第8話 進化

 雑貨屋にスライム核を納品し、大量に余っているスライム液を売り払ったことで俺の懐は暖まった。市場でモンスターたちの餌を買った後、街中の鍛冶屋を見て回った。


(ドワーフ店主の店が一番安い…)


 ドワーフ店主の店より安い店は発見できなかった。また、他の鍛冶屋でドワーフは見なかったので、もしかしたらドワーフ店主の鍛冶屋は特別な店なのかもしれない。


◇  ◇  ◇  ◇


「いらっしゃい兄ちゃん、また来たのかい!」


 ドワーフ店主の威勢のいい声に出迎えられた。もう顔も覚えられており、装備品の値段的にもしばらくお世話になることが決まってしまったようなものだ。


 スライム液で少々懐が暖まったからといって、全身防具をそろえられるほどの財産は俺にはない。しかし、一部位なら買える。兜か腰当の2択で迷っていたが…


「残念やけど、兄ちゃんの頭だと特注の兜になってしまうわ。」


 そう、俺の頭にはでっかい角が生えている。胴装備は虫人用の物があったのでそれでよかったが、現在俺の頭の形状に合う兜は置いてないそうだ。仕方ないので、腰当を購入し、特注の兜だとどれくらいの金額かかるか店主に聞いてみた。


「今、鉄も皮も高騰しとるからな~。多分だが、今作ると胴と腰当足しても買えないくらいの金額になってしまうぞ。」


「そんな…」


「…いつもなら断っとるんだが、俺と兄ちゃんの仲だし今回は特別だ!皮はさっき持ってきてくれた分があるから、兜分の鉄を持ってきてくれれば、格安で作ったるわ!」


 店主と雑談に興じていたおかげか特別待遇を受けることができそうだ。


【『鉄鉱石の採取』

 鍛冶屋は鉄が足りず、困っているようだ。

 鉄鉱石を納品しよう。

 達成率: 0/20 】


「ところで、鉄鉱石ってどこで手に入るんですか?」


「最近ダンジョンが街のど真ん中にできただろ、あそこの上層で手に入るらしいぞ。」


 またもや親切に鉄鉱石の採取場所まで教えてもらい、さらに採取用ピッケルまでおまけでもらってしまった。店主に別れを告げ、俺は『怪虫迷宮』へと向かった。


◇  ◇  ◇  ◇


「人多いな!」


 『怪虫迷宮』はプレイヤーであふれかえっていた。都市の外でプレイヤーを全然見なかったため、不思議に思っていたが多くのプレイヤーはダンジョンアタックをしていたらしい。


「今、鉄鉱石売ると高く買い取ってくれるらしいぞ!」


「金策♪金策♪」


「この金で装備を整える!」


 などなど、話を聞くと金策でダンジョンにみんな潜っているようだ。


「よし、俺も行ってみるか!」




 ダンジョンに入ってみると、皆、光っている採取ポイントを一心不乱にピッケルで叩いている。


(残ってる採取ポイント無いんだけど…)


 採取ポイントは軒並みプレイヤーがいるため、空いているポイントが全くない。

仕方なく、人がいない方へと向かった。


「おーい、そっちはモンスターが出るぞ!」


 人がいない方向の分かれ道へと進もうとすると、一人のプレイヤーが声をかけてきた。なんでも、モンスターがたまに来るせいで採取を中断することになり、効率が普通の採取ポイントよりかなり悪くなるらしい。モンスターは普通のゴブリンとのことだ。


(角ウサギとクリアスライムに撃退を任せればいいんじゃ…)


 親切なプレイヤーに礼を言いつつ、何とかなるかもしれないから、一度試してみることを伝え、俺は分かれ道に向かった。


(誰もいないな、ゴブリンはいるけど。)


 親切なプレイヤーが言っていたとおり、ゴブリンがまばらに歩いている。『怪虫迷宮』なのにゴブリン?とは思うが、一応戦ってみる。


ゴブリン(Lv.1)

LANK:1

――――――――

HP(体力):20

MP(魔力):1

ATK(攻撃力):4

AGI(素早さ):2

DEF(防御力):4

スキル:―――


 スキルが無い分角ウサギよりも弱く、動きもあまり早くないのであっという間に倒すことができた。


(これなら任せられるな!)


「俺の背中は預けたぞ!」


―キュ!― 、 ―プルン―


 …まあ、クリアスライムには耳も口も見当たらないので指示が理解できているかわからないが、角ウサギが何とかしてくれるだろう。




―カツーン、カツーン―


(やっと半分集まったか。)


 30分ほど一心不乱に掘っているが、やっと半分といったところだ。石や岩ばかりで肝心の鉄鉱石はほとんど出ない。角ウサギたちに餌でもやりながら、少し休憩しようかと振り返った瞬間のことだった。




―ピカーン―


 角ウサギが光りだしたかと思うと、二回りほど大きくなって光の中から現れた。


「えっ、進化?」


 前よりも毛並みが良くなり、さすがに抱きかかえるには相応の覚悟が必要なサイズになった新・角ウサギがこちらを見つめる。


二角ウサギ(Lv.1)

LANK:2

――――――――

HP(体力):80

MP(魔力):18

ATK(攻撃力):22

AGI(素早さ):31

DEF(防御力):17

スキル:突進


(え、二角?…ホントや。)


 一見、普通の角ウサギのでかいバージョンだが、もふもふの毛に隠れて小さい角が生えている。


(このままでかくなっていくと食費がすごいことに…)


 現実のウサギだと餌やりは1日2回くらいでいいらしいが、モンスターのためか1日2回どころではない回数食事を要求してくる。しかも食べる量も多い。餌をやらないと拗ねてしまうので仕方なくあげているが、金策を本格的に行わないとモンスターの食費によって破産してしまうかもしれない。


 俺は厳しい現実に直面していることを認識し、ミッション納品数以上の鉄鉱石を集めて食費の足しにすることを決めた。

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