第3話 少女は、無属性魔法の使い方を知る

 放課後、私は旧校舎に来ていた。

 今回は、私事で来たけれど、今日の授業で使った資料をついでに戻すことになっていた。


「あっ! レイラ! 来るのが早かったね」

「魔法が使える様になるなら、早く来ても損はないと思って」

「それもそうだね。それで、それは?」


 私が抱えているものに指を差しながら聞いてくる。


「これはね、今日の授業で使った資料だよ」

「これって水晶? だとしたら、魔力量でも測定したの?」


 私が資料を片付けようとしていると、横から手が入ってきて水晶を持ち上げようとして、すり抜けた。

 でも、スティー君はそんなことを気にしてもいないようで、指をさす。

 きっと、霊体だから現実のものに触れられないのかな。

 あえて、それを聞くのもあまり印象が良くないと思うから聞かないけれど。


「うん、そうだよ。やっぱり魔法の適性、無属性だったよ」

「そっか。魔力量はどうだった? あ、言いづらかったらいいよ、言わなくても……」


 気を使ってくれたのか、答えなくてもいい選択肢を出してくれた。

 だけど、知られて困るわけでもないのと、これから魔法を教えてもらう都合上教えておいた方がいい気がする。


「えっとね、魔力量は10万だったよ」

「レイラってそんな高かったの!? 無属性の魔法使いは、魔力量が他の人よりも多いけど、そこまでだとは思ってなかったな」


 私の話を聞いて驚くスティー君。

 スティー君が言っている、無属性の魔法使いが魔力量が多いという情報は私が調べた限り、なかった。

 とはいえ、スティー君が嘘をついているようには見えない。

 きっと、また魔法を教えてくれる時に伝えてくれるだろうな。

 でも、歴史上の無属性魔法使いは魔法が使えたのかもしれないけれど、私はまだ使えないからどれだけ多くの魔力を持っていても、宝の持ち腐れな気がする。


「大袈裟だよ。それに、魔法が使えなきゃ意味ないと思うから……」

「それも今日で終わりだけどな」


 自信満々にそう言うスティー君。

 確かに、これから魔法を教えてもらうのに私自身が自信を持たなかったらそれこそ意味がないもんね。


「! そうだね」


 ◇ ◇ ◇


「じゃあ、まずは『魔法』ってどんなものか教えてくれる?」

「魔法は、自分の持っている魔力を使って色々な現象を起こすこと、だっけ」


 私たちは、資料を片付けてから、教室の床に座って魔法の知識を教えてもらっていた。


「そうだね。じゃあ、『属性魔法』についてそれぞれ知っていること話してもらってもいいかな」

「えっと、まず火属性は火や炎とかの火系統を生み出して操る魔法で、風属性は風を生み出して操る魔法、水属性は水や氷を生み出して操る魔法、土属性は土や石を生み出して操る魔法、それから光属性は治癒系統や魔物の浄化魔法が使えて、闇属性は影を操る魔法を使えることかな。それで、それぞれ攻撃魔法と防御魔法があることもで、詠唱や魔法陣を覚えて魔法を構築することで魔法が発動することもかな」


 私は、7属性についての知識を全て話したか、右手から順に指で数えながら話した。


「うん。ちなみに無属性魔法はどんな魔法か分かる?」


 無属性魔法については、他の属性よりも私の魔法適性だったから、沢山調べたけれど全然分からなかった。

 本当に、情報という情報がなくって、実践で使えないどころか魔法の発動の仕方すら分からなかった。


「無属性魔法は、珍しい魔法としかどの本にも書かれていなくって分からないんだよね。だから、魔法陣も詠唱も知らなくて……」

「そっか。取り敢えずレイナ、属性魔法については捕捉しないといけないところとかが沢山あるんだけど……どこから話そうかな」


 考え込むようにして腕を組んで右手を顎に当てるスティー君。

 魔法の適性を知る前から、魔法については家にあった本をたくさん読んだり、兄様とか姉様とか家族に聞いて勉強していたんだけど……ちょっと、ううん、かなりショックだな。


「? そんなに駄目だった? でも、殆どの書物の内容を簡単にまとめるとこんな感じだったけれど」

「駄目ってわけじゃないんだけど、まぁこれは時代が立ってしまったから仕方がないことなのかもしれないな」


 それから、無属性魔法がどんな魔法で、どうやって使うのかとか特性とかを教えてくれた。

 話が長かったので、まとめると、第一に、無属性魔法は唯一、ゼロから魔法を創り出すことができる属性で、使い方次第では全属性扱えているのと同じようにすることができるらしい。

