんだ。
心臓はバクバク。
グラスを持つ手のひらに汗がにじむ。
急に緊張してきたってわけ。
でも、こんな緊張さえも嬉しい。だって今日は、私の人生で一番幸せな日になるんだから。
彼は窓の外に広がる都会の明かりを眺め、優雅にワイングラスを傾けている。
その横顔は少し口角を上げ、薄い笑みを浮かべているように映る。
イケメンの瞳に光が差し、ドキリとさせる。
やがてグラスをテーブルに置き、私の顔を見つめる。
――いよいよその時か……
彼の唇が開く。
「……なあ、未春」
きたっ!!!
「な、……何?」
平然を装い、澄ましながら答える。
「今日は来てくれてありがとう。……改めて、君に言いたいことがあって、呼んだんだ」
「わ、私こそありがとう。こんないい場所に呼んでくれて。……改まらなくても私、何だって聞くよ」
その言葉に彼の目が一瞬、
「――そうか。それを聞いて安心した。じゃあ、ここで言わせてもらうよ」
私の心臓は破裂寸前。早く言ってよ!
――運命の一瞬が迫る。
彼の唇が再度震える。
「――俺と、別れてくれ」
「……へっ?」
思わず出た言葉の後、私の頭は真っ白になり、フリーズする。
何なの?
冗談よね。笑えないけど……
「呼んでくれ」
彼はそう言って右手を挙げる。
ウェイターが会釈し、入り口へと向かう。
「……なななな」
頭はパニックになり、言葉にならない言葉が出る。
やがてウェイターは一人の女性をエスコートして戻って来る。
彼が会釈すると、ウェイターは持ち場に戻って行った。
そして彼は立ち上がり、女性の隣に立ってこちらを向く。
「紹介しよう……」
彼が言いかける時、私の心臓は一瞬止まった。
隣に立っている女性の顔……長く
――私が見知った人物だ!
何で貴女がここにいる?
彼は話を続ける為、口を開く。
(聞きたくない……
「俺の妻になる
堂々と言ってのけやがった!
その名前は私にとって、とてもなじみがある。
――なぜなら……
小学二年生の時に知り合った、私の唯一の大親友――
苦しい時、辛い時に親身になってくれた姿がフラッシュバックする。
その直後、彼女は薄い笑みを浮かべて私を見た……。
「アンタああぁぁぁぁ!!!!」
私の口をついて絶叫が出た。
「おいおい、そんな大きな声を出すなよ。彼女が怖がるじゃないか」
彼だった男が上目遣いにニヤニヤして私に言った。
「何でよ! 言いなさいよ!」
涙も出ない。
振り絞って何とか言葉にした。
「――飽きたんだ。もうウンザリなんだよ……」
その言葉に言いしれぬ冷酷さと絶望感を覚える……
「家にあったお前の所有物は、段ボールにまとめてお前の住所に送った」
二人は私に対してニヤつく。
浩康は左手を横に広げ、私に指し示す。
出入り口へと……
「どうぞ……」
出て行けと言っているのか!!
私は拳をこれでもかというほど握りしめる。
できることなら殴ってやりたい……
――だが、もう遅い。
私は決意し、バッグに手をかける。
立ち上がった次の瞬間、一気に全速力で駆けだす!
――彼の横をすれ違い、視界から消してひたすら前へ。
出入り口を走り抜け、その先のエレベーターまで!
ボタンを押すと、扉は開いた。
あとは一階のボタンを押し、扉を閉めた。
下へ動きだすにまかせ、過去がフラッシュバックする。
会社の上司からの紹介。
初めてのデート。
優しかった性格。
完璧なエスコート。
初めてのキス。
体を重ねた夜……。
やっと涙が
共に歩んで来た二年間が音を立てて崩れていく……。
――何もかも、終わった。
◇ ◇ ◇
ホテルの門を出て、帰途に着こうと歩き出す。
何も考えたくなかった。
導かれるように横断歩道の前に立つと、老婦人が歩き出していた。
信号は青。
ふと右を向くと、スポーツカーが猛スピードで向かってくる。
信号無視?
私は無意識に動き出し、老婦人に追い付く。
後ろから手を引き、体勢を入れ替えて押した。
「ごめん!」
飛ばされ遠ざかる老婦人の見開く目が入ってくる。
私は笑った。
願わくば、このまま
スポーツカーのタイヤとエンジンの音が大きくなる。
目の前が暗くなり、願いが叶う。
――私、有動未春の意識はそこで、ぷつりと途絶えた。
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このたびは、第1話をクリックの上、最後までお読みいただき、まことにありがとうございます!
初の恋愛ものでありますが、いかがだったでしょうか。
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感想等ございましたら、コメントしていただけるとうれしいです。
第2話も読んでいただければありがたいです。
これからもどうぞ、引き続きよろしくお願いいたします。
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