第3話 竜脈の守護
ションホルたちヒュンナグ人の一行は、チャン=シュンの屋敷があるハンダンの町を
そこはチャン=シュンの叔父チャン=リァンが現在仕えているリウ=バンという人物の故郷で、リウはそこを
チャン=シュンはざっくりと南へ千里(1
リウという男は、いい年をして遊び人暮らしをしていたが、親分肌で人望があり、フォンの近くのペイという町で役職に
しかしある時、
そんな彼の
ちょうど
そして現在、より大きなフォンの町を手に入れようとして、攻めあぐねている状況だという。
「誤解しないでいただきたいのですが、フォンの町を力ずくで
ションホルと対面し、そのように豪語したのは、年の頃は四十前後、整った顔立ちでいかにも
もっと若い頃は、女性と
これがチャン=シェンの叔父のチャン=リァンで、さすがに甥と叔父の間柄だけあってよく似ている。
彼の左隣、ションホルの真正面に
こちらが、チャン=リァンが仕えるリウ=バンという男だ。
リウのさらに左隣には、二人より若干
ションホルたちと同行したチャン=シュンの
名はシァ=ハーといい、見た目のとおりペイの町で役人をしていたのだが、リウが兵を起こした際、
リウの背後には、
ファン=クァイという名のこの男は、リウの護衛役であるが、同時に彼とは古い付き合いで、親友の間柄なのだとか。
一癖も二癖もありそうな連中にさっと目をやって、ションホルは尋ねた。
「なるほど。力攻めを避けておられるのは、やはり犠牲が大きいからですか?」
「仰るとおりです。我々の兵力ももちろんのこと、フォンの兵力も、できることなら損なわずに手に入れたい。そのための仕込みに、少々時間を取られてしまいました」
「仕込み、ですか」
「はい」
そう言って笑うリァンの表情は、どこか無邪気に見えた。
「わかりました。それで、私たちはどのようなお手伝いをすればよろしいのですか?」
ションホルの問いに答えてリァンが語るところによれば、フォンの町には不相応なほどに太い
「はあ。では、その
ションホルは内心首を傾げた。
彼も、ボルドゥの
その知識によれば、都市に通じる
フォンの場合、都市の規模がそう大きくないので、
しかし、一度
つまり、フォンの町を手に入れて新たな拠点にしようと考えているのなら、
それでもやるというのだろうか。
「ご心配にはおよびません。そのあたりのことは考えております」
リァンが自信ありげに言う。
まあ、別に自分たちがフォンの町に入るわけでもないしな、お手並み拝見と行こうか、と、ションホルは少し突き放した目で見ることにした。
「それで、
普通は、砦を築くなどして
ただ、リウたちの陣に入る前にフォンの町を遠めに見たが、それらしき守備施設は見当たらなかったように思うのだが。
「人の手による守りはほとんどありません。フォンに通じる
フォンの町の北側に、小高い丘があり、そこには古くから巨大な
長さは二十
「えっ、それってまさか位の高い竜なのでは?」
思わずションホルは尋ねた。
もちろん、それほど大きな蛇がただの蛇なはずはなく、おそらく竜の
そして、
もっとも、以前聞いた話だと、それも彼女の真の姿というわけではないのだそうだが、ならばその白蛇も、真の姿を隠していないとも限らない。
「いえいえ、そこまで
やはりその白蛇を倒すつもりでいるらしい。
「竜」と聞いて身構えてしまうのは、ションホルが竜神の里の生まれだから、というのも確かにあるのだが、それにしてもこの
「それに、
そう言って、チャン=リァンは左のシァに視線を向けた。
シァは無言で頷き、
包みをほどいてリウに差し出したそれは、
宝玉で飾り立ててあり、抜き放たれた刀身は霜が降りたかのように冷たく冴え冴えとして、よく見ると何か文字が刻んである。
リァンが言うには、「
「甥に頼んで作らせた剣です。これがあれば、
ションホルが見るところ、確かに魔力を
しかし、それが位の高い竜に通用するほどのものなのかどうかは、ションホルにはわからない。
少なくとも、
チャン=リァンは自信ありげだし、リウも彼に全幅の信頼を寄せているようだ。
リウは思いのほか気さくな様子で、ションホルに頭を下げて頼んだ。
「
まさか竜と戦わされる羽目になるとは――。
しかし、今さら後には引けない。
内心戸惑いつつも、ションホルは首を縦に振るしかなかった。
会談を終えて、ションホルはシァの案内でリウ軍の陣を見学させてもらった。
逃亡者たちの寄せ集めながら、それなりに規律は保たれているようで、訓練にも熱が入っている。
リウの人望のなせるわざなのか、あるいはリァンあたりが明確な目的意識を持たせたからなのか。
そして、いくつかに分けられた部隊の中には、魔法――
なので、こんなところにたいした術が使えるような者はそうそういないはずなのだが……。
「水は火に
隊の者たちが何やら呪文めいた文句を唱和している。
どういう意味なのかとションホルが問うと、シァが説明してくれた。
「
「はあ、そうなのですね」
ションホルは
草原の民の魔法は、
「妙なことになったなあ」
その夜、割り当てられた幕舎でションホルから話を聞かされて、ムンバトは呆れたように呟いた。
彼は竜神の里出身ではないが、現在主君と仰ぐジムス王の妃の正体はもちろん知っている。
瑠璃色の髪に琥珀色の瞳、一見すると愛くるしい美少女にしか見えない
そして、そんな存在を妻にしてしまったジムス王に対しては、正直なところ尊敬半分呆れ半分といったところだ。
「大丈夫、なんだよな? まさか王妃様に匹敵するほど位の高い竜だったりは……」
「いや、俺に聞かれても困るんだが……。まあ、リウ殿たちも元々はフォンの出身なんだし、その白蛇がどの程度の存在なのか、わかってないはずはないだろう。その上で、十分倒せると踏んでいるのなら、信用するさ」
そう言いつつも、ションホルは我知らず懐に手を入れて竜神の鱗を握りしめた。
出立の際、サラーナに頼まれたからと言って
致命傷を負うことになろうとも肩代わりしてくれるだけでなく、災いを未然に
それに、彼女はこんなことも言っていた。
「よもや関わり合いになることは無いとは思うが、もし万が一、
そう考えると、多少は気が楽になるションホルだった。
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