 そして、魔法を創るにはその人の魔法に対しての知識量が多く、魔法のイメージがしっかりと出来ていないと創れないらしい。

 他の人……他の無属性魔法の使い手が生み出した魔法を使うには、その魔法の構造や意味を完全に理解しないと魔法が発動しないのだそう。

 その代わりに、構造を理解することで、他の属性ならば何年もの実践や経験で出来るようになる『詠唱破棄』も初めて発動する時点で出来るとのこと。

 他にも、無属性以外の魔法使いが生み出したとされている魔法は、大体が無属性の魔法使いが編み出した魔法を元に応用して創り出したとか、無属性を扱える人は、本来目に見えない存在――精霊や妖精との相性がいいだとか色々教えてくれた。

 精霊と相性がいいって言うのが本当なら、幼い頃、お父様が言っていた『魔法の申し子』っていうのも本当なのかな。


「じゃさ、昔は魔法使いの人口が今よりも少なかったことは知ってる?」

「うん、知ってるよ。確か今は、世界の総人口の三分の一が魔法使いだけど、昔――1000年前だったら千分の一程度しかいなかって書いてあった気がする」


 それが、どうしたんだろう?

 魔法に関係はしているけど、無属性魔法に関係しているようには思えないし。


「その通りだよ。じゃあ、なんで魔法使いの人口が増えたんだと思う?」

「魔法使いが増えた理由? 言われてみれば、何でなんだろう」

「それはね、元々魔法使いとされていたのが今でいう『無属性魔法』を扱える人のことをさしていたからなんだよ」


 昔の魔法使いは『無属性魔法』を使える人限定だった? そんな話、聞いたことも読んだこともないけど……。

 でも、スティー君って見た目は少年って感じだけど、幽霊だから意外と長生きなのかもしれない。

 あ、もう亡くなってしまってるから、長生きではないのかな。


「え? なら、他の属性を持っている魔法使いは、魔法使いじゃなかったってこと? でも、だとしたらなんでそんな魔法使いを減らすようなことをしたんだろう」

「それは、他の属性が見つかっていなかったからなんだよ。昔は無属性魔法しか見つかっていなくて、たまたまその時代の魔法使いと言われている人が魔法を使えないとされていた一般人に魔法を教えたら使えてしまったことで、他の属性が見つかったというわけだからね」


 そんなことがあったんだ。

 歴史の書物とかにはそんな話描かれていなかったけれど、1000年も昔のことだとさすがに分からないのかな。


「そうだったんだ。じゃあさ、昔、使える人が一人しかいなくて固有属性と言われていた結界魔法とか雷属性とかも探したら魔法が使えないとされている三分の二の一般人の中にいるかもしれないってこと?」

「だと思う。まぁ、この世界に生きている生き物には必ず魔力を持っているから、使い道がないことはないと思うしね」

「だとしたら、学会に発表してもいいレベルだと思うのに、何で生前に発表しなかったの?」

「学会で発表してもよかったんだけれど、それには調査とか準備とか色々と時間とか労力とかが沢山かかるから……ちょっと面倒くさくて、ね」

「それぐらいのことで、せっかくのチャンスを逃すなんて……」


 スティー君に聞こえないように小さな声でつぶやいた。

 私なら、絶対発表するのに。

 だって、それで「魔法を使いたい」と思っていても適性がないからと突き返されてしまった人たちにも希望があるんだよ、ってことを教えてあげられるから。

 私と同じ思いをする人が少しでも減ってくれるなら、私としては嬉しいことだし。


「今なんか言った?」

「うぅん。なんでもないよ。それよりもさ、魔法をそろそろ教えて欲しいなぁ、なんて」


 聞かれてしまうと、ちょっとばかり答えづらくて、つい話をそらしてしまった。

 でも、今日は魔法を使えるようになるために早く来たんだから、言っていることは間違ってはいないよね?

 確かに、私は魔法の知識を蓄えるっていうか、勉強するのは好きだけれど、魔法を使えるという長年の念願が叶うのなら、私は魔法を教えて欲しい。


「分かった。えっと、レイラは何の魔法を使ってみたい?」

「何の魔法、かぁ。何が良いかな」


 そういえば、何にも考えてなかったなぁ。

 でも、空とか飛べるようになったら楽しそう……じゃなくて、助けが必要な人がいるときに馬車とかよりも早く着くと思うからやっぱり、あの属性にしよう!


「じゃ、じゃあ、風属性の魔法が良いかな。空とか飛べるようになりたいから」

「了解。でも、まだ空を飛ぶには早いと思うから、そうだな……ウィンドカッターあたりが良いんじゃないかな」

「そっか。うん、スティー君がそういうならウィンドカッターを教えてもらってもいいかな」

「もちろん。そういう約束だしね。じゃあ、まずは魔力の流れとかって分かったりする?」


 魔力の流れは、魔力量を測定するときに水晶に何かを吸われている感覚があったから、きっとそれのことなんだろうな。


「なんとなくでしか分からないかも」

「そうなると、魔力を循環させたり、手に集めたりなんとなくでいいからやってみて欲しいんだけど。確か、魔力はお腹あたり集まりやすかったはずだから、その辺を意識してみると良いと思うよ」


 私は、目をつむり集中するために深呼吸をする。

 魔力の流れ……魔力の集まっているのがお腹あたりにあるって言ってたな。

 なんか温かいものがある気がする。これが、魔力なのかな。

 これを全体に流すような感じで意識して、手に集められるように魔力量を調節して、と。


「そうそう、そんな感じ。出来てきてるから、次は魔法陣を理解しよっか」

「あ、これで合ってるんだ。……って、え? もしかしてなんだけど、スティー君って魔力が見えてるの?」

「見えるよ。ついでに大気中の魔素マナも見えるよ。まぁ、普段から見てたら目の負担が大きいから、見るといっても人とか動物とかの魔力しか見てないけどね」


 本来、生き物に流れている魔力は魔法を使わないと見えないものとされていて、それができるのは宮廷魔法師レベルにならないと出来ないと言われている。

 だから、魔力が見えているだけでも凄いことなのに、加えて常に見えていて、どれだけスティー君が規格外か、分かってくる気がする。

 それに、魔素というのは大気中にある粒子のようなもので、人の目では当然見えないのにそれも見えるってスティー君は生前何者だったのか気になる。

 さすがに、人の個人情報に関わる事だから、スティー君が言ってくれるまで待って居よう。


「魔力が見えてるのって、それも魔法だよね」

「え、違うよ。確かに魔法で見る方法もあるけど、それだと効率が悪いから……慣れで魔法とか使わずに普通に見てるかな」

「……そ、そうなんだね」


 うん。スティー君には今の世界の常識が通用しない気がしてきた。

 してきた、じゃなくて通用しないんだ。


「それで、話を戻すけど魔法陣の構造を理解しないとだったよね」


 そう言いながら、ウィンドカッターの魔法陣を構築し私に見せてくれる。


「魔法陣には、使っている記号や文字、位置など全てに意味がある。このことは知ってる?」

「知ってるよ。確か、ここにある三角形に一本棒を引いたような記号が風を表しているんだよね。色が黄緑色に光っているのは、風属性で低級魔法だということだった気がする」

「! よく分かってるね。この様子だと文字の意味とかも分かっていそうだね。だとしたら、なんで魔法を使えなかったんだろう」


 う〜ん、と考え事を始めるスティー君。

 そもそも、無属性が他の属性が使っている魔法を使えるってことを知らなかったからしっかりとしたイメージが出来ていなかったのかも。


「ねぇ、もしかしたらなんだけど、私が魔法を使うっていうイメージがしっかりとしていなかったから、使えなかったんじゃないかな」

「それだ! 僕が今からこの魔法陣を使って、お手本を見せるからそれに続いて試してみて」


 スティー君は、何もなかったところから厚さ一センチの木でできている円形の的を二つ出してそれを遠くへと横に並べて配置する。

 外から見ると、的が勝手に浮いて自分の意志で動いているように見えるが、実際はスティー君が魔法を使って動かしているんだと思う。

 それに、今『異空間収納』という誰も扱うことのできない伝説上の魔法を使ったように見えたんだけど、きっと気のせいだよね。

 その後、準備していた魔法陣を使って『ウィンドカッター』を発動させる。

 すると、ウィンドカッターは真っ直ぐ飛んでいき、的に当たると的を真っ二つにして消えた。


「ほら、レイラもやってみな。あの的に狙って」

「う、うん」


 いざ私がやる番になると緊張してきた。

 まずは、魔力を手に集めてそこから魔法陣を構築する。

 私が魔法を放つというイメージをしっかりともたないといけないな。

 こんな感じで良いのかな。

 心配になって、恐る恐る右手を見てみると魔法陣ができていた。

 つくれてる! このまま、魔法陣に魔力を流して、と。

 魔力を流すと、魔法が発動しスティー君のときと同じように的に向かって真っ直ぐと飛んでいき、的が二つに割れた。


「で、できた! スティー君、見てた? できたよ、初めて魔法が使えた!」


 嬉しくて、思わずスティー君の両手を掴んでしまう。


「よかったね。それじゃあ、今の感覚を忘れないうちに何回かやろっか」

「うん!」


 それから、何度も的を出してもらっては、切ってを繰り返して、気が付けば周りには、切った的が数十枚落ちていた。


「流石、魔力が10万あるだけあるなぁ。全然疲れてなさそう。それどころかなんかどんどん威力が増していっている気がするし……」


 私が、今出されていた的を切り終わったところで、スティー君が何かぼそぼそと言っていた気がした。


「スティー君、今なんか言った?」

「なんでもないよ。ただの独り言」

「そっか。新しい的、出してくれる?」

「えっ? まだやるの?」


 驚いた顔をしながら、的を出してくれる。


「うん。だって、楽しいから」

「いいけど、もう時間が時間だから、あともう一セットだけだよ」

「は~い」


 あと一セットだけなのかぁ。もうちょっとやりたかったな。

 目の前を見ると横に五つの的が並んでいた。

 一つ一つ壊していってもいいんだけど、せっかくだから一度に全て切ってみよう。

 魔法陣を五つ構築して、放つ――!

 すると、ほぼ同時に的に当たったウィンドカッターは、的が切れるのと同時に消滅した。

 切れた的はというと、二つどころが四つに切れていた。


「どうだった?」

「どうだった? って、もうウィンドカッターに関してはあまり言うことはないかな」

「じゃあさ、明日は新しい魔法教えてね」

「良いよ。何が良いか考えておくよ」


『異空間収納』? を使って切り刻んだ的を収納していくスティー君。

 新しい魔法、どんなのかな。

 早く明日になってほしいと願ってしまうのはちょっと欲張りだよね。


「レイラは、早く家に帰りなよ」


 スティー君が窓の外を見るのにつられて、私も窓を見る。

 すると、さっきまで青空だったのに、既に空がオレンジ色に染まっていた。


「うん。そうするね。新しい魔法ちゃんと考えておいてよ」

「分かった、分かった。じゃあ、気を付けて帰ってね」

「じゃあね。また明日!」


 教室でスティー君と別れ、旧校舎を出た後、私は魔法が発動したことが嬉しくて、スキップしながら帰りそうになった。

 そんな私の背中をを見る小さな黒い影があることも知らずに。


「ルーのあるじに人間ごときが馴れ馴れしくして――!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る